アメリカでスポーツ賭博が合法化された経緯とは?

アメリカでは2018年にスポーツの試合結果や選手の活躍度合に金を賭ける「スポーツ賭博」が合法になりました。26年間続いた連邦規制が覆された決定にはどのような経緯があったのか、金融関係のライターとして活動するシュレヤス・ハリハラン氏が解説しています。
How Did Sports Betting Become Legal in the US?
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アメリカでは1992年にプロ・アマチュアスポーツ保護法(PASPA)の施行が開始し、アメリカのほとんどの州におけるスポーツ賭博が違法となりました。例外的に合法となった一部の州を除くと、州公認で合法的に賭ける手段は小規模のスポーツくじなどごく限られたものとなっていました。
しかし、アメリカ合衆国連邦政府が州の立法を統制する権利を有するかどうかを争点にした2018年のマーフィー対全米大学体育協会事件において、PASPAは違憲と判断され、州にスポーツ賭博を合法化する権限が認められました。これによりスポーツ賭博は事実上合法化され、アメリカでは史上最大規模のギャンブルブームが勃発することになります。
オンラインギャンブル業界に焦点を当てたメディアのiGaming Businessが報道した内容によると、2018年のネバダ州で賭け金が前年比2.9%増、賞金が21.2%増と過去最高を記録したとのこと。2018年から2025年でスポーツ賭博の賭け金総額は年間50億ドル(約7400億ドル)から1500億ドル(約22兆円)まで増加しており、大学生の58%がスポーツ賭博の経験があり、50歳未満の男性の50%がオンラインスポーツ賭博アカウントを保有しているというデータもあります。

そもそもアメリカにおけるスポーツ賭博は、作家で編集者のダニエル・オクレント氏が1979年に「ファンタジーベースボール」というゲームで最も有名な形式である「ロティサリーリーグベースボール」を広めたところに始まったと言われています。ファンタジーベースボールとは、実在の野球選手の中から空想の野球チームを作り、その後実際の試合における選手の成績に基づいて、架空のチームの成績を記録していくという遊びです。友人間の遊びだったファンタジースポーツは、最高の成績を収めたチームを選んだ人が賞金を獲得するコンテストやギャンブルとしても広がっていきました。
そんな中で、元NBA選手でニュージャージー州選出の上院議員でもあったビル・ブラッドリー氏は、「賭博はスポーツの公正性を害する」と考えて、PASPAを発案しました。そのため、PASPAは別名「ブラッドリー法」と呼ばれることもあります。PASPAは賛成多数で可決されましたが、PASPAの法律としての文言は特殊で、スポーツ賭博を明確に連邦犯罪と規定するものではなく、あくまで州による合法化を阻止するものでした。
PASPAの施行以後も、ファンタジースポーツは人気を博し続け、2009年に設立されたFanDuelや2012年設立のDraftKingsという会社が毎シーズンコンテストを実施したように、商業化も進んでいきました。しかし、FanDuelやDraftKingsが多額のテレビ広告に資金を投じ、広告では大金を獲得した人々が「数百円を数百万円にした」と経験談を語っていたことから、スポーツ賭博に該当するとして2015年にファンタジースポーツコンテストの中止が当局から命じられました。

FanDuelとDraftKingsは取り締まりの強化に対応するため、ニューヨークの法律事務所のパートナーであるジェレミー・クドン氏を雇用しました。クドン氏は州議会で「ファンタジースポーツは予測とアイデアのスキルを競うゲームであり、スロットマシンのように運に左右されるゲームではない」と主張し、そのゲーム性を証明するために経済学者と協力して「優秀なファンタジースポーツプレイヤーが実際のスポーツのゼネラルマネージャーよりもチーム作りに優れている」ことなどを示しました。クドン氏の働きかけにより、カンザス州のような小規模な議会でファンタジースポーツが合法化され、そこからクドン氏は働きかけを広げていきます。
また、同じようにスポーツ賭博の合法化を目指した人物として、ニュージャージー州知事のクリス・クリスティ氏が挙げられます。ニュージャージー州ではPASPAの施行後も違法賭博が横行しており、上院議員がスポーツ賭博の合法化の是非を問う住民投票を実施した結果、100万人近くの住民が投票して3分の2が賛成票を投じました。もともとはスポーツ賭博の禁止を指示していたクリスティ氏は、住民投票の結果を受けて方針転換を表明し、2012年にニュージャージー州でのスポーツ賭博を許可する「スポーツ賭博法案」に署名しました。
スポーツ賭博法案に対し、NFL(アメフト)、NBA(バスケ)、NHL(ホッケー)、MLB(野球)、NCAA(全米大学体育協会)はPASPAに違反しているとしてニュージャージー州を提訴しました。ニュージャージー州の弁護を担当したのが有名な憲法弁護士のセオドア・オルソン氏で、個人にスポーツ賭博を禁止せず州にスポーツ賭博を規制するよう求めるPASPAの特徴に基づいて、「州に禁止措置を強制しているPASPAは、議会が権限を逸脱している」と主張しPASPAの廃止を求めて活動を始めました。
オルソン氏は繰り返し敗訴し、クリスティ氏は多額の公的資金を費やしながらもスポーツ賭博の合法化を成立できませんでしたが、2017年になって初めて連邦最高裁判所はニュージャージー州の訴訟を審理することに同意しました。「PASPAは議会が権限を逸脱している」と主張するオルソン氏に対し、判事は「州は禁止令を強制する必要はない」と異議を主張しました。しかし、クリスティ氏が2012年のスポーツ賭博法案を修正して2014年に制定したスポーツ賭博法は、以前の禁止措置を撤廃しただけでスポーツ賭博を合法化してはいない法律ですが、PASPAはこの法律も規制したため、「州議会が何をすべきか、何をすべきでないかを連邦議会が決定していることを意味している」とオルソン氏は反論を展開しました。
結果的に、2018年5月に最高裁判所はPASPAを違憲であるとの判決を下し、26年間続いた連邦法によるスポーツ賭博の禁止は解除されました。記事作成時点では38の州でスポーツ賭博が合法化されています。
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in メモ, Posted by log1e_dh
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