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WikipediaはAIの台頭でトラフィックが前年同期比で8%も減少、AIの普及で憂き目にあうウェブサイトを救うためにできることは?


有害なソーシャルメディアや粗悪なAIコンテンツがまん延する中で、Wikipediaは「最後の良心的なウェブサイト」と呼ばれることがあります。そんなWikipediaも、近年普及しつつあるAIや動画コンテンツの影響で、アクセス数を減らしていることが明らかになりました。

New User Trends on Wikipedia – Diff
https://diff.wikimedia.org/2025/10/17/new-user-trends-on-wikipedia/


Wikipedia says traffic is falling due to AI search summaries and social video | TechCrunch
https://techcrunch.com/2025/10/18/wikipedia-says-traffic-is-falling-due-to-ai-search-summaries-and-social-video/

Wikipediaを運営するウィキメディア財団でシニアプロダクトディレクターを務めるマーシャル・ミラー氏が、ウィキメディア財団のボランティアコミュニティ向けブログ・Diffで、「Wikipediaの最新ユーザー動向」というブログを投稿しました。

ウィキメディア財団は2025年3月に「ウィキメディア財団に影響を与える世界的なトレンド」を発表しました。これらのトレンドはウィキメディアプロジェクトだけでなく、インターネット全体に影響を与え続けているとのこと。ミラー氏は「企業が新しいAI体験を支えるためにWikipediaのコンテンツを多用していることも、こうしたトレンドのひとつです」と指摘しています。

また、ウィキメディア財団は2025年4月に「ボットやクローラーがWikipediaのコンテンツを検索する際、ウィキメディア財団のインフラに過度の負荷をかけている」と説明しており、ボットとクローラーは記事作成時点でも引き続きウィキメディアプロジェクトのトラフィックデータに大きな影響を与えているとのこと。

ミラー氏によると、Wikipediaをはじめとするウィキメディアプロジェクトは毎月世界中から数十億件のページビューを獲得しているそうです。ウィキメディア財団ではこれらのトラフィックが人間によるものか、あるいはボットによるものかを分類するためにアルゴリズムを活用しています。これにより人間によるトラフィックを正確に把握し、サードパーティーのボットが商用検索やAI体験を強化するためにデータを取得する方法に制限を設けることができるそうです。ウェブサイトをスクレイピングするボットの多くはますます高度化しており、人間を装おうとしています。ウィキメディア財団は指標を可能な限り正確なものに保つため、トラフィックの分類方法を継続的に更新しているそうです。


2025年5月頃、ブラジルを起点に人間によるトラフィックの異常増加が検出されました。これを受け、ウィキメディア財団はボット検出システムの調査及びアップデートを実施。その後、開発した新しいロジックを用いて2025年3月から8月までのトラフィックデータを再分類したそうです。すると、5月と6月に発生したトラフィックの異常増加は、検出を回避するために構築されたボットによるものであることが明らかになりました。

このボット検出ロジックをベースに過去のトラフィックを分析した結果、過去数カ月にわたってWikipediaにおける人間のページビューは減少しており、2024年の同時期と比較すると約8%も減少していることが明らかになっています。以下は2021年9月以降の、月ごとのWikipedia全言語版への人間のページビューをまとめたグラフ。2025年4月まで(青線)はほぼ一定だったページビューが、4月以降に徐々にその数を減らしています。


これについて、ミラー氏は「このトラフィックの減少は、生成AIとソーシャルメディアが人々の情報検索方法に影響を与えていることを反映したものだと考えています。特に、検索エンジンがWikipediaのコンテンツに基づいて検索者に直接回答を提供するケースが増えています」と述べ、Google検索の「AIによる概要」のような機能がウェブサイトのトラフィック減少に影響を及ぼしていると示唆しています。

なお、Googleが「AIによる概要」機能をリリースしてから、ウェブサイトのトラフィックが急減したことが報告されています。

Google検索に「AIによる概要」が表示されるようになったせいでウェブサイトのトラフィックが急減したとの報道 - GIGAZINE


ミラー氏はトラフィックの減少は予想外ではないと指摘。検索エンジンはウェブサイトへのリンクではなく、生成AIを活用して検索者に直接回答を提供する傾向が強いためです。また、若い世代はオープンウェブではなくソーシャル動画プラットフォームで情報を探す傾向にあるため、Wikipediaのようなウェブサイトの利用量が減少することは明らかです。

