サイエンス

億万長者に「不死」を売りつけようとする長寿産業が抱えている問題とは?


不老不死や永遠の命は古くから多くの権力者を引きつけており、現代の億万長者の中にも不死を目指している人物が多く存在します。そんな不死を求める人々をターゲットにした「長寿産業」が活況を呈する中で、オーストラリアのニューサウスウェールズ大学人口健康学部の博士課程に在籍するサミュエル・コーネル氏らが、長寿産業が抱える問題点について解説しました。

A booming longevity industry wants to sell us ‘immortality’. There could be hidden costs
https://theconversation.com/a-booming-longevity-industry-wants-to-sell-us-immortality-there-could-be-hidden-costs-264879


ソーシャルメディアには「ペプチド」「機能性キノコパウダー」といった寿命を延ばすとうたう製品を宣伝するインフルエンサーがあふれ、より長く生きたい、あるいは若く見られたいという人々に向けた「氷風呂」「サウナ」「凍結療法チェンバー」といったサービスも拡散されています。しかし、これらのソーシャルメディア投稿やマーケティングの背後には、高齢化や死を恐れる人々をターゲットにした商業的な利益が渦巻いているとのこと。

まずコーネル氏らは、永遠に生きられる人間がいない理由を進化の観点から解説しています。「生物は長生きできた方がいいに決まっているのに、どうして進化の過程で不老不死を獲得できなかったのか」と思う人もいるかもしれません。しかし、進化の仕組みは「次世代を生み出す能力」に特化したもので、「繁殖と適応を促進する遺伝子」が優先され、「無限の寿命を促進する遺伝子」は進化の影響を受けにくいのです。

古代ギリシャ人は永遠の寿命についての教訓的な話を語り継いでおり、話の中で不死を求めた人々は大抵の場合、それが大きな代償を伴うことを理解させられました。たとえばギリシャ神話に登場するティートーノスは「不死」を願って永遠の命を与えられたものの、「不老」を願うことを忘れていたため、終わりのない老いと衰えに苦しむこととなりました。


世界の長寿産業はベンチャーキャピタルや著名投資家、製薬企業などの支援を受けて急成長を遂げています。しかしこれらの資金の多くは、どのように健康を改善したり寿命を延ばしたりするのかに関する証拠がまったくない、あるいはほとんどない製品やサービスに注ぎ込まれているとのこと。

それでも富や名声を手に入れた人々は、永遠の命を求めることを諦めません。アメリカのベンチャーキャピタリストであるブライアン・ジョンソン氏は、「決して死なない」という不可能な目標を掲げて数百万ドル(約数億円)を費やし、絶え間ない医療検査を受けていると報じられています。

ジョンソン氏が受けた「長寿療法」の中には、厳格な食事制限や数百種類ものサプリメントの摂取、厳格な睡眠と運動のルーティンなどが含まれています。また、過去には自分自身の息子の血漿(けっしょう)を輸血されたことさえあります。


コーネル氏らが長寿産業の問題点だと考えているのが、「エビデンスよりも利益を優先している」という点です。長寿産業の中核をなす「イノベーション」は老化プロセスをハックしようとする投資家らを引きつけていますが、これらのイノベーションが質の高いエビデンスに裏付けられていることはまれです。

たとえば「全身MRI」はがんやその他の異常を早期発見する方法として宣伝されていますが、これらの検査が健康状態を改善するという証拠はなく、世界中の医学者も健康な個人に対する全身MRIを推奨していません。むしろこのような処置は、不必要なフォローアップ処置やコスト、不安を引き起こす偶発腫瘍の発見につながるとのこと。

また、長寿産業は既存の医療制度に代わる存在として自らを売り込んでいますが、その機能を果たすために現行の医療制度に依存しています。必要なスキャンや血液検査、実験的治療において病院や診療所の設備や専門医を頼っており、すでに人手不足が深刻な医療サービスに余計な負担をかける一方、大多数の国民に利益をもたらさないという点も問題です。


コーネル氏らは長寿産業について、正常な老化を医学的な問題だとしてアピールする「病気喧伝」の一種だと指摘。これによって年齢差別が日常生活に入り込み、正常な老化を人生の一部として受け入れるのではなく、病気だと見なすようになってしまう危険性があるとのこと。これにより、人々が高齢者になった時に生活の質を向上させてくれる基本的な公衆衛生サービスから注目がそれ、リソースが奪われる可能性もあります。

コーネル氏らは、「根拠のない長寿に関する多くの誇大宣伝は、私たちがすでに効果があると知っている定期的な運動や健康的な食事、十分な睡眠、有意義な人間関係、そしてエビデンスに基づいた医療への公平なアクセスから、私たちの周囲をそらしてしまうのです」と主張しました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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