サイエンス

「黒死病の感染拡大」には火山の噴火が関係していたかもしれない


肌に黒い斑点が現れる症状から「黒死病」と呼ばれ恐れられるペストは、1347年から1353年にかけてヨーロッパで猛威を振るい地域によっては死亡率が60%近くに達したとされています。黒死病の原因がペスト菌であり、中央アジアの野生げっ歯類に由来する菌が黒海周辺を経てヨーロッパへ到達したとする説が一般的に受け入れられている一方で、なぜその時期に黒死病が流行し短期間で急速に広がったのかについては議論が続いています。イギリス・ケンブリッジ大学のウルフ・ビュントゲン氏と、ライプツィヒのライプニッツ東欧史・文化研究所に所属するマルティン・バウフ氏らの研究チームは、黒死病が地中海の港で勢いを得るまでの直前の数年間に注目して感染症が広がった理由を分析しました。

Climate-driven changes in Mediterranean grain trade mitigated famine but introduced the Black Death to medieval Europe | Communications Earth & Environment
https://www.nature.com/articles/s43247-025-02964-0

Volcanic eruptions set off a chain of events that brought the Black Death to Europe
https://www.cam.ac.uk/stories/volcanoes-black-death

研究チームが手がかりとしたのは、1340年代半ばに起きたとみられる火山活動です。研究チームは、火山の噴火によって大気中にちりやガスが広がり、数年にわたって「寒くて雨の多い夏」が続いたとみています。一般的に、大規模な噴火が発生すると成層圏に達した硫黄が硫酸塩エアロゾルになり、この硫酸塩エアロゾルが「太陽光を反射して地表に届く日射を減らす」ことで寒く雨の多い夏になりやすいとされています。

研究チームはこの冷却の強さの目安として「成層圏への硫黄注入量」を用いました。南極とグリーンランドの氷床コアに残る化学指標から、研究者らは1345年頃の成層圏への硫黄注入量を約14テラグラムだと推定。硫黄注入量は1991年にピナトゥボ火山が噴火した際の約6テラグラムと比べて2倍以上であり、研究者らは「夏の冷涼化が数年続いたことを支える材料になる」と述べています。

また、研究チームはヨーロッパの8つの地域で集めた樹木試料をもとに「年輪の性質から気温を復元する手法」を用い、1345年~1347年に低温であったことを示すシグナルが広域で確認できたことを明らかにしています。


さらに別の証拠として、研究チームはスペインのピレネー山脈で採取された年輪に見られる「ブルーリング」も挙げています。


ブルーリングは年輪の細胞壁の木化が十分に進まなかったことを示す特徴で、研究チームによると「成長期に急な冷え込みが起きた痕跡になる場合がある」とのこと。以下はブルーリングが見られる年輪組織の顕微鏡画像です。


研究チームは「1年だけの冷夏は珍しくないが、1345年から3年連続でブルーリングが現れた点は冷夏が続いたことを示す材料になる」と述べています。さらに同じ時期の文書にある異常な曇天や月食の記録も合わせ、火山活動を示唆する材料として扱っています。

気候の落ち込みが続くと農業は影響を受けます。地中海の各地では農作物が不作となり飢饉のリスクが高まりました。研究チームは「凶作で食料が不足しそうになったため、イタリアの都市国家が通常より広い範囲から穀物を確保する方向に動いた」と述べています。


研究チームが問題にしたのは、こうして飢饉を避けるために動いた交易が、別の形でリスクを増やした可能性があるという点。研究チームはイタリアのヴェネツィア、ジェノヴァ、ピサといった都市国家が黒海やアゾフ海周辺から穀物を輸入した動きに注目しました。研究チームはこの航路において「黒海側から地中海の港へ戻る船が穀物だけでなく、ノミなどを介してペスト菌を運び込む経路になった可能性がある」と論じています。

研究チームはこの見立てを支える理由として、ノミは人やげっ歯類などの宿主がいない状況でも生存できることや、長期の食料輸送中に穀物の粉じんを利用して生存する場合があることを挙げました。こうした性質があると、黒死病感染の「種」が長距離を移動する説明に使えるとのこと。

また、同じイタリアの都市でも、ローマやミラノのように1340年代半ば以降に穀物の輸入を必要としなかった都市が黒死病の初期流行から外れたとみられる点に触れ、交易に参加したかどうかが違いとして現れたという見方を研究チームは示しています。


研究チームは、この一連の流れを「気候・飢饉・交易」が結び付いた複合要因として位置付け、食料安全保障のために発達した交易網が結果として病原体の移動にも使われる可能性がある点を強調しています。

この研究についてソーシャルニュースサイトのHacker Newsでは「イタリアの船便の変化だけでヨーロッパへの侵入を説明するのは難しい」「衛生状態の悪さが大きいのでは」という指摘や、「ビザンツ帝国の衰退やモンゴルの台頭でいずれ直接交易は増えたはず。(いずれ交易は増えるのだから、黒死病は遅かれ早かれ広がったのではないか)」といった見方が出ていました。

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in サイエンス, Posted by log1b_ok

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