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現代の男性が苦労している理由は何なのか、男女の不平等を解消するために何ができるのか?


女性の権利が向上した現代社会において、逆に男性や少年が苦労していると論じた書籍「Of Boys and Men: Why the Modern Male Is Struggling, Why It Matters, and What to Do about It(少年と男たち:現代の男性が苦しむ理由、その重要性、そして解決策)」の著者であり、ブルッキングス研究所のシニアフェローであるリチャード・リーブス氏が、一体なぜ現代の男性や少年が苦しんでいるのかについて解説しました。

Male inequality, explained by an expert | Richard Reeves - YouTube


リーブス氏は「Of Boys and Men」を書いた際、多くの人に「書かない方がいい」と警告を受けたとのこと。それほどに、少年や男性の不平等に注意を向けることは、デリケートで政治的な話題です。


リーブス氏は、世界中のほぼすべての先進国において、「女性が男性を大きく引き離す」という状況が現れてきていると主張します。女性が男性を大きく上回っている分野のひとつが「教育」です。


かつて、教育分野における女性差別は激しいものがありました。人々は教育分野における女性差別を撤廃するため、男女平等を目指して権利の拡大を図りました。


主に1970年代~80年代に行われたさまざまな努力により、女性の教育環境は男性と同等のものとなりました。しかし、これまでとは逆に「女性が男性を上回るという形で男女の不平等が再び現れる」という現在の状況を予見できた人はいませんでした。


リーブス氏は、「少なくとも教育分野で男女不平等について話す時、ほとんどの場合、女性や女子が男性や男子よりも優れている点について話すことになります」と述べています。


アメリカの平均的な学区では、女子生徒は国語(英語)の学習進度が男子生徒より約1学年分先に進んでおり、数学でも男子生徒に追いついています。高校のGPAスコアが最も高いトップ10%の生徒は、約3分の2が女子であり、逆にスコアが最も低いワースト10%の生徒は約3分の2が男子です。


24~34歳の年齢層における大学入学率は、女子の方が男子よりも10%以上高いとのこと。


こうしたギャップにより、大学の学位取得における男女格差も拡大しています。教育における男女平等を促進する法案が可決された1972年の時点では、大学の学位取得率は男性の方が女性よりも13ポイント高くなっていました。ところが現在では逆に、女性の方が男性よりも15ポイント高くなっています。リーブス氏は、「つまり今日の大学で見られる男女不平等は50年前よりも大きくなっており、状況はむしろ逆になっているのです」と指摘しています。


男女平等が促進された結果として男性の不平等が顕在化した理由として、リーブス氏は成長期における男女の脳の違いを挙げています。成人済みの男女では、脳にそれほど大きな違いがあるとの証拠はみられませんが、脳の発達タイミングについては詳しく議論されていません。一般に女子の脳は男子の脳よりも早く発達し、その大きな違いは思春期に生じます。


思春期には神経科学者が前頭前皮質と呼ぶ領域が発達します。前頭前皮質は「脳のCEO」とも呼ばれ、「パーティーに行くよりも化学の宿題をやった方がいい」「大学進学や将来に役立つものを優先するべき」「高いGPAを維持することに価値がある」といったものを判断します。


前頭前皮質の発達は、一般に女子の方が男子より1~2歳ほど発達が早いとのこと。その理由のひとつには、女子が男子よりも少し早く思春期を迎えることがあると考えられます。つまり、「宿題を提出する」「課題に取り組む」「GPAを気にする」といった能力を評価する教育システムでは、構造的に脳が早く発達したグループが有利になる傾向があり、それは平均すると女子にとって有利に働くというわけです。


女性の機会や目標を阻む女性差別的な教育システムが改善されたことで、結果として教育制度が男性にとって不利なものであったことが示されたのは皮肉だとリーブス氏は指摘。「今ではこうした上限がほぼ撤廃されたため、教育制度において不利な立場に置かれているのは男子と男性だということがわかります」とリーブス氏は述べています。


こうした状況を改善する方法としてリーブス氏は、「男子が女子より1年遅く学校に通い始めることを奨励するべき」だと提案しています。男子と女子の間では脳の発達に差があるため、男子の入学を1年遅らせることで、脳の発達的に同級生の男女が同じ教室で学べるというわけです。


また、「もっと男性教師を増やす」という方法も有効だとリーブス氏は主張しています。


教職に就く女性の割合は、時間と共に着実に増加しているとのこと。小学校1年~高校3年の子どもらを教える教師のうち男性はわずか24%で、これは1980年代の33%から減少しています。教師養成プログラムに応募する男性も年々減少しており、教育現場は男女の偏りが非常に激しい労働分野のひとつとなっています。


教育現場に女性が多いということは、学校の精神や男女への対応に影響を及ぼす可能性があります。従ってリーブス氏は、「より多くの男性を教職に就かせるために、真剣かつ意図的な努力が必要なのです」と主張しました。


