機械式時計のパーツがバラバラに浮いている分解図を透明の樹脂ブロックを使って現実空間で再現

機械式時計とは巻き上げたゼンマイがほどける力を動力源とする時計であり、比較的安価な腕時計の多くが電池を動力源とするクォーツ式であるのに対し、機械式は主に高級腕時計で多く採用されています。ノルウェーのシステムエンジニアであるFredrik Flornes Ellertsen氏が、そんな機械式時計をまるで解説用の分解図のようにバラし、透明の樹脂ブロックに封入したと報告しました。
Mechanical Watch: Exploded View - Fredrik F. Ellertsen
https://fellerts.no/projects/epoch.html

Ellertsen氏は以前から、機械式時計のムーブメントの仕組みを解説するBartosz Ciechanowski氏のブログを非常に気に入っていたとのこと。「彼のブログはインターネットで一番好きな場所でした。彼の投稿はよく書かれているだけでなく簡単でわかりやすく、付属のインタラクティブイラストも素晴らしいものです」と述べています。
そんな中、Ellertsen氏は機械式時計を分解し、機構がわかるように封入した透明の樹脂ブロックが売っていないか調べ始めました。しかし、さまざまな時計の部品をランダムに埋め込んだブロックや、部品が平面に並べられたブロックは見つかったものの、機械式時計として正しい組み立てられ方をしたものは見つからなかったそうです。
そこでEllertsen氏は、自らの手で機械式時計の分解図を樹脂ブロックに封入するプロジェクトに取り組み始めました。Ellertsen氏は、「ここからが私の最も好きなパートです。存在すら知らない、ましてや持っていないスキルセットを要する、プロセスが進化するにつれて形成されていくプロジェクトに頭から飛び込むのです」と述べています。
以下は、Ellertsen氏が気に入っているBartosz Ciechanowski氏のブログにある機械式時計の分解図です。Ellertsen氏の目標は、このように機械式時計の部品をバラして層状に並べ、そのまま重ねたらしっかり動作する状態で透明の樹脂ブロックに封入することでした。

プロジェクトを始めるにあたり、まずは分解する時計を選定することにしました。Bartosz Ciechanowski氏は自身のブログで明言こそしていないものの、スイスのETA製のムーブメントであるETA 2824-2に基づいてブログ記事を書いたと思われるそうで、Ellertsen氏もETA 2824-2を封入することに決めました。
Ellertsen氏は、「ETA 2824-2は非常に頑丈で人気があり、多くの腕時計に見られる自動巻きタイプの機械式腕時計ムーブメントです。これは業界でも、歴代最高の『頼りになる』ムーブメントの1つとされています」と述べています。
Ellertsen氏が持っていた当初のアイデアは、「機械式時計の分解モデルを層ごとに分割し、各層ごとに樹脂を硬化させて、最後にすべての層を積み重ねて固める」というものでした。しかし、実際に透明なエポキシ樹脂でテストしてみたところ、以下のような問題点が浮上しました。
1:購入した樹脂は硬化後に黄色く変色してしまった。
2:小さなUVライトで硬化させると時間がかかりすぎる。
3:層と層のつなぎ目が非常に目立つ。
以下の写真は、Ellertsen氏が最初に作ったテスト用の樹脂ブロックです。時計の部品の代わりにクギを封入したブロックは、層と層のつなぎ目がよくわかり、ところどころに気泡も入り込んでいるのがわかります。

