サイエンス

音楽家は「痛み」の感じ方や影響が普通の人と違うことが判明


楽器の演奏を習得することは音楽能力の向上以外にも、細かい運動スキル言語習得発話能力記憶力などにさまざまなメリットをもたらすことがわかっています。新たに、デンマークのオーフス大学で理学療法や認知神経科学を専門とするアンナ・ザモラノ助教らの研究チームが、音楽家は「痛み」の感じ方や影響が普通の人とは異なっていることを発見しました。

Prior use-dependent plasticity triggers different individual corticomotor responses during persistent musculoskeletal pain
https://journals.lww.com/pain/abstract/9900/prior_use_dependent_plasticity_triggers_different.981.aspx


Neuroscience finds musicians feel pain differently from the rest of us
https://theconversation.com/neuroscience-finds-musicians-feel-pain-differently-from-the-rest-of-us-265815

ザモラノ氏は長年にわたって音楽家らと共に研究する中で、音楽家らが演奏技術を向上するため、反復練習による体の痛みにも負けずトレーニングを繰り返す様子を目にしてきました。そしてザモラノ氏は、「楽器のトレーニングが脳をさまざまな形で変化させられるなら、痛みの感じ方も変えられるのではないか?」という疑問を抱いたとのこと。


科学者らはこれまでの研究で、痛みが体と脳のさまざまな反応を変化させることを明らかにしてきました。痛みは筋肉を制御する脳領域である運動皮質の活動を低下させ、ケガをした部位の使い過ぎを防ぐことにより、さらなる損傷を防ぐ役割を持っています。

このように痛みは、短期的に見れば体を保護するためのシグナルとして機能しますが、痛みが長引いて脳が「動くな」という指令を送り続けると、事態が悪化する可能性があります。たとえば足首を捻挫して数週間動かさなかった場合、足首の可動性が低下して、痛みのコントロールに関わる脳活動が阻害される場合があります。

過去の研究では、脳がどの筋肉をいつ動かすのかという命令を送る場所である「ボディマップ」が持続的な痛みによって縮小し、それがさらなる痛みにつながることがわかっています。ボディマップが縮小すると痛みが増す人がいるのは明らかですが、すべての人に同じような影響が出るわけではなく、一部の人々はより痛みの処理能力が優れているとのこと。


ザモラノ氏らの研究チームは、楽器のトレーニングとそれによってもたらされる脳の変化が、音楽家の痛みの感じ方や対処法にどう影響するのかを調べました。実験では、音楽家と一般人を含む被験者に数日間にわたって手の痛みを誘発するため、筋肉痛を安全に再現する神経成長因子が用いられました。

神経成長因子は神経を健康に保つためのタンパク質ですが、手の筋肉に注入すると、数日間にわたって特に手を動かしている時に痛みを感じるとのこと。しかし、神経成長因子は安全かつ一時的な作用しか持たないため、被験者の筋肉などに損傷を引き起こすことはないそうです。

研究チームは、脳に微小な磁気パルスを与える経頭蓋磁気刺激法(TMS)を用いて、被験者の脳がどのように手を制御するのかを示すボディマップを作成しました。TMSによるボディマップの測定は、神経成長因子の注射前・注射から2日後・注射から8日後に行われ、痛みが脳にどのような影響を及ぼしたのかが調査されました。


実験の結果、神経成長因子によって痛みが誘発される前から、音楽家の脳はより精密な手のボディマップを持っており、演奏の練習時間が長いほど精密さが増すことがわかりました。痛みを誘発した後は、音楽家は一般人と比較して不快感が少ないと報告していました。

また、一般人の脳ではわずか2日間の痛みでも手のボディマップが縮小したのに対し、音楽家の脳では痛みを感じても手のボディマップに変化が生じず、練習時間が長いほど痛みを感じにくいことが確認されました。

実験はわずか40人を対象とした小規模なものでしたが、音楽家の脳は痛みに対して明らかに異なる反応を示していました。今回の研究結果は、長期的な楽器のトレーニングが痛みの感じ方を変える可能性を示しており、なぜ一部の人々が痛みに強いのかを理解する上で役立つほか、新たな治療法の開発につながる可能性もあるとのことです。

ザモラノ氏は、「音楽家のトレーニングは、痛みの程度と脳の運動野の反応の両方において、通常の悪影響に対する一種の緩衝材となっていたようです」「私にとって最もエキサイティングなのは、『音楽家として日々学び、練習する行為は単に技術を向上させるだけでなく、文字通り脳の配線を変えて、世界の見方を変える力を持つ』というアイデアです。痛みという根源的な感覚さえも、変容させることができるのです」と述べました。

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in サイエンス,   創作, Posted by log1h_ik

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