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インターネットアーカイブの創設者が「我々は生き残ったが、ライブラリは壊滅した」と語る


膨大なネットコンテンツの収集・保存を行っているインターネットアーカイブは、2025年10月までに保存したウェブページの数が1兆件に到達したことを報告しています。1兆件を記念して、インターネットアーカイブを運営する非営利団体のWayback Machineはオンラインイベントを開催し、イベントの中でインターネットアーカイブの創設者が「私たちはここまで生き延びましたが、長年にわたる激しい著作権争いにより、ライブラリは一部が消滅してしまいました」とコメントするなど、インターネットアーカイブの歩みや直面している問題、将来の展望について語りました。

Internet Archive’s legal fights are over, but its founder mourns what was lost - Ars Technica
https://arstechnica.com/tech-policy/2025/11/the-internet-archive-survived-major-copyright-losses-whats-next/

'The world became stupider' when Internet Archive's Open Library was hit by a lawsuit: 'We survived, but it wiped out the library' | PC Gamer
https://www.pcgamer.com/hardware/the-world-became-stupider-when-internet-archives-open-library-was-hit-by-a-lawsuit-we-survived-but-it-wiped-out-the-library/

保存したウェブページが1兆件を超えたことで、インターネットアーカイブはさまざまな祝賀イベントを実施しました。2025年10月22日に開催されたイベント「The Web We've Built」では、インターネットアーカイブが保存したページから初期のウェブサイトを振り返ったり、インターネットアーカイブの将来のビジョンについて語られたりしました。イベントに登壇したスタンフォード大学の人文科学研究者のルカ・メッサラ氏は、「過去が常に現在の瞬間を形作っているため、ウェブページを保存することが重要です。過去は、現在が今のままである必要はないことを教えてくれます」とインターネットアーカイブの重要性を語りました。


また、サンフランシスコ市議会で「30年近くにわたりサンフランシスコに拠点を置き、1兆ページ超のウェブを保存してきた功績」が認められ、2025年10月22日はサンフランシスコにおける「インターネットアーカイブの日」と認定されています。


The Web We've Builtの講演やインターネットアーカイブの日を制定したイベントの中で、インターネットアーカイブの創設者であるブリュースター・ケール氏は、インターネットアーカイブのこれまでの歩みと「次のフェーズ」について語りました。ケール氏によると、次のフェーズとは3D環境やオンラインゲームなど、人々がデジタル空間で体験する「デジタル構築体験(digital-built experience)」の保存方法を探ることにあるそうです。


インターネットアーカイブは2020年3月に、新型コロナウイルスのパンデミックで在宅時間が増えたのに合わせて、140万冊のデジタル書籍が読める「National Emergency Library(全国緊急図書館)」を開始しました。インターネットアーカイブは「フェアユースである」という見解で全国緊急図書館を運営していましたが、出版社は著作権侵害であるとして提訴し、結果としてインターネットアーカイブは敗訴したことで、図書館の貸出リストから50万冊の書籍が削除されました。

インターネットアーカイブが出版社勝訴の影響で50万冊の書籍を貸出リストから削除 - GIGAZINE


そのほか、インターネットアーカイブは数十万枚のレコードをデジタル化してオンライン上で保存・公開する「Great 78」プロジェクトを実施していますが、2025年4月の報道では重大な著作権侵害だとして6億9300万ドル(約990億円)にのぼる賠償金額が音楽レーベルから請求されています。この件は2025年10月に、非公開の条件により和解が成立しています。

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その他、さまざまな訴訟にインターネットアーカイブは直面してきましたが、インターネットアーカイブの広報担当者によると、2025年10月時点では大規模な訴訟やコレクションへの脅威に直面していないとのこと。ケール氏は「我々は生き延びました。しかし、それによってライブラリ(の一部)は消滅してしまいました」とコメントしています。インターネットアーカイブは現在、訴訟リスクの沈静化を受け、「再建と再定義の段階」に入っているそうです。

全国緊急図書館は電子書籍の販売を阻害することではなく、Wikipediaが書籍のスキャン画像にリンクできるようにすることで、研究者などが電子書籍を参照しやすくなることをプロジェクトの目的としていました。しかし、出版者はそれを拒否したため、ケール氏は「数十億ドル規模の巨大メディアコングロマリットが、情報の流れをコントロールすることに独自の利益を持っていることを示しました。彼らは、Wikipediaの読者が書籍にアクセスできないようにすることに成功したのです」と批判的に語りました。また、著作権弁護士で図書館員のカイル・コートニー氏は「図書館がHuluやNetflixになることを望んでいるのではなく、文化の保存と知識への平等なアクセスの提供という役割を果たせるようにしたいのです。遠隔アクセスは、高齢者や障害者、地方住民や海外派遣時などに有益です」と全国緊急図書館の意義を指摘しました。

一連の訴訟について、ケール氏は「インターネットアーカイブの法廷闘争は、クリエイターや出版者とのものではなく、著作権による制限に満足していない大手メディア企業とのものです。彼らは著作権に定められている以上のことを望んでいます。こうした企業はWayback Machineが終わることを望んでいたのではないかと考えています。しかし、Wayback Machineは生き残り、他に類を見ない有用なリソースであることを証明しました」と語りました。


ケール氏は「私たちはただ伝統的な意味での図書館になろうとしているだけです。しかし、それはフェアユースの限界により、難しくなってきています」と述べています。著作権弁護士で、バランスの取れた著作権と自由で開かれたインターネットの実現に尽力する連合体「Re:Create」でエグゼクティブディレクターを務めるブランドン・バトラー氏によると、インターネットアーカイブ以外にも図書館が重要な法廷闘争に直面したケースがいくつもあり、出版者の高額な訴訟を提起する恐れから、保存のためのデジタル化の取り組みを遅らせる可能性があると示唆しています。バトラー氏は「これらの訴訟は、単に著作権の是非ではなく、『誰が文化的記録を保存できるのか』という社会的課題を浮き彫りにしました」と述べました。

一方で、複数の訴訟を受けた上で、インターネットアーカイブのプロジェクトへの取り組みが揺らいでいるわけではありません。インターネットアーカイブは「世界中の政府の研究と出版物を収録した、無料かつオープンなオンライン集成」である「Democracies Library(デモクラシーズ・ライブラリー)」と呼ばれるプロジェクトを拡大していく予定で、研究者が情報にアクセスしやすいようにWikipediaとリンクしていくことが見込まれています。


ただし、大きな懸念として、AIの急速な発展があります。AI企業がクリエイターや出版者から多くの訴訟を提起されているように、企業による情報への支配力が高まっている傾向にあります。今後、公共の記録を保存することを目的とするアーカイブプロジェクトが、多方面からの攻撃に耐えられるかは不透明だとケール氏は指摘しています。

ケール氏は、著作権法を「再構築」し、「多くの勝者がいるゲームを実現する」ことを提案しています。これは、著者および出版者、書店が十分な報酬を得た上で、図書館の使命が尊重され、進歩が促進されるような状態です。「私たちは誰もが読者になってほしいと思っています。それは、多くの出版社、多くの販売業者、書店、そして多くの図書館が必要だということです」とケール氏は語りました。

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