AIを導入すると若年労働者の雇用が13%も減少することがスタンフォード大学の研究で判明

AIが発達するにつれて、「人間の仕事が奪われる」と懸念する声がしばしば上がります。スタンフォード大学の研究チームが発表した論文では、生成AIの普及が労働市場にどのような影響を与えているかを「6つの事実」として明らかにしています。
Canaries in the Coal Mine? Six Facts about the Recent Employment Effects of Artificial Intelligence — Stanford Digital Economy Lab
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(PDFファイル)Canaries in the Coal Mine? Six Facts about the Recent Employment Effects of Artificial Intelligence
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スタンフォード大学経営学部教授で情報経済学分野で最も引用数の多い著者の一人として知られるエリック・ブリニョルフソン氏らの研究チームは、アメリカ最大の給与計算ソフトウェア会社・ADPが作成した数百万人分のアメリカ人労働者の給与計算記録を分析して、AIの普及が労働市場に与えた証拠を調査しました。論文では、AIによって労働市場がどのように影響を受けたかという「6つの重要な発見」を示しています。
1:AIの影響を受けやすい職種において、キャリア初期の労働者の雇用が大幅に減少している
ソフトウェア開発者やカスタマーサービス担当者など、AIの影響を特に受けやすいとされている職種において、22歳~25歳のキャリア初期の労働者の雇用が大幅に減少していることが分析から明らかになりました。一方で、同じ職種における経験豊富な労働者は安定しているか成長を続けていることも分かりました。

2:雇用全体は成長しているが若年労働者の雇用は停滞している
AIの影響を受けにくい職種では、若年労働者の雇用増加率は高齢労働者と同水準にあります。一方で、AIの影響を受けやすい職種では、22歳~25歳の労働者の雇用が2022年末から2025年7月にかけて6%減少しているのに対し、高齢労働者は6~9%増加しているように、年齢層によって差異が生まれています。研究者らはこれを「高齢労働者の雇用が成長を続ける中で、22歳から25歳の若年層の全体的な雇用成長が鈍化している要因が、AIの影響を受ける職種における雇用であることを示唆しています」と結論付けました。
3:AIは必ず雇用減少と結び付くというわけではない
研究チームは、AnthropicのClaudeへのプロンプトを分析し、その職業のタスクを「代替」するものか「補完」するものかの程度を推定し、AIの使い方と雇用の関連を分析しました。結果として、単純な仕事を自動化するなど「代替」の形でAIを導入した場合、AIは初級職の雇用を減少させましたが、仕事を「補完」する形でAIが導入されている場合、雇用の減少は見られず、むしろ雇用が増加したケースも確認されました。
Anthropicが2025年3月に公開したClaudeの使用状況レポートでは、コーディングや教育、科学などの分野や、デジタルクリエイティブに関連するタスクでもよく利用されていることが判明しました。また、経済活動でどのようにClaudeが使われているかについての論文では、ソフトウェア開発とライティングが全体の約半分を占めていることが示されました。AIの活用方法では、全体の57%が「補完」、43%が「代替(自動化)」と分析されています。
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4:雇用の減少は業界や企業の状態を問わない
若年労働者の雇用が減少したという全体の傾向は、たまたま調査対象の若年労働者が不景気な業界や企業に多く属していたことで、コストカットや新型コロナウイルスの影響などを受けた可能性があります。そのため、研究チームは「firm-time effects(企業・時点効果)」という調整を入れることで、業界や企業レベルの不況や局所的なショックが、最終結果に影響しないような分析も実施しました。結果として、業界や企業レベルのショックを調整した後でも、若年労働者の雇用は13%の相対的減少が確認され、「雇用の減少は特定の業界や企業の影響を受けたものではなく、AIの導入によるものである可能性が高い」と結論付けられています。
5:労働市場の調整は賃金ではなく雇用において顕著
AIの影響を受けやすい職種かどうかや、労働者の年齢は、調査期間において年収の傾向にほとんど差は見られませんでした。AIの導入によって賃金が減少したというケースはほとんどなく、AIは賃金よりも雇用に大きな影響を与えている可能性が高いと研究者らは述べています。
6:多様な業種・職種で一貫した結果
AIによって若年労働者の雇用が減少するという傾向は、「IT企業以外」「リモート不可職種」「学歴層の異なる職種」など、さまざまに切り口を変えて分析した場合でも、一貫した傾向が見られました。
論文のタイトルに付けられた「炭鉱のカナリア」とは、炭鉱労働者が有毒ガスに敏感なカナリアを坑内に連れて行くことで有毒ガスを察知したことから、「いち早くリスクや問題を察知するきっかけ」という意味で使われます。研究者らは「今回判明した6つの事実は、AI革命がアメリカの労働市場の新人労働者に重大かつ不均衡な影響を与え始めているという仮説と一致する、初期の大規模な証拠となります」と報告しており、AIによる労働市場の変化の初期兆候として若年労働者に影響が出ていると警告しています。
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