次の戦争では陸軍の「兵站」が崩壊する危険性があり早急な方針転換が必要だとアメリカ軍参謀本部の少佐が主張

アメリカ軍の軍事戦略立案や大統領らへの助言を担うアメリカ統合参謀本部所属のジョナサン・バックランド少佐が、アメリカ軍が参戦する次の戦争では、前線への物資補給や兵員の補充などの諸活動を指す「兵站(へいたん)」が崩壊する可能性があると警告しています。
The Glass Backbone: Why the Army’s Logistics Will Break in the Next War - Modern War Institute
https://mwi.westpoint.edu/the-glass-backbone-why-the-armys-logistics-will-break-in-the-next-war/
バックランド氏は、アメリカ陸軍は過去20年間にわたり請負業者の支援や固定式の前線作戦基地がある、有利な条件下での補給線の最適化に注力してきたと指摘。兵站があまり議論の対象にならなかった一方、最新鋭の兵器開発や運用については盛んに議論されて予算もつぎ込まれてきましたが、大規模な戦闘作戦の変化によって従来の兵站では持ちこたえられない可能性があるとのこと。
これまでの戦争史を振り返っても、戦闘部隊のみを重視して兵站を軽視することの危険性はよくわかります。その典型的な例が、1941年のドイツによるソ連侵攻作戦(バルバロッサ作戦)です。この作戦ではドイツの機械化部隊はソ連の防衛線を突破し、数週間で数百kmも進軍することに成功しましたが、これにより補給線の対応能力を上回ってしまいました。
ドイツ軍最高司令部は当初、短期間の決着を想定していました。ところが、ドイツ軍がソ連領の奥深くまで進軍したことで補給に必要な距離が伸びた上に、輸送の適した舗装道路の不足や、鉄道規格がドイツのものとソ連のもので一致しないといった要因が重なり、補給線が途絶えてしまいました。その結果、進撃するドイツ軍装甲部隊は燃料・弾薬・防寒着・交換部品などの不足に見舞われ、やがて進軍を停止せざるを得ませんでした。
バックランド氏は、1941年冬にドイツ軍の進撃が止まった理由は赤軍に対する戦術的敗北ではなく、補給体制の組織的な失敗だったと指摘。「ここから得られる教訓は明白です。作戦範囲は、兵站と補給能力によって厳密に決定されるのです」と述べ、現代の軍も機械化部隊や航空部隊に注力するあまり兵站を軽視すれば、同様の過ちに陥る可能性があるとしています。

一般的なアメリカ軍のイメージは、世界最高レベルの工業力と潤沢な資金力を活用し、豊富な物資を前線に補給するというものかもしれません。実際、湾岸戦争の際にはサウジアラビアに6カ月かけて物資貯蔵庫を構築し、イラク戦争でも依然として絶対的な制空権と電磁波の優位性を享受していました。しかし、今後の戦争でも同様の優位性を確立できるとは限らないとバックランド氏は警告しています。
バックランド氏の懸念を裏付けるのが、2022年に勃発したロシアとウクライナ間の戦争です。ロシア軍の侵攻開始から間もない2022年2月、全長64kmにおよぶロシア軍の車列がキーウの北で立ち往生するという事態が発生しました。この際、ウクライナ軍は敵の先頭にいた装甲部隊ではなく、脆弱(ぜいじゃく)な燃料輸送隊や支援輸送隊を攻撃することで、機械化された装甲部隊を立ち往生させたとのこと。
近年の戦場では、広範囲にわたるセンシングや精密砲撃、そして長距離を移動するドローンシステムによって、従来の後方支援地域が事実上消滅しています。ウクライナ軍は高機動ロケット砲システム(HIMARS)を使い、前線の奥深くにあるロシアの弾薬庫や鉄道拠点を組織的に攻撃可能です。そのためロシア軍は兵站拠点をより戦場から遠ざけましたが、これによって砲兵部隊の補給速度と補給量の両方が低下し、戦闘効率が低下する結果となっています。
バックランド氏が問題な課題だと指摘するのが、大規模戦闘作戦において重要な燃料と弾薬の輸送です。特に装甲部隊は1日数万リットルもの燃料を消費するため、この量の燃料を前線に輸送するには膨大な数の重戦術車両が必要です。これらの輸送車両は大型であり、依然として防御態勢も整っていない上に、熱や電磁波の痕跡によって容易に探知されてしまいます。その結果、敵による長距離攻撃の格好の的となってしまうというわけです。
バックランド氏は、工業大国間の戦争は根本的に工業力の競争であり、膨大な量の迎撃ミサイルや精密誘導兵器を消費すると指摘。アメリカ軍にとって、これらの武器を輸送する能力は戦闘持続力に対する重大な脆弱性となっており、前線への継続的かつ安全な補給能力がなければ、最も先進的な戦闘部隊でさえもすぐに限界に達してしまうだろうと主張しています。

現代の戦争において、従来の効率性を重視した大規模な補給部隊や兵站拠点は弱点となり得ます。人員・車両・物資が集中した箇所は、常時監視システムや長距離精密攻撃システムを有した敵にとって、格好の標的となってしまうためです。
そこでバックランド氏は、アメリカ陸軍が従来の中央集権型の補給モデルから、より小規模な分散型ネットワークへと移行することを提唱しています。「補給部隊は機動大隊の戦術作戦センターと同程度の頻度で移動できる能力を備え、燃料・水・弾薬を隠ぺいされた場所に分散して貯蔵することで、現在依存している大規模な中央集積補給基地に取って代わるべきです」と述べて、電磁波の軽減および管理や、GPSが利用できない環境での作戦遂行能力はもはや必須能力だと主張しています。
また、後方支援部隊がもはや機動部隊による防御に頼ることなく、独自の防御能力を備えるべきだともバックランド氏は考えています。支援部隊に敵のドローンや長距離砲撃を撃退できるシステムを配備することや、生存能力を向上させるための兵站車両の装甲強化、危険地域の輸送を担う無人地上車両や大型貨物ドローンの導入なども有益だとのこと。
バックランド氏は、陸軍の予算要求や近代化では高度な火力や次世代戦闘能力が優先され、兵站は後回しにされがちですが、この兵站軽視の風潮を見直さなくてはいけないと主張。「将来の紛争における陸軍の成功は、どの戦車の装甲が最も厚いか、どのミサイルの射程が最も長いかによって決まるのではありません。それは、どの補給体制が執拗(しつよう)で残忍な多領域攻撃の下で生き残り、適応し、機能できるかによって決まるのです」「次の戦争では、兵站は単に勝利を可能にするだけでなく、勝利を決定づけるものとなるでしょう」と述べました。
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