オープンソース活動をボランティアの公益事業として正式に認めるべきという請願がドイツで出される

ドイツにおいて、オープンソースソフトウェア(OSS)の開発や維持管理を行う活動を、法律上の「ボランティア活動(Ehrenamt)」として正式に認定するよう求める署名活動が、2025年11月下旬より開始されました。この請願は、現代社会のデジタルインフラを支える技術者たちの法的地位を、地域のサッカーコーチや消防団と同じ水準まで引き上げようとする画期的な試みです。
Anerkennung von Open-Source-Arbeit als Ehrenamt in Deutschland - オンライン請願
https://www.openpetition.de/petition/online/anerkennung-von-open-source-arbeit-als-ehrenamt-in-deutschland#petition-main
現代のインターネットプロトコル、セキュリティライブラリ、医療システム、そしてAIフレームワークに至るまで、その基盤の多くはボランティアによるOSSによって支えられています。ドイツ政府も連立協定の中でOSSを「デジタル主権」の要として掲げていますが、今回の請願の発起人であるボリス・ヒンツァー氏は「現実にはその担い手である開発者たちは法的な保護の枠外に置かれています」と主張し、社会的に不可欠なソフトウェアを無償でメンテナンスする作業は単なる「趣味」とみなされ、支援を受けることができないと訴えています。
ドイツにはすでにOSSの開発を支援する慈善団体も存在しており、たとえば「Center for the Cultivation of Technology(CCT)」という団体は非営利の有限会社という形態をとっており、技術プロジェクトの法的な受け皿となっています。また、「教育」や「文化振興」という名目で公益認定を得ている例もありますが、こうした既存の枠組みを利用するには、活動内容を「教育」などの既存カテゴリに無理やり当てはめる必要があったり、設立のハードルが高かったりと、一般的な開発者にとっては依然として敷居が高いのが現状です。

ヒンツァー氏は、この不均衡の是正を訴え、具体的にいくつかの法改正を求めています。
1つは、開発者が受け取る活動費や謝礼に対する非課税措置の適用です。これにより、開発者は金銭的な持ち出しを減らし、持続的な活動が可能になります。次に、オープンソースプロジェクトが「公益」として認められやすくすることです。現状のドイツの税法ではソフトウェア開発プロジェクトが公益認定を受けるのは極めて困難であるため、これを緩和して寄付金控除の対象とすることで、資金調達のハードルを下げることが狙いです。
さらに重要なのが、開発者の法的責任の軽減です。現在、ボランティアでコードを書いている開発者が、万が一バグやセキュリティホールを生じさせた場合、個人的に責任を問われるリスクが完全には排除されていません。「Log4Shell」のような重大な事態が発生した際、責任の重圧が少数の無償ボランティアにのしかかる現状を変えるためにも、公益法人の理事と同様の責任制限を適用し、開発者が安心して貢献できる環境を作ることが求められています。

この動きを受けて、技術系ニュースサイトのHacker Newsではさまざまな意見が寄せられています。
lionkor氏は、かつてドイツで大規模なオープンソースプロジェクトを立ち上げようとした際の苦い経験を語っています。その際、ユーザーデータの取り扱いや、競合する大企業から法的措置を受けるリスク、そして資金管理の問題に直面したとのこと。特に、協力してくれるメンバーに対して最低賃金未満の少額の活動手当を支払おうとした際、法的に安全で簡便な方法が見つからず、結果としてチームは解散に追い込まれたそうです。もし今回の請願で求められているような「活動手当の非課税枠」や「簡素な法人化プロセス」が当時存在していれば、プロジェクトを継続できたかもしれないと、制度の必要性を強く訴えています。
一方で、具体的にどのような活動を支援の対象とするかについては慎重な議論も行われています。
netdevphoenix氏は、単なる個人的な趣味のプロジェクトや就職活動の実績作りのためだけの活動が乱立することを防ぐため、プロジェクトの所有者は支援の対象外にしたり、実際にプログラム本体に採用された修正のみを「活動」として認めたり、いくつかの条件を設けるべきだと提案しています。

しかし、こうした条件設定に対しては強い懸念の声も上がっており、sReinwald氏は、プロジェクトの管理者こそが最も重い責任と精神的な負担を負っていると反論しています。プロジェクトの管理者は、深夜に不具合の報告を整理したり、他の人から送られてきた修正案を審査したりといった、コードを書く以外の地味で重要な作業を担っています。もし管理者を除外したり、採用されたコードの量だけで判断したりすれば、最も支援を必要としている人々が救われない可能性があります。特に、過去には、XZ Utilsで管理者のリソース不足から悪意ある攻撃者が潜り込んでバックドアを仕込まれるというセキュリティ事案も発生しており、管理者を含めた包括的な支援が重要だとsReinwald氏は主張しました。
XZ Utilsにバックドア攻撃が行われるまでのタイムラインまとめ - GIGAZINE

なお、署名活動は2026年5月24日まで受け付けられています。目標は3万人で、記事作成時点で約4000人から署名を集めています。
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in ソフトウェア, Posted by log1i_yk
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