こうしたユーザー動向の変化は、Wikipediaに限ったことではありません。ユーザーが検索エンジン、AIチャットボット、ソーシャルメディアで情報を探す時間が増えているため、多くの出版社やコンテンツプラットフォームも同様の変化を報告しています。そして、AIがWikipediaのようなウェブサイトのインフラストラクチャに負担をかけていることは明白です。

「執拗なAIスクレイピングがインフラストラクチャに負担をかけている」とWikimedia財団が発表 - GIGAZINE


ミラー氏は「これらの傾向は一部のユーザーが情報を得るために直接Wikipediaにアクセスしなくなっていることを意味しますが、それでもWikipediaは知識普及の新しい形式が依存する最も貴重なデータセットのひとつです。ほぼすべての大規模言語モデル(LLM)はWikipediaでトレーニングしており、検索エンジンやソーシャルメディアプラットフォームは、ユーザーからの質問に答えるためにWikipediaの情報を優先します。つまり、Wikipediaにアクセスしていなくても、インターネット全体でWikimediaの知識が読まれているということです。人間が作成した知識(Wikipedia)は、オンラインでの信頼性の高い情報の普及にとって、さらに重要になっています。そして実際、Wikipediaはウィキメディア財団が定期的に実施している大規模調査で測定されているように、中立的で正確な情報源として、世界中で高い信頼と評価を受け続けています」と指摘しています。

ウィキメディア財団は「人々が知識を得るための新しい方法を歓迎する」としていますが、Wikipediaのコンテンツを利用するLLM、AIチャットボット、検索エンジン、ソーシャルプラットォームは、多くの人々やプラットフォームが依存している無料の知識が持続的に流通し続けるために、「Wikipediaへの訪問者を増やすよう促す必要があります」と指摘。Wikipediaへのアクセスが減れば、コンテンツを充実させていくボランティアも減り、この活動を支援する個人寄付者も減る可能性があるためです。

ミラー氏は「Wikipediaは、検証可能性、中立性、透明性という基準を備え、インターネット上の情報を支える唯一の大規模サイトであり、人々の日々の情報ニーズにとって、目に見えない形で不可欠な存在であり続けています。人々がインターネット上で共有される情報を信頼するためには、プラットフォームは情報の出所を明確にし、それらの情報源にアクセスし、参加する機会を高める必要があります」と述べました。

最新のトラフィック傾向やその他のデータは、ユーザーやコンテンツの利用方法の変化を示していますが、ウィキメディアコンテンツの長期的な持続可能性を確保するためにできることは数多くあるとミラー氏は主張しています。ミラー氏は「まず、誰もがコンテンツの完全性とコンテンツ作成を支援するオンライン上での行動を選択することができます」と言及し、具体的には、オンライン上で情報を検索する際に、引用元を確認し、元の情報源へのリンクをクリックすることができると主張。さらに、「信頼できる人間によってキュレーションされた知識の重要性について、身近な人たちと話し合ってください。生成AIの基盤となるコンテンツは、支援に値する生身の人間によって作成されたものであることを理解してもらいましょう」と述べました。


さらに、活動的なボランティアには「ウィキメディア財団のチームと協力してWikipediaの新しい体験やツールをテストすることで、この重要な局面への対応をさらに進めることができます。インターネットが急速に変化する今こそ、人間中心の自由な知識を世界に提供するという約束を守りつつ、Wikipediaのどの部分を変えるべきか、そしてどの部分は変えないべきかを考える時です」と記しています。

ミラー氏は「創設から25年、Wikipediaが持つ人類の知識は、これまで以上に世界にとって価値のあるものとなっています。私たちのビジョンは、誰もが知識の創造と共有に参加できる未来です。それは、誰もが責任を持ってこの自由な知識エコシステムを活用することで実現します。私たちは、皆様に古くからある方法と新しい方法の両方で私たちの知識プラットフォームへのご支援をお願いするとともに、Wikipediaがこれからも存在し続け、インターネットが未来の世代のために、自由で正確な人類の知識を提供し続けることを確信しています」と述べました。

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in ネットサービス, Posted by logu_ii

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