サイエンス

遺伝子編集技術「CRISPR-Cas9」でマウスの頭部腫瘍を半分除去することに成功


テルアビブ大学の研究者らが、CRISPR-Cas9遺伝子編集技術を用いてマウスの頭にある腫瘍を半分除去することに成功したと発表しました。

Targeted CRISPR/Cas9 Lipid Nanoparticles Elicits Therapeutic Genome Editing in Head and Neck Cancer - Masarwy - 2025 - Advanced Science - Wiley Online Library
https://advanced.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/advs.202411032


CRISPR gene editing breakthrough eliminates 50% of head, neck tumors - The Brighter Side of News
https://www.thebrighterside.news/post/crispr-gene-editing-breakthrough-eliminates-50-of-head-neck-tumors/

Israeli researchers use gene editing to eliminate 50% of head, neck tumors in mice | The Times of Israel
https://www.timesofisrael.com/israeli-researchers-use-gene-editing-to-eliminate-50-of-head-and-neck-tumors/

テルアビブ大学のダン・ピア氏らが試みた方法は、がん細胞が生きるために必要とするタンパク質「SOX2」をCRISPR-Cas9で除去するという方法でした。


ピア氏らによると、SOX2は胎児では活性化しており、若い細胞の発育と成長を助けますが、健康な成人では体に必要ないため活動が抑制されているそうです。ところが、がん細胞、特に頭頸部腫瘍では、理由は不明ながらSOX2が再び増殖するとのことです。これにより、がん細胞は幹細胞のような力を得ることができ、急速に増殖し、治療に抵抗し始めます。SOX2を除去できれば、がん細胞は生存できなくなります。

このことに目を付けたピア氏らは、SOX2を標的としたCRISPR-Cas9技術を利用しました。CRISPR-Cas9は、DNA中の特定の遺伝子を切断できるハサミのようなもので、高い精度で遺伝子を永久的に改変できることで知られています。一方で間違った遺伝子を切断したり、切断の回数が多すぎたりすると、遺伝子の損傷や新たながんを引き起こす可能性がある点が懸念材料です。

ピア氏らは、抗体を用いてがん細胞を狙い撃ちするCRISPR-Cas9の「デリバリーシステム」を開発。CRISPRを「脂質ナノ粒子」と呼ばれる脂肪のような小さな泡に封入し、CRISPRをがん細胞の奥深くに届けることに成功しました。


これらの技術を活用し、腫瘍を有するマウスにCRISPRを封入したナノ粒子を1週間間隔で3回注入したところ、84日でがん腫瘍の50%が消失したとのことです。

ピア氏らのチームがCRISPRをがん研究に用いたのは今回が初めてではありません。2020年、ピア氏らは世界で初めてCRISPRを使ってマウスのがん細胞の遺伝子を正確に切断しました。しかし、頭頸部がんにCRISPRを応用したのは今回が初めてです。


ピア氏らによると、今回の研究で重要な点は血流に頼らずに治療薬を送達したことにあるそうです。血流に頼ると、治療薬が肝臓などの健康な臓器にまで到達してしまうリスクがありましたが、今回は腫瘍に直接注入しており、制御しやすく、精度も高いとのことです。また、がん細胞の生存に不可欠であるものの、ほとんどの成人細胞では必須ではないSOX2を標的として選択することにより、望ましくない副作用のリスクが大幅に低減したことも重要です。

ピア氏らは、すでに骨髄腫やリンパ腫、肝臓がんなど、他の悪性度の高いがんの治療にも同じ手法を用いる研究を進めています。次のステップは、この治療法を他のタイプの腫瘍にテストしてから、ヒトでの臨床試験に移ることだそうです。

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in サイエンス, Posted by log1p_kr

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