鳥インフルエンザウイルスは高温耐性があり人類にとって重大な脅威となる

ケンブリッジ大学とグラスゴー大学の研究チームが「インフルエンザウイルスの温度感受性を決定する遺伝子」を特定したと発表しました。鳥インフルエンザウイルスは、人間が発熱したときよりも高い温度で増殖可能であり、ウイルス同士は重複感染時に遺伝子交換を行うことがあるため、今回の発見はパンデミックの原因解明などに役立つとみられています。
Avian-origin influenza A viruses tolerate elevated pyrexic temperatures in mammals | Science
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adq4691
Bird flu viruses are resistant to fever, making them a major threat to humans | University of Cambridge
https://www.cam.ac.uk/research/news/bird-flu-viruses-are-resistant-to-fever-making-them-a-major-threat-to-humans

Bird flu viruses are resistant to fever, making them a major threat to humans
https://medicalxpress.com/news/2025-11-bird-flu-viruses-resistant-fever.html
学術誌・Scienceに掲載された論文で、研究チームはウイルスの温度感受性を決定する重要な役割を担う遺伝子を特定したことを明らかにしました。
インフルエンザウイルスはA型、B型、C型、D型に分けられ、このうちよく流行しているのはA型です。一口にA型インフルエンザウイルスといっても亜型が多数存在していて、水鳥は基本的に腸管内にA型インフルエンザのいずれかの亜型を保有していますが、感染しても発症することはありません。しかし、変異するうちに、感染した鳥が遅くとも10日以内にほぼ致死率100%で死亡するという「高病原性鳥インフルエンザ」を発症させる力(病原性)を得ることがあります。このため、「鳥インフルエンザウイルス」という名称のウイルスがあるわけではなく、「鳥に感染するA型インフルエンザウイルスをまとめて鳥インフルエンザウイルスと呼ぶ」と農林水産省は定義しています。
鳥インフルエンザについて知りたい方へ:農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/tori/know.html
人間の間で流行するインフルエンザウイルスは約33℃の上気道で増殖しやすい一方、約37℃の下気道では増殖しにくいことがわかっています。一方、鳥インフルエンザウイルスは下気道で増殖しやすい傾向があり、アヒルやカモメといった自然宿主の場合は40℃~42℃に達する腸管が感染部位となる事例が多く確認されています。そして、培養細胞を用いた先行研究により、鳥インフルエンザウイルスはヒトの発熱時の体温に耐性を持つことがすでに示されています。
今回、研究チームは「インフルエンザに感染したマウス」を用いて、発熱反応を再現しました。マウスは通常、ヒト由来のA型インフルエンザウイルスでは発熱しないため、研究チームは飼育環境の温度を上げてマウスの体温を上げ、ウイルスに対する発熱効果を模倣しました。
その結果、発熱は一般的なインフルエンザウイルスの増殖を阻止するのには有効であることが確認されました。また、感染細胞内でウイルスゲノムが複製される際に重要な役割を果たす「PB1」という遺伝子がウイルスの温度感受性の鍵を握っていることも明らかになりました。
一方、発熱による高温を鳥インフルエンザウイルスは耐えきり、マウスは重篤な状態になったとのこと。ヒト由来のインフルエンザウイルスと鳥インフルエンザウイルスは、たとえば同時に豚に感染した場合、宿主内で遺伝子を交換する可能性があるため、今回の発見は重要なものだと研究チームは述べています。
論文の筆頭著者であるグラスゴー大学ウイルス研究センターのマット・ターンブル博士は「ウイルスが遺伝子交換を行う能力は、新たなインフルエンザウイルスにとって継続的な脅威の源となります。1957年や1968年に発生したパンデミックでは、ヒト由来ウイルスが鳥インフルエンザ株とPB1遺伝子を交換した事例が確認されています。この現象が、当時のパンデミックで深刻な病態をもたらした理由を説明する一助になる可能性があります」と語りました。
責任著者でケンブリッジ大学ケンブリッジ治療免疫学・感染症研究所のサム・ウィルソン教授は「幸い、人間が鳥インフルエンザにかかりやすいという傾向はありませんが、それでも年間数十件の感染例があります。鳥インフルエンザに感染した人間の致死率は、歴史的なパンデミックとなったH5N1の事例で40%以上と、懸念されるほど高い数字です。鳥インフルエンザウイルスが人間に重篤な症状を引き起こす原因を理解することは、パンデミック対策と警戒にとても重要です」と語っています。
なお、今回の研究結果はインフルエンザの治療に影響を与える可能性があるものですが、イブプロフェンやアスピリンといった解熱薬を用いた治療は必ずしも有益ではなく、A型インフルエンザウイルスの増殖を促進してしまう可能性すらあるという臨床的証拠が存在することから、研究チームは治療ガイドラインの変更を検討する前にさらなる研究が必要だと強調しています。
ちなみに、鳥インフルエンザウイルスは海鳥経由とみられる経路でアザラシにも感染しており、大量死が報告されています。
南米パタゴニアでゾウアザラシ大量死 鳥インフル広がる - 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN16DWC0W4A110C2000000/
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in サイエンス, 生き物, Posted by logc_nt
You can read the machine translated English article Avian influenza viruses are heat-resista….







