ソフトウェア

AIはまだ放射線科医に取って代わるものではない、人間の放射線科医の需要がかつてないほど高まることに


人間よりも高い精度で肺炎を検出できるAIが2017年から存在しているなどの実績がある放射線医学は、早くからAIに置き換わるのではないかと期待されていた分野でした。ところが、実際はまだ人間の力が必要とされているとして、医療系の慈善団体で働くディーナ・ムーサ氏が詳しく解説しています。

AI isn't replacing radiologists
https://www.worksinprogress.news/p/why-ai-isnt-replacing-radiologists

2017年に登場したAI「CheXNet」は、胸部X線画像を入力することで肺炎の可能性を検出するというモデルで、人間よりも正確かつ高速に病状をチェックできるとして広く知られています。

CheXNetの登場以後も同様のモデルが多数開発され、スキャンするだけで数百の疾患を検出できるモデルや、医師の作業リストに優先付けを行うモデル、医師による画像チェックを一切必要とせずに稼働することが認可されたモデルなど、多くのAIが誕生しました。アメリカ食品医薬品局が認可したモデルだけでも700種類以上に及ぶそうです。

ところが、こと放射線医学に限っては、AIが最も得意とする「パターン認識」が業務の中心であるにもかかわらず、AIが十分に活用されずまだ人間の力が必要とされているそうです。人手も不足しており、2025年時点で放射線科は国内で2番目に高収入な医療専門分野となったそうです。


ムーサ氏は、この背景には三つの要因があると解説しています。

第一に、AIモデルはベンチマークテストでは人間を上回るものの、実際の環境では同等の性能を発揮できないという点です。大半のツールは「訓練データ」で頻出する異常は診断できるものの、訓練データにあまり出てこないような異常では精度が低下するそうです。


第二に、AIの業務拡大には法律上の障壁が存在するという点です。いくらAIが高性能といっても、AIの出力には誤りが生じることがあり、さらにAI自身は出力が誤りであるかどうかをほとんど検証できないという欠点がつきまといます。たとえば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を高精度に検出していたAIが、「COVID-19」という文字を検出していただけだというエピソードがあります。

これにより、規制当局や医療保険会社は人間の助けを必要とするAIは認可するものの、完全に自律して動作する放射線診断モデルの承認・保険適用には消極的です。また、いくらAIの画像診断が早くても、最終的に人間がチェックしなければならないため、結局は時間の短縮につながらないこともあります。

第三に、たとえ正確に診断できたとしても、AIが代替できる放射線科医の仕事はごく一部に過ぎないという点です。人間の放射線科医が診断に費やす時間はわずかで、患者や同僚の臨床医との対話など他の活動に大半の時間を割いているからです。


大まかな要因は上記の通りですが、これ以外にもさまざまな理由があります。

一つは、AIの汎用(はんよう)性の低さです。放射線医学で用いられるモデルの多くは単一の所見や病態を検出するだけで、複数の画像を見てもらうには数十のモデルを切り替えてそれぞれに適切な質問を投げかける必要があるとのこと。実際の医療現場では多くのモデルは限られたユースケースに限定されていて、一部の症例に関してはデータが十分に存在しないため訓練し切れていないといった問題もあるそうです。

ムーサ氏は「より強力なエビデンスと性能の向上が合わされば、こうしたハードルはクリアされる可能性があるでしょう」と指摘していますが、他の要件が普及を遅らせてしまいます。例えば、モデルを再訓練する場合、以前のモデルが当局によって承認されていたとしても再承認が必要になります。加えて、医療過誤の賠償金があまりにも高いため、まだまだ未知数の技術に対して保険金を支払いたがる保険会社は少なく、これも医療機関がAIを導入する際の障壁になっているといいます。

ムーサ氏は「放射線科におけるAIの将来性は、ベンチマークの結果だけでは過大評価されていると言えるでしょう。AIは確かに生産性を向上させることができますが、人間がAIを使うにはまだ労力が必要とされます。今のところ、機械が高性能になればなるほど、放射線科医の忙しさは増すというパラドックスが生じています」と述べました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
AIを使う医者は診断ミスが16%減るというOpenAIの研究結果 - GIGAZINE

ビル・ゲイツが「AIで10年以内に医師や教師が無料になる」とコメント - GIGAZINE

なぜ研究者はローカルPCでAIを実行する必要があるのか? - GIGAZINE

世界初の「全自動ロボット歯科医による人間の虫歯治療」が成功 - GIGAZINE

Googleが放射線科医向けに画像診断・病歴チェック・論文検索が可能なAIシステムをバイエルと提携して構築 - GIGAZINE

in AI,   ソフトウェア, Posted by log1p_kr

You can read the machine translated English article AI won't replace radiologists just y….