そして3つ目にやるべきこととして、リーブス氏は「職業教育と訓練への投資を大幅に増やす」ことを提案しています。アメリカでは学問的で成長の道筋が狭い分野への投資は充実している一方、多くの労働者にとって重要なこれらの分野への投資は不足しているとのこと。


教育において不平等にさらされている男性や男子にとって、職業訓練への投資は大きな助けになるとリーブス氏は主張しました。


男性や男子がさらされている不平等について語る際、「4年制大学の学位を持ち、十分な収入があり、経済的に恵まれた階層にいる男性や女性」と話してもうまくかみ合わないことが多いとのこと。これらの社会的に上位の階層では、男性がさらされる不平等は顕在化しにくいためです。


一方、労働者階級や経済的地位が低い男性にとっては、これらの問題は自分事です。リーブス氏は、「階層のさらに下に位置する男性の現実はまったく異なるものです」と語りました。


男女の不平等が大きくなっているもうひとつの分野が「労働」です。


近年の男性における労働環境は、さまざまな面で下降傾向にあります。そのひとつが賃金で、2021年の男性の大半は、1979年の大半の男性よりもインフレ率を考慮した場合の収入が低いとのこと。男性の労働参加率も1980年代より8%ポイントも低下しており、多くの男性が働くことができていません。


リーブス氏は、「男子が教育を受けず、男性が技術を身につけなければ、彼らは労働市場で苦労することになるでしょう。そしてこれらすべての領域において、過去40~50年間で男性の地位は低下傾向にあります」と述べています。


トップの男性や女性は依然として優れた成績を上げ続けていますが、それは低所得家庭や労働者階級の男性および男子、さらに黒人の男性や男子には当てはまりません。これらの人々は社会的・経済的変化の厳しい影響を受けているとのこと。


過去数十年にわたり、社会は女性のSTEM分野への進出を促進することに成功してきました。STEMとは「Science・Technology・Engineering・Mathematics(科学・技術・工学・数学)」のことです。


一方、リーブス氏はSTEMよりも重視するべき労働分野として、「HEAL」というものを挙げています。HEALとは「Health・Education・Administration・Literacy(健康・教育・行政・読み書き)」の略語であり、多くの仕事はHEALの分野に含まれます。


特に健康分野や教育分野は、アメリカにおいて最も巨大かつ成長している分野です。リーブス氏の推定によると、2030年までにSTEM分野で創出される雇用1人に対し、同期間にHEAL分野で創出される雇用は3人だとのこと。つまり、HEAL分野の大きな労働市場を活用することが、男性の労働問題を解決する可能性を秘めているというわけです。


しかし、HEAL分野における男性労働者の割合はわずか24%であり、年々その比率は減少しています。特に心理士に占める男性の割合は非常に低く、30歳未満の心理士のうち男性はわずか5%だとのこと。


これらの仕事は社会にとって非常に重要であるため、男女の多様性がある方が有益だとみられますが、現実はそうなっていません。リーブス氏は、「男性をHEAL分野の仕事に就かせるための努力がまったく行われていません。HEALの仕事にこそ将来があると私は考えていますし、男性の転職を支援するべきだと思っています」と語りました。


そして男性が直面する3つ目の問題が「家族における父親」の消失です。


アメリカでは親が離婚したとき、子どもは母親が引き取るケースが多く、4人に1人の父親が子どもと暮らしていないとのこと。両親が離婚した子どもの3人に1人は、両親が別居すると数年にわたり父親にまったく会わないそうです。


男性の教育や労働の問題を総合すると、現代の男性にとって「成功した父親」になることはかなり困難な道のりといえます。


すでにアメリカでは、5世帯のうち2世帯で女性が主な稼ぎ手となっており、アメリカの女性の40%は平均的な男性より収入が高いとのこと。これらはすべて喜ぶべき変化ですが、同時に「父親」の存在的意義について疑問を投げかけています。


リーブス氏は、「私たちが『稼ぎ頭の父親』という時代遅れのモデルから抜け出さない限り、家庭生活から取り残される男性がますます増え続けることになるでしょう」と述べています。


また、父親がいない家庭の男子は同じ立場の女子よりも多くの苦しみを味わうそうで、結果として男性の不利な状況が世代を超えて再生産されるリスクがあるとのこと。


男性が教育・仕事・家庭において直面する現実的な課題は憂慮するべき問題です。実際、自殺や薬物の過剰摂取、アルコールなどによるいわゆる「絶望死」は、男性の方が女性より3倍も多くなっています。自殺単体では4倍も多くなっており、この傾向は特に若年層と中年層で顕著です。


自殺した、あるいは自殺を企てた男性を対象に、「自らを説明するために使った最後の言葉」を調べた研究では、リストのトップに「Worthless(価値がない)」「Useless(役に立たない)」といった言葉が並びました。


リーブス氏は、「多くの男性が『自分は必要とされていない』と感じられるような社会を作ったら、『絶望死』する人が出てくるのも不思議ではないと思います」「私たちには社会として、男性も女性も一緒になって、男性と男子たちが新しい世界に適応できるように支援する文化的責任があります」と主張しました。

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in 教育,   動画, Posted by log1h_ik

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