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大手アニメ配信サイト「クランチロール」の字幕の質が悪くなってしまった理由とは?


アニメ特化型の動画配信サービスである「クランチロール」は、ソニーグループの動画配信サイトとして数多くのアニメ作品を配信しています。アニメや漫画関連のウェブメディアであるAnime By The Numbersが、クランチロールの字幕の質が以前より悪くなったと指摘し、その理由について推測しました。

Why did Crunchyroll’s subtitles just get worse?
https://animebythenumbers.substack.com/p/worse-crunchyroll-subtitles


「アニメの字幕が変わった」と聞いても、常日頃から日本語でアニメを見ている視聴者は大した問題ではないと思うかもしれません。しかし、日本語がわからず主要な情報を字幕に頼っている非日本語圏の人々にとって、字幕の変更は大きな問題です。

以下がAnime By The Numbersが例示した字幕のスクリーンショットで、上の『その着せ替え人形は恋をする』は以前の字幕、下の『素材採取家の異世界旅行記』は最新の字幕です。上の字幕を見ると、「同一場面に複数人の話者がいる時は字幕を表示する場所を変え、会話内容がよくわかるようになっている」「色付きの輪郭や不透明度100%の影によって視覚的な明瞭さが保たれている」「背景の日本語テキストも同様のフォントを使用し、目立たないように翻訳されている」といった工夫がみられます。一方、下の字幕はかなり簡素なものになっており、「転生書」といった画面上のテキストが翻訳されていないことがわかります。


こうした細部へのこだわりは視聴体験の向上につながる一方、アニメをこのレベルでローカライズするには膨大な労力が必要です。Netflixをはじめとするその他の大手ストリーミングサービスでは、アニメ視聴者の割合はせいぜい数%であるため、視聴体験をアニメに最適化することは困難です。しかしクランチロールはアニメ特化型のストリーミングサービスであるため、こうした丁寧なローカライズが差別化要因となっていました。

ところが、2025年10月から始まった秋クールのアニメでは以前のような丁寧な字幕が表示されなくなり、10月3日時点で配信されている全作品が、Netflixなどと同様の簡素な字幕になっているとAnime By The Numbersは指摘しています。

以下のスクリーンショットは、さまざまな2025年秋アニメの字幕を示したもの。表示される字幕は簡素なものとなり、一度に画面へ表示される行数も減り、画面の異なる場所に字幕を表示して会話をわかりやすくする工夫もされていません。また、画面上のテキストの翻訳も最小限にとどまり、テキストの翻訳が表示されるせいでセリフを読む時間がなくなってしまう場合もあるとのこと。


クランチロールはほとんどのアニメの独占配信契約を結んでおり、2025年の新作の70%を視聴できるほか、多くの過去作や映画を視聴することも可能です。このため、アジア圏以外の国々で合法的にアニメを視聴したい場合、一般的にはクランチロールが最適な選択肢となります。

しかしAnime By The Numbersによると、クランチロールの最大の強みはラインナップの豊富さではなく「動画の品質」にあるとのこと。平均的なアニメ視聴者が受けるわかりやすい恩恵は「字幕の見やすさ」です。たとえば以下の画像では、上のNetflixは字幕の色が白でフォントも普通のものですが、下のクランチロールを見ると効果音の字幕は色付きでフォントサイズも大きくなっています。Anime By The Numbersは、「タイポグラフィによって画面上のテキスト、標識、その他の要素がまるで番組の一部であるかのような感覚でローカライズされます」と述べています。


以下の画像を見ても、上のNetflixと下のクランチロールの違いが顕著です。上の『古見さんは、コミュ症です。』は筆談が多いアニメであり、会話のテンポも速いものの、Netflixで配信されたため重要なテキストが翻訳されない場合もあったとのこと。一方、下の『その着せ替え人形は恋をする』では、黒板に書かれた相関図も翻訳されています。


Anime By The Numbersによると、クランチロールのローカリゼーションチームは設立当初から、字幕と画面上のテキスト翻訳の作成にAegisubというツールを使用していたとのこと。このツールは非常に柔軟性が高く、多様なフォントやユニコード文字、そして独立して動く要素を同時に扱うことが可能でした。

記事作成時点では、「クランチロールがローカリゼーションチームをAegisubから強制的に撤退させた」といううわさも流れているそうです。実際、クランチロールは2025年8月に人員削減を発表しており、その中にはクランチロールで最も長く勤務してきた従業員も含まれていました。Anime By The Numbersは、これらのベテラン従業員の代わりにクランチロールは新たな下請け業者やサービスを使用しており、その結果として字幕の質が低下したのではないかと示唆しています。

クランチロールが字幕の質を下げた理由としては、「他の配信サービスにもコンテンツの配信ライセンスを売っているため、字幕のバージョンを統一した方が簡単であるため」「ローカリゼーション作業は非常に困難であり、専門性の低い下請けに作業を委託するために丁寧な字幕作成をやめてコストを削減した」「業界標準を採用する方が楽であるため」などが推測されています。


しかしAnime By The Numbersは、もしクランチロールが字幕品質の基準を下げたのであれば、もはやタイポグラフィを気にする大手ストリーミングサービスはゼロになってしまうと指摘。また、クランチロールが掲げてきた「ファン中心主義」に反する行為だとして批判しています。

Anime By The Numbersは、クランチロールによる顧客軽視の態度は、海賊版の視聴を正当化する理由として利用されかねないとの懸念も表明しています。「なぜクランチロールが海賊版にこんなにも簡単に勝利を譲ろうとするのか、私には本当に理解できません。もしクランチロールがいきなり以前の字幕提供方式に戻すなら、この記事の大半は無視できます。しかしそうでなかったら、クランチロールの財源にわずかな利益をもたらす代わりに、アニメというメディアにとって小さくとも重要な何かを失うことになります」と、Anime By The Numbersは主張しました。

この記事はソーシャルニュースサイトのHacker Newsでも話題となっており、「クランチロールがChatGPTを使った翻訳をそのまま使ってしまったケースがある」との指摘や、「字幕を適切に配置するには膨大な時間がかかり、最高品質の場合は1話あたり4時間もかかる場合があるが、企業はそんなに時間を費やせないため、最高品質の翻訳は常にファンメイドのものとなる」という専門家のコメント、「吹替版の字幕もひどい」というコメントなどが寄せられていました。

Why did Crunchyroll's subtitles just get worse? | Hacker News
https://news.ycombinator.com/item?id=45458973

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in ネットサービス,   アニメ, Posted by log1h_ik

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