中国政府が密かに打ち上げ続ける人工衛星群「国網(Guowang)」の目的とは?

中国は地球の低軌道上に1万3000基の人工衛星群「国網(Guowang)」を打ち上げることを計画しています。この国網の目的は一体何なのかについて、テクノロジーメディアのArs Technicaがまとめています。
China’s Guowang megaconstellation is more than another version of Starlink - Ars Technica
https://arstechnica.com/space/2025/08/china-may-have-taken-an-early-lead-in-the-race-for-a-military-megaconstellation/

国網は、2021年に中国政府が設立した「SatNet」という企業によって管理されている人工衛星群です。SatNetは設立以来ほとんど情報を公開しておらず、自社ウェブサイトも存在しません。中国の宇宙開発当局もSatNetが打ち上げている人工衛星の詳細なスペックについては一切詳細を明らかにしておらず、消費者向けにサービスを販売する意向も一切示していません。
この国網は、SpaceXが提供する衛星インターネットサービスであるStarlinkのような消費者向けサービスを提供するとみられていますが、Ars Technicaは「Starlinkの中国版という枠を超え、はるかに多くのものを提供できる可能性があることが判明しました。中国政府は国網に関する詳細をほとんど公開していませんが、西太平洋における将来の武力紛争において、国網が中国軍に戦術的優位性をもたらす可能性があるという証拠が増えています」と指摘しました。
中国が開発中の人工衛星群は国網だけではありません。中国が展開するもうひとつの人工衛星群である「千帆(Qianfan)」は、Starlinkに近いものと思われています。千帆の人工衛星は平らな形状をしており、打ち上げロケットの先端に容易に搭載することができるというものです。これはSpaceXがStarlinkで先駆的に採用した設計手法だそうです。なお、千帆では2024年に約1300基の人工衛星を打ち上げています。
一方で、国網は複数の企業が製造した人工衛星で構成されており、複数種類のロケットで打ち上げが行われているそうです。国網はアメリカ軍がMILNETと呼ぶ衛星ネットワークと類似しています。MILNETはアメリカの宇宙軍と国家偵察局のパートナーシップにより構築されるもので、SpaceXのStarshieldを用いて軍が幅広い用途に利用できる「ハイブリッドメッシュネットワーク」の構築を目指しています。
国網衛星を搭載した長征5号

2025年7月27日、SatNetは国網衛星を5基打ち上げました。国網衛星を打ち上げるために利用されているロケットは、1度の打ち上げで5~10基の人工衛星を運搬できます。一方、Starlinkの人工衛星の打ち上げに利用されているファルコン9は、最大28基の人工衛星を運搬することが可能です。ただし、国網の打ち上げロケットはファルコン9の3~4倍の高度(高軌道)に人工衛星を運搬することができるという点で、優れています。なお、国網の人工衛星打ち上げがスタートしたのは2024年12月で、記事作成時点で72基の人工衛星の打ち上げに成功しました。
中国が国際電気通信連合(ITU)に提出した書類によると、国網の人工衛星はStarlinkとほぼ同高度の500~600kmを周回するものと、高度1145kmを周回するものがあります。ただし、記事作成時点で打ち上げられている人工衛星は、すべて高度1145kmにあるそうです。
より高い高度に人工衛星を打ち上げる必要があるため、ロケットが運搬可能な人工衛星の数は限られます。一方で、より高い高度に打ち上げられるため、人工衛星1基でカバーできるエリアは広くなり、ネットワークを構築するために必要となる人工衛星の数は少なくなるそうです。
中国政府が公表した国網衛星の写真が以下。

軍事用語において、標的を検知・追跡・照準・攻撃するための相互接続リンクは、「キルチェーン」または「キルウェブ」と呼ばれます。アメリカ宇宙軍は宇宙開発庁(SDA)と協力し、MILNETやその他の将来的に構築される衛星ネットワークを通じてキルチェーンの開発を推進しています。
アメリカ当局は国網が中国独自のキルチェーンになると考えています。中国メディアの報道によると、国網衛星はブロードバンド通信ペイロード、レーザー通信端末、合成開口レーダー、光学リモートセンシングペイロードなどさまざまな機器を搭載している可能性があります。もしもこれが実現していれば、Starshieldや宇宙開発庁が計画している将来的に展開される予定の人工衛星群、MILNETといったプログラムをすべて融合させたようなネットワークを構築できるとArs Technicaは指摘しました。
宇宙軍の作戦部長を務めるチャンス・サルツマン大将は、2025年6月に上院委員会で中国が独自のキルチェーンを構築しようとしているのではないかと「懸念している」と証言。さらに、「宇宙から可能になった標的捕捉能力は、兵器システムの射程距離と精度を向上させました。そのため、西太平洋において中国に十分接近して軍事目標を達成することは、その能力を否定・妨害・弱体化させなければ危険にさらされるほどです」「これが最も差し迫った課題であり、宇宙軍は、このキルチェーンを阻止するため、宇宙制御と対宇宙能力を必要としています」と主張しました。
インド太平洋米宇宙軍司令官であるアンソニー・マスタリル准将も、中国が国網のような衛星ネットワークを軍事演習にどう組み込むか、アメリカ政府が注視していることを明かしています。マスタリル准将は「興味深いのは、中国がアメリカの戦略を模倣し続けていることです」「中国は再利用性を追求し、打ち上げ能力の向上を目指していますが、これはおそらく現状の中国にとって弱点のひとつでしょう。中国は打ち上げペースを速める計画も持っているようです」と語りました。
国網衛星の打ち上げに利用されている長征6号

中国はまだ打ち上げロケットのブースターの回収・再利用は行っていませんが、複数の中国企業が既に開発に取り組んでいます。中国にはSpaceXのような企業は存在しておらず、2025年の中国によるロケット打ち上げのペースはSpaceXの半分弱です。しかし、2025年8月時点で国網衛星の打ち上げが相次いで行われているため、中国のロケット技術が急激に向上している可能性をArs Technicaは指摘しています。
マスタリル准将は「中国の具体的な目標は、アメリカの高価値資産を、彼らが望む時と場所で追跡し、攻撃できるようにすることです」「彼らが必要とするセンサー能力は、静止軌道(GEO)に設置するセンサーから、低軌道(LEO)に設置する大規模メガコンステレーションまで、複数の軌道にまたがり、多様化しています」「つまり、あらゆる兆候が、アメリカ空母を標的にできる可能性を示しています。タンカーやAWAC(極超音速偵察機)といった空中の高価値資産です。これはアメリカの介入を防ぐための戦略であり、彼らの宇宙アーキテクチャはまさにそのために設計されているのです」と語りました。
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in メモ, Posted by logu_ii
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