サイエンス

一部のイヌはおもちゃに対して行動依存症に似た反応を示す


イヌは遊び好きな動物であり、特におもちゃで遊ぶことを楽しむことが知られています。しかし、一部のイヌはおもちゃに対して非常に強い執着を示し、その行動が人間の行動依存症に似ている可能性が最新の研究で示唆されました。

Addictive-like behavioural traits in pet dogs with extreme motivation for toy play | Scientific Reports
https://www.nature.com/articles/s41598-025-18636-0

そもそも遊びとは何か、という問いに対する答えは未だに謎に包まれていますが、動物が狩猟・交尾・戦闘など、種の維持に必要不可欠な行動を安全に訓練するための手段ではないかと考えられています。遊びの行動は若い哺乳類や一部の鳥類によく見られますが、ヒトやイヌといった比較的大型の脳を持つ動物種では、生涯を通じて遊びの行動が見られます。特にイヌは人間と長い歴史を共有しており、遊びを通じて人間との絆を深めることが知られています。しかし、意図的な実験的誘導なしに自発的に依存症性行動を示すと思われる種は、人間を除けば飼いイヌだけです。中には「ボールジャンキー」などと呼ばれる、おもちゃに対して非常に強い執着を示すイヌも存在することもよく知られています。ただ、このような高報酬な行動が人間においては強迫観念に似た行動依存症を引き起こすことがあることから、イヌにおいても同様の懸念が当てはまる可能性があります。


イヌの「おもちゃへの過剰なモチベーション」が調査され、遊びへの意欲が高いイヌが、渇望・顕著性・自制心の欠如・気分の変化といった行動依存症を示す特徴的な基準を満たしているかどうかが検証されました。調査対象として遊びへのモチベーションが非常に高い105匹のイヌが選ばれ、行動テストと飼い主へのアンケートが実施され、全体の3分の1に近い33匹のイヌが「おもちゃへの過度の執着」や「他の刺激への反応の低下」など、依存症のような傾向を示しました。

実験は5.22m×3.36mの実験室で行われ、木製の間仕切り壁で2つのエリアに分けられました。部屋には実験者と飼い主のための椅子2脚と棚が設置され、行動を記録するためにビデオカメラ4台で録画します。実験手順は、まず飼い主とイヌが実験室に入り、実験室に馴れるために3分間自由に過ごしました。次に、実験者は様々なおもちゃが入った箱から、飼い主にイヌが最も好むと思われるおもちゃを3つ選んでもらいました。選ばれたおもちゃの中でイヌが最も興味を示したものが、その後のサブテストで使用されました。もしイヌがどのおもちゃにも興味を示さなかった場合は、飼い主に普段家で一番興味を持っているおもちゃの種類を選んでもらいました。また、おもちゃへの執着度の対照として、またおもちゃが手に入らなかった際の代償行動の対象として、ドッグフードを仕込んだフードパズルが用意されました。


実験の手順はイヌのおもちゃへのモチベーションに関する様々な側面を評価する14のサブテストで構成されています。

 サブテスト時間関連する依存症基準コーディング
1おもちゃを選ぶ30秒おもちゃに近づこうとする熱意はどれほどか、またおもちゃに近づけた際の気分の変化はどうか
2飼い主とおもちゃで遊ぶ1分
3おもちゃに手が届かない状態で、飼い主と遊ぶ1分おもちゃに手が届かない状態でも、飼い主と遊ぶのに集中できるか
4飼い主と綱引きする1分
5綱引き後、単独で遊ぶ30秒
6飼い主と実験者のいない室内で、単独で遊ぶ30秒見知らぬ部屋に残されるストレスが、おもちゃ遊びにどれだけ影響するか
7飼い主と実験者の戻った室内で、単独で遊ぶ30秒
8投げられたおもちゃへの反応おもちゃが投げられるまでの自制心はどれほどか、およびおもちゃを手放す意思があるか
9おもちゃに手が届かない状態で、フードパズルを解く3分おもちゃに手が届かない状態で、パズルからドッグフードを得る方法を学ぶ集中力があるか
10おもちゃに手が届かない状態で、フードパズルを床に置く3分おもちゃに手が届かない状態で、代償行動(フードパズルに挑戦)を取るか、おもちゃを手に入れようとするか
11おもちゃとフードパズルに手が届かない状態にする3分
12おもちゃとフードパズルを床に置く3分
13おもちゃを手の届かないところに置く3分おもちゃに手が届かない状態で、リラックスしたり他の行動を取るか、またはおもちゃに執着するか
14おもちゃとフードパズルを部屋から出し、クールダウンする15分おもちゃが部屋からなくなった状態で、リラックスしたり他の行動を取るか


