一般的な脱毛症治療薬である「フィナステリド」と自殺リスクとの関連性が明らかに

フィナステリドはアメリカの製薬企業であるメルクが開発した男性型脱毛症(AGA)の治療薬であり、日本を含む世界中の国々で使用されています。ところが、これまでに収集された複数の研究データをまとめた新たな論文により、フィナステリドの服用と自殺リスクとの間に関連性があることが判明しました。
Failing Public Health Again? Analytical Review of Depression and Suicidality From Finasteride
https://www.psychiatrist.com/jcp/analytical-review-depression-suicidality-finasteride/

Why Are We Still Ignoring the Suicide Risk of a Hair-loss Drug? | HUJI International
https://international.huji.ac.il/news/why-are-we-still-ignoring-suicide-risk-hair-loss-drug
Decades of Studies Link Suicide Risk With Common Hair Loss Treatment : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/decades-of-studies-link-suicide-risk-with-common-hair-loss-treatment
フィナステリドは1990年代以降に数百万人を超える男性に処方されており、一部の国ではAGAだけでなく前立腺肥大症などの治療薬としても使用されています。ところが、一部の専門家らは2002年の時点で、フィナステリドの服用が睡眠障害や不安の増加、抑うつ症状などの問題と関連していると指摘していました。
今回、イスラエルのハダッサ・ヘブライ大学医療センターの元腎臓専門医で、医学教授でもある論文著者のマイヤー・ブレジス氏は、2017年~2023年に発表された8件の研究データを統合した体系的なレビューを実施しました。
分析の結果、フィナステリドを服用している人はそうでない人と比較して、気分障害や自殺念慮に悩まされるリスクが著しく高いことが示されました。なお、分析に用いられたデータにはアメリカやスウェーデン、カナダ、イスラエルといった複数の国の国民健康記録やデータシステムから得られたものであり、メルクや規制当局が主導したものはありませんでした。

ブレジス氏は、「証拠はもはや逸話的なものではなくなりました。私たちは現在、多様な集団において一貫したパターンを見つけています。その結果は悲劇的なものになっているかもしれません」と述べ、長らくフィナステリドと自殺リスクとの関連性が無視されてきたことを問題視しています。
アメリカ食品医薬品局(FDA)は2011年、うつ病をフィナステリドの(PDFファイル)潜在的な副作用として認め、2022年には自殺リスクも追加しましたが、2011年までにFDAが把握していたフィナステリドに関連する自殺件数はわずか18件にとどまっています。
しかしブレジス氏は、フィナステリドの世界的な使用量を考えれば、フィナステリドに関連するうつ病に悩まされている人々は数十万人に及び、数千人以上が自殺した可能性があると指摘。FDAが確認したフィナステリドに関連する自殺件数の少なさについて、「これは単なる報告不足ではありません。医薬品安全性監視の組織的な欠陥でした」と批判しました。
フィナステリドは男性ホルモンであるテストステロンがジヒドロテストステロンに変換されるのを阻害することで機能しますが、その過程で脳内の気分調節に関連するアロプレグナノロンなどの神経ステロイドの生成も阻害してしまうとのこと。動物実験では、フィナステリドが神経の炎症や海馬の構造変化といった長期的な影響をもたらすことも示唆されています。
また、一部の患者ではフィナステリドの服用を中止したとしても、すぐには影響が消えないことがあるそうです。「post-finasteride syndrome(ポストフィナステリド症候群)」の報告では、フィナステリドの服用中止後も数カ月~数年にわたり、不眠症やパニック発作、認知機能障害、自殺念慮といった症状が持続するといわれています。

フィナステリドが規制当局などの調査を免れた理由については、フィナステリドは医薬品ではなく「化粧品」として分類されていることが一因とみられています。ブレジス氏はFDAとメルクの対応を批判しており、業界がフィナステリドの害について沈黙したのは戦略的なものであり、市場の圧力と法的責任が理由になっていたと指摘しています。
ブレジス氏は、フィナステリドのような薬剤は研究者がその安全性を明確に証明しない限り承認されるべきではなく、承認後も継続的な安全性研究を行うことを法律で義務づけるべきだと主張しました。
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in サイエンス, Posted by log1h_ik
You can read the machine translated English article A link between finasteride, a common hai….