サイエンス

脳科学実験からわかった「じゃんけんに勝つためのコツ」とは?


グー・チョキ・パーという出した指の本数で勝敗を決める「じゃんけん」は、日本のみならず世界中で行われているゲームの1つです。ウェスタンシドニー大学の研究チームが、このじゃんけんにおける人間の意志決定プロセスを脳科学の観点から調査した結果を報告しています。

Neural decoding of competitive decision-making in Rock–Paper–Scissors | Social Cognitive and Affective Neuroscience | Oxford Academic
https://academic.oup.com/scan/article/20/1/nsaf101/8269262

Even in a simple game, our brains keep score – and those scores shape every choice we make
https://theconversation.com/even-in-a-simple-game-our-brains-keep-score-and-those-scores-shape-every-choice-we-make-267117

じゃんけんのような競争的なゲームにおいて、数学的に最も有利な戦略は「完全にランダムであること」です。もし自分の手が予測不可能であれば、相手は対抗する戦略を立てることができず、勝率は五分五分に収束するはずだからです。しかし、人間にとって完全にランダムに振る舞うことは非常に困難であり、無意識のうちにパターンやバイアスが生じてしまうことが知られています。


ウェスタンシドニー大学の研究チームはこの現象を深く掘り下げるため、62名の参加者にペアを組ませて、コンピューター化されたじゃんけんを合計480回行わせる実験を行いました。じゃんけんは2秒間の「意思決定フェーズ」、2秒間の「回答選択フェーズ」、そして1秒間の「結果表示フェーズ」という構成で進められ、各段階での脳内情報を詳細に分析できるように設計されています。

この実験では、「ハイパースキャン」と呼ばれる手法が用いられました。従来の社会脳科学の研究の多くは、単独の参加者の脳活動を測定するものでしたが、ハイパースキャンでは「相互作用している2人の脳活動」を同時に記録します。これにより、協力や競争といった社会的な文脈の中で、脳がリアルタイムにどのように情報を処理しているかを捉えることが可能になるというわけです。

実験から得られた行動データの分析からは、人間がランダムになりきれない具体的な傾向が浮き彫りになりました。理論上はグー・チョキ・パーの各手が33.3%の確率で選ばれるべきですが、実際の参加者は「グー」を過剰に選択する傾向があり、最も選ばれた手としてグーを挙げた参加者の割合は51.61%に達しました。一方で「チョキ」を好む傾向が最も低く、わずか14.52%でした。また、前のゲームの結果にかかわらず、多くの参加者が次の手を変える傾向が見られ、ここにもバイアスが存在していたとのこと。


さらに研究チームは、脳波データに対して「多変量パターン解析」という高度な分析手法を用い、脳活動のパターンからプレイヤーの思考を解読することを試みました。その結果、プレイヤーがボタンを押して手を選ぶ前の「意思決定フェーズ」の段階ですでに、脳内の電気信号から次にどの手を出すかを予測できることが判明しました。これは、意識的な行動が起こる前に、脳内で意思決定のプロセスがリアルタイムで進行していることを示しています。

また、最終的に多くの試合に勝利した「勝者」と、負け越した「敗者」の脳活動を比較したところ、負け越した敗者の脳に「意思決定の最中に『前のゲームで自分が何を出したか』および『相手が何を出したか』という過去の情報」が強く残っていたとのこと。一方で、勝者の脳内からは、こうした過去の履歴に関する情報は検出されませんでした。


この結果は、競争的な状況における「記憶」の役割について重要な示唆を与えていると研究チームは指摘しています。一般的に、過去の情報を学習することは生存や協力において有利に働きますが、じゃんけんのようにランダム性が最適解となる競争においては、過去の結果に引きずられることがかえって不利になるといえます。敗者は無意識のうちに「前回相手はグーを出したから、次は…」といった推測を行い、その結果として自身の行動がパターン化され、相手に予測されやすくなってしまったというわけです。

人間の脳は完全な乱数を生成するようにできておらず、常に過去の出来事から未来を予測しようとする性質を持っています。協力関係を築く上では、相手の行動を予測し、自分の行動を予測可能にすることは有用ですが、じゃんけんのような完全ランダムが最も有利である場合はその脳の習性が仇となります。研究チームは、「じゃんけんに勝つための秘訣は、過去の勝ち負けや相手の手を分析しすぎず、思考を今に集中させて過去を忘れることにあるのかもしれません」と論じました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
43連勝の記録を持つ「じゃんけんプロ」が語る「運に頼らずに勝つ方法」とは? - GIGAZINE

eスポーツの試合が続行不可能になり「じゃんけん」で決着がつけられるという事件が発生 - GIGAZINE

勝率100%の「じゃんけんロボット」がさらにパワーアップして「バージョン3」に - GIGAZINE

「じゃんけん必勝法」を心理学者が発表 - GIGAZINE

in サイエンス,   ゲーム, Posted by log1i_yk

You can read the machine translated English article What are the 'tips to winning rock-paper….