上記の問題点のうち、「1」と「2」はより高価な樹脂の購入や大型UVライトの導入で解決できますが、「3」については解決するのが困難でした。エポキシ樹脂を用いるレジンアートコミュニティは層のつなぎ目問題を解決するため、「前の層が完全に硬化する前に次の層の樹脂を塗布する」という方法を考案していますが、Ellertsen氏が理想とする分解図を作成するには20層ほど必要なため、この方法は実現困難でした。
Ellertsen氏はシリコン製の型を用いて20層ほどを一気に作り、半硬化状態で積み重ねる方法を考え出しました。しかし、柔らかい樹脂層の間には気泡がたまりやすく、小さな真空チャンバーを用いて空気を抜こうとすると樹脂層が壊れてしまう問題が発生。結局Ellertsen氏は、機械式時計の部品を封入した層を積み重ねる方法を放棄しました。
やはりすべての部品を一度に封入する方がいいと考えたEllertsen氏は、「各部品を非常に細い棒状の部品で接続して固定する」という方法を検討しました。樹脂の屈折率や加工の容易さなどを考慮した結果、「フライフィッシングで使われるナイロン製の釣り糸」が適していると判明しました。
Ellertsen氏によると、ナイロン製の釣り糸は屈折率がエポキシ樹脂と似ている上に安価だとのこと。問題は、釣り糸が糸巻きに巻かれているためカーブしてしまうという点でしたが、オーブンに入れて150度で1時間ほど焼くことで、適度に真っすぐかつ硬い状態にすることができたそうです。Ellertsen氏は部品と釣り糸に少量の接着剤を塗布し、それぞれを接続していったとのこと。
以下の写真が、機械式時計のネジに取り付けられた0.7mmの釣り糸。

釣り糸を柱のようにして部品と部品をつなぐことで、分解図のように部品間の距離を維持できます。

また、Ellertsen氏は硬化する際に樹脂からしっかり気泡を抜くために、真空チャンバーを用いて空気を抜く方法を採用しました。Ellertsen氏によると、よく混ぜた樹脂を入れた容器をチャンバーに入れて真空状態にして、その後また空気を戻す過程を数回繰り返すことで、ほとんどの気泡を抜くことができるとのこと。
最後に、樹脂を部品が入った型に注ぎ、再び真空プロセスを実施します。この際にできる気泡は樹脂内に閉じ込められた空気ではなく、部品の周辺に発生するため、真空プロセスによってうまく気泡を抑えることができるそうです。
Ellertsen氏は数回のプロトタイプを作成し、この方法の問題点を洗い出して製造方法を洗練させていきました。Ellertsen氏は釣り糸を適切に切断するための治具を作ったほか、アクリル板を加工してエポキシ樹脂を固めるための型を作り、エポキシ樹脂が付着しない高級梱包用テープで裏打ちしたとのこと。大まかな作り方の流れは以下の通り。
1:機械式時計を分解し、部品をきれいに掃除する。
2:互いにかみ合って動く歯車群(輪列)側から組み立てる。
3:文字盤側を組み立てる。
4:部品を入れた型に樹脂を流し込んで硬化させる。
以下の写真は、Ellertsen氏が2回目に作ったプロトタイプです。

ETA2824-2をベースにした中国製ムーブメント・PT5000を使った4回目のプロトタイプの製作過程。釣り糸を柱のように使って、慎重に部品を組み立てています。

4回目のプロトタイプがこれ。文字盤や針の塗装が溶けてしまったほか、全体がゆがんでしまいました。

プロトタイプで見つかった問題点を修正したEllertsen氏は、もう1つ完成形のPT5000を購入して本番に取り組みました。ケースに釣り糸で固定された部品群はこんな感じ。

文字盤や日付リング、秒針なども接着して組み立ては完了です。

最終的にできあがった、時計の分解図を封入した樹脂ブロックが以下。

横から見ると、しっかり機械式時計の分解図のようになっていることがわかります。

上からのぞくと、ちゃんと時計のように見えました。

Ellertsen氏は、「私はこの表面を完璧な鏡面仕上げに研磨するためのツールや知識を持っていませんが、それでも構いません。2年半かけて試行錯誤を重ねた結果、当初の目標を達成することができて、結果にはかなり満足しています」とコメントしました。
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in ハードウェア, Posted by log1h_ik
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