サイエンス

「経済状況の悪化」が反移民的な陰謀論を助長することが研究によって明らかに


これまでの研究で、陰謀論を信じやすい人は自分の認知能力を過信しがちであり、被害者意識が強い傾向がみられることがわかっています。新たな研究では、経済的に恵まれていない状況を経験したり、自分が貧しいと感じたりすることが、反移民的な陰謀論を助長することが判明しました。

The Interplay Between Economic Hardship, Anomie, and Conspiracy Beliefs in Shaping Anti‐Immigrant Sentiment - Hattersley - 2025 - Journal of Applied Social Psychology - Wiley Online Library
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jasp.70002


Worsening economic conditions fuel anti-immigrant conspiracy beliefs and support for violence
https://www.psypost.org/worsening-economic-conditions-fuel-anti-immigrant-conspiracy-beliefs-and-support-for-violence/

これまでの研究では、将来に対する不確実性が増したり社会の分断が進んだりしたタイミングで陰謀論が繁栄しやすいことがわかっており、経済的ストレスも特定集団への恨みや不信感を助長する可能性があることが示されています。しかし、これらの要因が反移民的な陰謀論を助長するかどうかを調べた研究はなかったとのこと。


そこで、イギリス・ノッティンガム大学の社会心理学者であるダニエル・ジョリー准教授らの研究チームは、経済的に困窮することが社会規範の崩壊を意味するアノミーの感覚を増大させ、それが社会問題の原因が移民にあると信じ込む陰謀論的思考の受容性を高めるかどうかを調べました。

ジョリー氏は心理学系メディアのPsyPostに対し、「アイルランドとイギリスの両国で、非ヨーロッパ系移民への攻撃が頻発していました。私たちは、表面的な態度を超えて、この敵意のより深い心理的要因を理解したいと考えました」「経済的困難と社会が崩壊する感覚(アノミー)が、移民に関する陰謀論をどのようにあおるのか、そしてこうした信念がどのように暴力的な意図へとエスカレートするのかを調査しました」と述べています。


まず研究チームは、イギリスとアイルランドに住む成人984人を対象に、経済状況や社会の衰退に関する認識、反移民的陰謀論への信念、非ヨーロッパ系移民に関する政策や行動への支持について質問しました。これらの質問には難民による福祉へのアクセス制限、暴力行為の正当化といったものも含まれていたとのこと。

質問の結果、被験者が認識している経済的困難と現実に起きている経済的困難の両方が、高いレベルのアノミーと関連していることが示されました。さらにアノミーは、「移民がひそかに国家の価値観や経済を損なおうとしている」という陰謀論を信じる傾向と強く関連していました。これらの陰謀論を信じる人々は差別的な政策を支持したり、暴力を容認したり、自ら暴力に関与する意図を表明したりする可能性が高かったとのことです。

実際に、イギリスの経済的に恵まれない地域と裕福な地域に住む被験者760人を対象にした実験でも、貧困地域に住む人々はアノミーのレベルが高く、反移民陰謀論への信念が強く、移民政策への支持が低いと報告されています。

続いて研究チームは、「自分が高所得層または低所得層に属する架空の社会」と被験者に想像してもらった上で、アノミーや移民に関連する陰謀論について回答させる実験も行いました。すると、やはり低所得層に属している想像をした被験者は、アノミーを感じる傾向が強く、移民に関する陰謀論を信じており、移民に対する暴力や抗議活動も強く支持していることが示されました。

最後の実験では、被験者に「自分が高所得層または低所得層に属する架空の社会」と想像してもらうことに加え、一部の被験者に「非ヨーロッパ系移民が密かに経済を不安定化させようとしていることを示唆する、捏造(ねつぞう)されたニュース記事」を見せました。その結果、陰謀論の記事を読んだ被験者は対照群と比較して、より強い陰謀論への信念と移民に対する否定的な態度、そして暴力的行動への意欲の増加を示しました。これは、低所得層に割り当てられた被験者で特に顕著だったとのことです。


ジョリー氏は、「これらの研究を通じて、経済的困難が社会の結束を弱め、非ヨーロッパ系移民に関する陰謀論的信念を助長する可能性があるという明確な証拠が見つかりました。こうした信念は、反移民的な態度や暴力の意図にさえ結びついています。重要なのはこの結果が、外国人嫌悪にはその態度に直接対処するだけでなく、『貧困や、社会が崩壊しつつあるという感情』という、根本原因にも対処する必要があることを示唆している点です」とPsyPostに語っています。

つまり、反移民的な陰謀論の拡大を防ぐには、ただ外国人嫌悪そのものに対処するだけでなく、経済的な貧困や社会秩序の維持といった点にも力を入れなくてはならないということです。ジョリー氏は、「私たちが作成した政策文書では、経済的困難は物質的な貧困を引き起こすだけでなく、社会の結束と政治的リテラシーを損なうと主張しました。私たちの政策提言は、外国人排斥に基づく暴力を削減するためのあらゆる戦略の一環として、こうした根底にある社会的・経済的不平等に対処することを求めています」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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