自宅のWi-Fiを機械学習なしでモーションセンサーに変えてHome Assistantに統合できる「ESPectre」

近年はWi-Fiの信号を利用して対象の行動を検出するWi-Fiセンシングが注目されており、2025年9月26日に公開されたWi-Fi規格の「IEEE 802.11bf」ではWi-Fiセンシングが規格化されました。そんな中、20年以上にわたりIT業界で働いてきたフランシスコ・パーチェ氏が、自宅のWi-Fiを機械学習を使わずにモーションセンサーに変えるシステム「ESPectre」を開発しました。
How I Turned My WI-FI Into A Motion Sensor | Francesco Pace | Medium
https://medium.com/@francesco.pace/how-i-turned-my-wi-fi-into-a-motion-sensor-61a631a9b4ec

GitHub - francescopace/espectre: ESPectre 👻 - Motion detection system based on Wi-Fi spectre analysis (CSI), with Home Assistant integration.
https://github.com/francescopace/espectre
ホームオートメーションの愛好家だというパーチェ氏は、Wi-Fiセンシングを規格化したIEEE 802.11bfとの互換性があるデバイスが登場するのを待たずに、自らWi-Fi信号のスペクトル分析に基づいたモーション検出システム「ESPectre」を開発しました。ESPectreの特徴は以下の通り。
・わずか10ドル(約1500円)以下のマイクロコントローラであるESP32-S3を使用している。
・IoTデバイスをまとめて管理してスマートホームを構築できるHome Assistantに統合できる。
・壁越しでも動きを検出可能。
・数学と信号処理のみを使用しており、AIや機械学習は使わない。
パーチェ氏によると、Wi-Fiセンシングの問題は空間を漂うノイズが非常に多い点であり、既存のソリューションのほとんどは機械学習を用いてデータをクリーンアップし、人間の動きのパターンを特定しているとのこと。しかしパーチェ氏は、あえて数学と信号処理のみを使用することで、安価なハードウェアでも優れた結果を達成できることを実証したかったと述べています。

パーチェ氏はWi-Fiセンシングについて、「暗い部屋で点灯した懐中電灯の前に手をかざし、光によってできる影の動きを見るようなもの」だと説明しています。Wi-Fiセンシングの場合、光の代わりにルーターとセンサーの間を伝わるWi-Fi信号を利用しており、この信号が人や物の動きによって乱れると、センサーはこの動きを検出できるというわけです。
最新のWi-Fiシステムでは、数十にわたる異なる周波数(サブキャリア)が並行に伝えられており、受信機は各周波数について「信号の強さ(振幅)」「元の信号と比較してどれだけずれているか(位相)」を計算しています。この信号が伝わる範囲で人が動くと、信号の反射を示すマルチパスやドップラー効果、電磁場の分布変化などが生じるため、カメラやマイクを必要とせずに数学的に検出できるとのこと。
パーチェ氏は数学的な成分分析やデジタルフィルター、特徴の抽出などを用いることで、機械学習を使用せずに「ESPectre」を開発することに成功しました。ESPectreは約95%の精度で誰かの存在を検出することが可能で、レイテンシはパケット当たり50ミリ秒未満だとパーチェ氏は報告しています。
パーチェ氏が作成したESPectreのデバイス部分はこんな感じ。マイクロコントローラーのESP32-S3に受信感度を向上させる外部アンテナを接続した、非常にコンパクトなものとなっています。

ESPectreの利用方法としては、物体を検知した時に通知するホームセキュリティデバイスとしての活用や、人がいる時だけ照明を点灯するようにするオートメーション機能、人がいない部屋のエアコンを切るなどの省エネ機能、高齢者が長時間動いていない時に通知する見守り機能などが挙げられています。
なお、ESPectreの限界としては、機械学習アルゴリズムを使っていないため細かい動作や物体の識別が難しい点が挙げられます。たとえば、人間やペットを区別できなかったり、部屋にいる正確な人数を把握できなかったり、歩いているのか走っているのかを識別できなかったりするとのこと。
また、Wi-Fiセンシングに利用するChannel State Information(CSI)データは技術的には匿名なものの、人や動きを検知できることから同意のない監視やプライバシーの侵害といったリスクがあります。そのためパーチェ氏は、ESPectreは自宅などの自分で管理できる環境のみで使い、共有スペースには設置せず、訪問者のプライバシーに配慮することなどを推奨しました。
パーチェ氏は自らソーシャルニュースサイトのHacker Newsにスレッドを立て、ESPectreについて報告しています。
Show HN: ESPectre – Motion detection based on Wi-Fi spectre analysis | Hacker News
https://news.ycombinator.com/item?id=45953977
パーチェ氏はESPectreを応用して、アンテナの近くで手をかざして演奏するテルミンのような楽器「Wi-Fiテルミン」の製作を計画していると述べています。鍵となるのは乱流の変動で、この値は連続的で安定しているため、ピッチや周波数にマッピングするのに最適だとのこと。パーチェ氏には2人の子どもがいるため、Wi-Fiテルミンをかくれんぼなどに活用できるのではないかと考えているそうです。

・関連記事
無線LANの信号を利用して人間の居場所やポーズを推定するオープンソースのシステム「WiFi-3D-Fusion」 - GIGAZINE
Wi-Fiの電波で壁の向こうにいる人の姿勢や動きを3Dモデル化する新技術「WiPose」が登場 - GIGAZINE
一般家庭にあるWi-Fiルーターで人間の3D画像を生成することが可能 - GIGAZINE
Wi-Fiで壁の向こうの人物や物体を特定する一部の研究には誤りがあるとの指摘、不正行為がまん延する研究分野に警鐘を鳴らす - GIGAZINE
Wi-Fi信号のみでウェアラブルデバイスを使わずに心拍数測定が可能な技術「Pulse-Fi」 - GIGAZINE
侵入者を物理的に検知するWi-Fiルーターが登場 - GIGAZINE
Wi-Fiで壁の向こうにある静止した物体を「透視」できる技術が登場 - GIGAZINE
Wi-Fiのような無線信号を使って壁の向こうの人を探知可能に - GIGAZINE
・関連コンテンツ
in ハードウェア, ソフトウェア, Posted by log1h_ik
You can read the machine translated English article 'ESPectre' turns your home Wi-Fi into a ….







