ハードウェア

SSDの耐久性を示す「DWPD」はメーカーごとに基準が異なって比較しにくいとの指摘


DWPDSSDなどのフラッシュメモリ製品の耐久性を表す指標であり、保証期間中に1日あたりどれほどのデータ量を書き込み/書き換え可能かを表します。そんなDWPDは必ずしも常に役立つわけではないと、IT企業のスケーラブルなインフラストラクチャー構築を支援するKlara Systemsが指摘しました。

Is DWPD Still a Useful SSD Spec? - Klara Systems
https://klarasystems.com/articles/is-dwpd-still-useful-ssd-spec/


記事作成時点で市販されているSSDのほとんどはNAND型フラッシュメモリをベースにしており、これは1ビットの情報を蓄積できるセルが充電されている状態を「1」、放電されている状態を「0」としてデータを保存しています。DWPDはこうしたSSDへの書き込み/書き換え可能な回数で耐久性を表す指標ですが、DWPDについてよく理解するには、ドライブ障害の原因と仕組みについての理解が必要だとのこと。

ストレージにはSSDだけでなくHDDもあり、SSDは半導体を利用してデータを保存している一方、HDDは磁気ディスクを利用してデータを保存しています。そのため、SSDとHDDでは障害が発生する原因も異なります。

まずHDDが故障する原因には、「磁気ヘッドの故障」「モーターの故障」「コントローラーの障害」などがあり、データにアクセスする機器の機械的・電気的な障害が主となっています。ほとんどの場合、HDDが故障しても技術的にはデータが残されているため、さまざまな物理的手段で復旧させることが可能です。

一方、SSDが故障する原因には「電荷保持不良」「書き込み耐久性の枯渇」「コントローラーの障害」などがあります。電荷保持不良は長期間電源が供給されていない場合に起こるもので、電源が切れている期間が長いほど電荷の放散が遅くなり、各セルの正確な充電状態がわからなくなってしまうというものです。書き込み耐久性の枯渇は、各セルが放電と充電(書き込みと消去)のたびに劣化するため、最終的に必要な電荷レベルを正確に保存できなくなる状態のことです。DWPDはSSDの書き込み耐久性の枯渇に関連する指標です。


SSDに採用されている各NANDフラッシュセルの書き込み/消去サイクル(P/Eサイクル)には限界があり、P/Eサイクルを重ねるごとにセルの性能は低下し、読み出し速度や精度も低下する傾向にあります。セルが消耗するにつれて充電に時間がかかり、最初の試行で正しい値を保持するのが難しくなっていき、SSDのパフォーマンスが徐々に低下していくとのこと。

NANDフラッシュセルは充電された状態が「1」、放電された状態が「0」を表していますが、1つのセルが把握する電荷の数を増やすことで、同じセル数でもより多くのビット数を保持できます。1つの電荷が充電/放電されているかどうかを監視するのがシングルレベルセル(SLC)、2つの電荷がそれぞれ充電/放電されているのかを監視するのがマルチレベルセル(MLC)、3つの電荷それぞれの充電/放電状態を監視するのがトリプルレベルセル(TLC)です。


記事作成時点で市販されているNANDフラッシュメモリの大部分はTLCであり、多くの場合、同じ物理メディアの小さなキャッシュ領域のみがSLCとして使用されています。SLCは最も高性能で、耐久性と信頼性にも優れた方式ですが高価です。一方、MLCはSLCと同じセルで文字通り2倍のストレージ容量を提供し、TLCではストレージ容量が3倍となります。

しかし、セルごとに個別に設定・識別する電荷の数が増えるほどセルの操作にかかる時間は長くなり、信頼性は低下し、書き込み耐久性の枯渇がセルに与える影響が大きくなります。つまり、単一のセルに保存するデータ量が増えるほどパフォーマンスが低下し、セル自体の寿命も短くなるというわけです。長年使い続けたスマートフォンやタブレットなどは、あまり多くのデータを保存していないのにストレージが不安定になることがありますが、そうしたデバイスはセルの書き込み耐久性が枯渇している可能性があるとのこと。


書き込み耐久性の枯渇を解決する方法のひとつが、セルの消耗速度が一定になるようにデータを移動させる「ウェアレベリング」です。ウェアレベリングでセル全体のP/Eサイクルに偏りがないようにすることで、特定のセルのみに処理が集中して故障するのを防ぐことができます。

また、「同じ量のデータを保存する場合でも容量に余裕のあるSSDを使用する」という方法もあります。SSDがデータを保存できる物理セルの数が多ければ多いほど、同じ年数で同じデータ量を書き込んだ場合でも1つあたりのセルのP/Eサイクルが少なくなり、書き込み耐久性が枯渇するまでの期間が長くなります。同じスマートフォンの使い方をする場合でも、64GBモデルを買った人と512GBモデルを買った人では、64GBモデルを買った人の方がストレージの問題に直面するのが早いとのこと。

ウェアレベリングが正常に働くように、「容量の一部をウェアレベリング用に確保しておく」という手法もあります。コンシューマー向けSSDとエンタープライズ向けSSDでは、それぞれの容量が「512GB」と「480GB」と異なっている場合がありますが、これはエンタープライズ向けSSDが総用量の一部をウェアレベリング用に確保しているためです。


上記の点から、保証期間内のSSDに1日あたり書き込み/書き換え可能な回数を示すDWPDが、SSDの耐久性を表す指標として用いられているというわけです。しかし残念ながら、DWPDには明確に定義された業界標準がないため、一体どのような結果に基づいてDWPDが算出されたのかがわからないという問題があります。

エンタープライズグレードのメーカーは標準化団体JEDECのSSD耐久性ワークロード「JESD219A.01」に基づいていると主張していますが、公開文書で記されているのはワークロードのみで、SSDが限界に達したことを示す故障条件については説明されていないため、メーカーは自由に「故障した時点」を決めることが可能です。

つまり、たとえ同じDWPDのSSDが2つあったとしてもメーカーが異なれば、片方は「テストドライブの半数が完全に読み取り可能になった時点」を限界と見なしており、もう片方は「テストドライブの半数に著しいパフォーマンスの低下がみられた時点」を限界と見なしている可能性があるというわけです。

Klara Systemsは、「結局のところDWPDは、ストレージベンダーが提供している他のパフォーマンス指標と同様に、優れている点もあれば劣っている点もあります。同じメーカーのラインナップ内で2つの異なるドライブを比較する手段としては有用ですが、異なるベンダーのDWPD評価を直接比較しようとする際には、細心の注意を払う必要があります」と述べました。

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in ハードウェア, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article It is pointed out that the 'DWPD' standa….