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サウジアラビアは世界最大の格ゲーの祭典「EVO」を買収して「スポーツウォッシング」をしているという批判

by Nelo Hotsuma

サウジアラビアの国家プロジェクトであるQiddiyaが、世界最大規模の格闘ゲーム大会である「EVO」の運営企業を完全買収したと発表しました。サウジアラビアは近年eスポーツを含めたエンターテインメントを新たな国家事業に見据えていますが、ゲームニュースメディアのKotakuは「サウジアラビアによるスポーツウォッシュ」であると批判しています。

Saudi Arabia ‘Sportswashing’ Takes Aim At The Biggest Fighting Game Tournament Of The Year
https://kotaku.com/evo-saudi-arabia-street-fighter-6-sony-esports-2000622367

EVOは20年以上の歴史がある格闘ゲームのイベントで、例年アメリカのラスベガスで開催されるほか、EVO JapanやEVO Franceなどの地区大会も開催されています。EVOの会場には毎年世界中から強豪が集まり、日本人も数多く優勝のトロフィーを手にしています。


そんなEVOの2020年度大会は、同時期の新型コロナウイルスパンデミックをうけてオンライン形式で開催される予定でしたが、EVO運営上層部の不祥事があり、中止となりました。イベントのキャンセルで資金繰りが厳しくなったと思われましたが、その後にソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)とマネジメント企業のRTSがEVOを買収しました。

ソニーが世界最大の格闘ゲームの祭典「EVO」を共同買収 - GIGAZINE

by Nelo Hotsuma

2025年8月22日、SIEはEVOの株式持分をインドのゲーム企業であるNODWIN Gamingに売却したことを発表。2028年までグローバルスポンサーとして関与するものの、EVOの運営はNODWIN GamingとRTSに引き継がれることとなりました。


そして、同年9月2日にQiddiyaの最高戦略責任者であるムハンナド・アルダウッド氏がLinkedInで、QiddiyaがRTSを完全買収したことを明らかにしました。アルダウッド氏が「最も重要なのは、この買収によってQiddiyaが世界最大の格闘ゲームイベントであるEVOの継続的な成長を無限の可能性で推進し続けることができるようになることです」と語る通り、Qiddiyaは今後EVOの運営に直接関与することとなります。

Qiddiyaは、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子が打ち立てた政府開発プログラム「Saudi Vision 2030」として企画されたプロジェクトの1つで、サウジアラビアに巨大なエンタメ複合都市を作るというもの。その運営組織はサウジアラビア公共投資基金(PIF)の支援を受けています。

サルマーン皇太子はゲーム・アニメ好きであることで知られており、2022年には「餓狼伝説」「龍虎の拳」「キング・オブ・ファイターズシリーズ」で知られるゲームメーカー・SNKの株式約96%を取得しています。

「餓狼伝説」「龍虎の拳」を開発したSNKの株式の96%以上をサウジアラビア皇太子財団が所有していることが判明 - GIGAZINE


さらに、任天堂やカプコン、コーエーテクモなど、名だたるゲームメーカーの株式も大量に保有しており、サルマーン皇太子が日本のゲーム業界に与える影響は決して少なくないと言われています。

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加えて、Qiddiyaは2024年からeスポーツの世界大会となるe-Sports World Cup(EWC)を開催。eスポーツ史上最大の賞金規模が話題を呼び、たとえば2025年に「餓狼伝説 City of the Wolves」部門で優勝したGO1選手は賞金30万ドル(約4500万円)を獲得しています。


こうして、サウジアラビアが世界的なeスポーツの盛り上がりに大きく関わることについて、Kotakuは「今回の買収は、『ストリートファイター6』や『鉄拳8』といった格闘ゲームの最高峰イベントであるEVOが、サウジアラビアの『スポーツウォッシング』の格好の的になることを意味します」と批判しています。

eスポーツやサッカー、F1、ゴルフなどに巨額のオイルマネーを投じて世界的なエンタメ国家になろうとしているサウジアラビアですが、伝統的に女性の権利が大幅に制限されていることや、絶対君主制による実質的な独裁政治が依然として行われていることに対しては、世界中から批判が集まっています。

特にQiddiyaを推進するサルマーン皇太子は、サウジアラビア政府を批判したジャーナリストを暗殺するよう命令した疑惑があります。

ソフトバンクの孫正義ファンドでタッグを組むサウジ皇太子が暗殺命令か、実行部隊を捉えた監視カメラのムービーも - GIGAZINE


また、EWCを宣伝するドキュメンタリーが2025年1月に公開されましたが、サウジアラビアで配信されたバージョンではLGBTQ+について懸念を示す選手たちの発言が削除されていたことも話題となりました。

こうした問題を受けて、一部のプロゲーマー選手は「EWCは、人権問題から目をそらすための『スポーツウォッシング』に過ぎない」として、抗議の意味を込めてEWCへの参加を取りやめると表明しました。

記事作成時点では、サウジアラビアの投資ファンドはEVOの一株主に過ぎず、オーナーシップの変更が今後のEVOにどのような影響を与えるかは不明です。Kotakuは「少なくともサウジアラビアがEVOの年間トーナメント開催国リストに加わることになるでしょう。プロプレーヤーの反応もまだ不透明です」と述べています。

「モータルコンバット」「ドラゴンボールファイターズ」などのタイトルでEVOを何度も優勝しているSonicFox選手は自身がゲイであることを公表しており、QiddiyaによるRTS買収の報を受けて「私にとってEvoは、人生を懸けてきた目標であり、それを最後まで貫き通すつもりです。たとえ会場で声を上げるのが僕一人になったとしても、僕という存在が消されることは決してありません。グランドファイナルの舞台では、トランスジェンダーの権利を象徴する旗を振りながら、これまで以上に自分らしさを曝け出し、ただ声を張り上げるのみです」と述べました。

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in ゲーム, Posted by log1i_yk

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