深海に生息する生きた化石「コウモリダコ」の全ゲノム配列が解読されタコの起源が明らかに

コウモリダコは水深約600~900mの深海に生息する頭足類の一種で、英語名では「Vampire Squid(吸血イカ)」と呼ばれています。イカやタコの祖先の姿を継承する「生きた化石」といわれるコウモリダコの全ゲノム配列が、島根大学や和歌山工業高等専門学校、ウィーン大学などの研究チームによって解読されました。
Giant genome of the vampire squid reveals the derived state of modern octopod karyotypes: iScience
https://www.cell.com/iscience/fulltext/S2589-0042(25)02093-0

Vampires in the Deep: An Ancient Link Between Octopuses and Squids
https://www.univie.ac.at/en/news/detail/vampires-in-the-deep-an-ancient-link-between-octopuses-and-squids
'Vampire Squid From Hell' Reveals The Ancient Origins of Octopuses : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/vampire-squid-from-hell-reveals-the-ancient-origins-of-octopuses
世界初!本校スティアマルガ・デフィン准教授が、島根大・遺伝研・ウィーン大との国際共同研究で「生きた化石」コウモリダコのゲノム解読に成功 - 和歌山工業高等専門学校
https://www.wakayama-nct.ac.jp/cat_topics/12483/
生物資源科学部 吉田真明 教授らの共同研究グループは日本近海で得られたコウモリダコの全ゲノム配列を世界で初めて解読しました | 国立大学法人 島根大学
https://www.shimane-u.ac.jp/docs/2025111800033/
深海に生息するコウモリダコは非常に謎の多い生物であり、暗い色の体に青色や赤色に輝く目、腕の間にマントのように広がる膜、4つの発光器などを備えています。「吸血イカ」という英語名に反して不活発な生態で、粘液を分泌する触糸を使って深海に降ってくるマリンスノーを集め、ボール状に丸めたものを食べています。
コウモリダコにはタコのように8本の腕がありますが、イカやコウイカ類とも共通する体の構造や痕跡も持っていることから、実際にはタコやイカが分化する前の祖先の姿を継承した現存種だとみられています。ウィーン大学の遺伝子学者であるオレグ・シマコフ教授は、「コウモリダコはタコとイカのちょうど中間に位置しています。そのゲノムは、共通の祖先から2つの著しく異なる系統がどのようにして出現したのかという、進化の深い秘密を明らかにします」と述べています。
研究チームは、東海大学の実習船「北斗」が駿河湾で偶然採取した標本を用いて、国立遺伝学研究所のDNAシーケンス解析機器でコウモリダコの全ゲノムを解読しました。以下の写真が、今回の研究で用いられたコウモリダコです。

全ゲノム解読の結果、コウモリダコのゲノムサイズは想定を超える11~14Gb(ギガベース)、つまり110~140億塩基対という巨大なサイズであることがわかりました。これはヒトゲノムの3Gbの約4倍であり、これまでに解析された無脊椎動物のゲノムとしては最大級だとのこと。
他の頭足類と比較すると、アメリカケンサキイカ(Doryteuthis pealeii)のゲノムサイズは4.4Gb、ハワイアンボブテイルイカ(Euprymna scolopes)は4.9Gb、これまで頭足類の中で最大だったヨーロッパコウイカ(common cuttlefish)は5.5Gbです。
タコのゲノムはさらに小さく、カリフォルニア・ツースポット(Octopus bimaculoides)のゲノムは2.2Gb、マダコ(Octopus sinensis)は2.6Gb、チチュウカイマダコ(Octopus vulgaris)は2.7Gbとなっています。
つまり、コウモリダコのゲノムはイカやタコと比較して数倍大きいというわけです。興味深いことに、コウモリダコのゲノムの約62%は何度も同じDNAが繰り返される反復配列で構成されており、新しいコード配列を追加することなくゲノムサイズが膨らんでいることもわかりました。

さらに研究チームは、コウモリダコのゲノムをこれまでに解読された他の頭足類のゲノムと比較しました。これにより、コウモリダコは8本の腕を持っておりタコと同じ八腕形上目に分類されるものの、イカと同じ十腕形上目にみられる染色体構造の一部を保持していることが明らかになりました。
また、研究チームは貝殻を持つタコの一種であるタコブネ(Argonauta hians)の全ゲノム解読も行っており、これにより進化の初期段階ではタコもイカのような染色体構造を持っていたことがわかりました。タコの仲間では時間が経過するにつれて染色体の融合と再編成が進んだのに対し、コウモリダコではゲノムが膨張しても染色体がほとんど変化しなかったことが示唆されています。
今回の研究結果は、タコとイカの共通祖先がこれまで考えられていたよりもイカに類似しており、タコはイカのような祖先から進化したことを示す、これまでで最も明確な遺伝学的証拠を提供しています。論文の共著者であるウィーン大学のエメーゼ・トート氏は、「コウモリダコはタコに分類されるものの、両系統に先立つ遺伝的遺産を保持しています。これにより、頭足類の進化の初期段階を直接的に観察することができます」と述べました。
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in サイエンス, 生き物, Posted by log1h_ik
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