最後のサブテストであるクールダウンの間に、飼い主にはイヌのおもちゃへのモチベーションに関するアンケートも実施されました。質問は「1:強く同意しない」「2:一部同意しない」「3:どちらともいえない」「4:一部同意する」「5:強く同意する」の5段階によるリッカート尺度で回答されました。アンケートの質問は以下の表のように、行動依存症を示す特徴的な基準に対応しています。

行動依存症を示す特徴的な基準対応する質問
顕著性・私の犬はおもちゃが手に入ると、周りのものをすべて忘れてしまいます
・私の犬はおもちゃで遊んでいるときに食べ物に興味を失ってしまいます
・私の犬はおもちゃで遊んでいるときに社会的な接触に興味を失ってしまいます
・私の犬は、悪い結果になるにもかかわらず、おもちゃで遊び続けます
・私の犬はおもちゃで遊んでいるときに痛みや不快感を感じていないようです
気分の変化・おもちゃで遊ぶと、私の犬は幸せになります
渇望・しばらくおもちゃで遊ぶ機会がなかった私の犬は、またおもちゃで遊ぶのが待ちきれません
自制心の欠如・私の犬がおもちゃで遊ぶと、止めるのが難しいです
・私の犬は、悪い結果になるにもかかわらず、おもちゃで遊び続けます
許容範囲・私の犬は満足するためにもっともっと遊びを必要とします
禁断症状・私の犬は遊ぶのを妨げられると、ストレスを感じて興奮してしまいます
禁断後の再発リスク・しばらくおもちゃで遊ぶ機会がなかった私の犬は、またおもちゃで遊ぶのが待ちきれません


その結果、おもちゃへのモチベーションが非常に高いイヌの一部(105匹中33匹)が、依存症のような傾向を示す行動がみられました。このような依存性行動の傾向が高いイヌを「高AB犬」とし、そうでないイヌを「低AB犬」と分類することにします。行動パターンを見ると、高AB犬は行動テスト中に手の届かないおもちゃにアクセスしようとする時間が長く、食べ物や飼い主との交流などの他の刺激への関心が低い傾向があります。また、飼い主からのアンケート結果からも、高AB犬はおもちゃで遊ぶことによって気分が大きく変化し、自制心の欠如や禁断症状のような特徴が見られることがうかがえます。

さらに分析するため、行動依存基準ごとに集計したスコアを比較した結果、特に「渇望(a)」「顕著性(b)」「自制心の欠如(c)」において、高AB犬は低AB犬よりも有意に高いスコアを示しました。これらの結果は、おもちゃへの過剰なモチベーションを持つイヌが行動依存症に顕著にみられる挙動を取ることを示しています。その一方で、「気分の変化(d)」に関しては有意な差は見られませんでしたが、これは高AB犬が低AB犬と同程度にしかおもちゃに高揚しないというより、行動依存症というものが単なる遊びの楽しみといった次元を超越するものである可能性も考えられます。


これらの研究結果は、イヌが示す過剰なおもちゃへのモチベーションが、人間の行動依存症と共通の基盤を共有している可能性を示唆しています。人間においても、ギャンブルやインターネットゲームなどに関する行動依存症は遊びに起因していますが、依存症に至るケースは少数であり、多くの場合は自己肯定感を高めたり日々のストレスを発散させたりと、人々の生活に好影響を与えています。同様に、イヌにおいてもおもちゃで遊ぶことが一般的には健康的な行動である一方で、一部のイヌは過剰な執着を示し、その行動が依存症的な特徴を持つ可能性があることが改めて示されました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1c_sh

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