わざと「恥知らず」になる戦略が有効であることがビジネスや選挙を通じて明らかになりつつある

一般的に「恥知らず」であることはよくないとされており、人前で堂々と恥ずかしい行いをすれば批判されます。ところが作家のナディア・アスパルホワ氏は、2019年の時点で「戦略的に恥知らずとして振る舞うことがビジネスや選挙などで有効になっている」と指摘していました。
Nadia Asparouhova | Shamelessness as a strategy
https://nadia.xyz/shameless

アスパルホワ氏は人狼ゲームに似た「レジスタンス:アヴァロン」というボードゲームを愛好しているとのこと。人狼ゲームではプレイヤーが村人陣営と人狼陣営に分かれ、村人陣営は人狼陣営が誰なのかを探って疑わしい人物を処刑する一方、人狼陣営は正体がバレないように振る舞ってひそかに村人を殺害していきます。
アヴァロンも人狼ゲームと同様、「正義」と「邪悪」の2つの陣営に分かれてお互いを探り合うゲームです。正義陣営に含まれる役職には、邪悪陣営が誰なのかを知ることができる「マーリン」があります。マーリンは邪悪陣営の内訳を知っているものの、ゲームの最後に邪悪陣営がマーリンの正体を当てた場合は邪悪陣営の勝利となってしまうため、マーリンは自ら正体を明かして邪悪陣営を公表することができません。
そこで、一般的にマーリンが取る戦略が、別の正義陣営の役職である「パーシヴァル」をおとりとして利用します。パーシヴァルは「誰がマーリンなのか」を知ることができるため、ゲーム中はマーリンの言動をひそかにチェックして邪悪陣営が誰なのかを読み取り、その一方で邪悪陣営の注意を自分自身に向けてミスリードします。
しかし、より大胆なマーリンの戦略として、「あえてマーリンであるかのように振る舞っているパーシヴァルのふりをする」というものがあります。この場合、マーリンは自分が知っていることをわざとひけらかし、邪悪陣営に「自分がマーリンだとバレるようなことをおおっぴらに言う愚かなマーリンがいるはずない。こいつはパーシヴァルだ」と思わせます。つまり、わざと「恥知らず」な行為をすることで自分を愚かに見せ、全体を自分にとって有利な方向に誘導するというわけです。

アスパルホワ氏は、マーリンがパーシヴァルであるかのように振る舞うものと似た「恥知らず」な戦略が、主流になりつつあると主張しています。このアプローチを現代で初めて広めた人物として、アスパルホワ氏はパリス・ヒルトン氏の名前を挙げています。
大金持ちの家に生まれたヒルトン氏は若い頃からモデル活動を行っており、2003年のリアリティ番組の放送直前に元恋人とのセックステープがリークされたことで、一気に知名度を上げました。ヒルトン氏は有名人にとっての「当たり前」のルールにとらわれず、「金髪の愚かな相続人」というステレオタイプを巧みに演じることで、本当に愚かなのだと人々に思わせたとのこと。人々はヒルトン氏のことを「自己中心的で大げさ」といった風に軽視していましたが、セレブ芸能人のはしりとして大成功を収めました。
ヒルトン氏はあえて恥知らずに振る舞うことでビジネス的に成功した人物のひとりであり、同様の「恥知らず」な戦略は2016年のアメリカ大統領選挙でもみられたとのこと。この選挙では、共和党のドナルド・トランプ氏が過激で大胆な発言で注目を集め、それを既存の政治家らが批判するという構図が生まれましたが、結果的にトランプ氏が勝利を収めました。アスパルホワ氏は、「10年後に私たちはあの選挙を振り返り、全く新しい政治スタイルの幕開けだったと気づくでしょう」と述べ、2016年以前の戦略に固執する政治家は今後も苦戦するだろうと予想しています。
人間は本能的に恥知らずな行為を罰したいと感じるため、恥知らずに振る舞う戦略は直感に反するように思われます。実際、歴史的には恥知らずな人間は制裁を受け、それによって協調的な社会が保たれてきました。これは、人々が同じルールに従うことを保証させ、社会秩序を維持する上でも重要です。

ところが近年はこの構図が崩れ、あえて恥知らずに振る舞うことで社会的な報酬が得られるようになっています。その理由についてアスパルホワ氏は、現代では「社会的な境界線」が曖昧になっていることが原因なのではないかと考察しています。
コミュニティの規模が「村」や「貴族社会」といった風に限定的であれば、コミュニティへの人の出入りが少ないため、特定のコミュニティに受け入れられることが高い価値を持ちます。しかし、現代の特にオンラインコミュニティは境界線が曖昧で、人々の出入りも非常に流動的であるため、制裁はむしろ「こういう人間がいる」というシグナルを広める程度の効果しか持ちません。
このシグナル伝達により、恥知らずな振る舞いをした人に共鳴する人々が外部から引き寄せられるため、本来は罰であるはずの制裁は「夜空に向かって真っすぐ打ち上げられる照明弾」になっているとアスパルホワ氏は指摘。確かに恥知らずな行動は人々から嫌悪感を抱かれるかもしれませんが、その言動に共鳴する「信者」が集まって新たなコミュニティが形成されれば、もはや既存のコミュニティから阻害されようが関係ないというわけです。
アスパルホワ氏は、「恥知らずな行動が長期的にどのような影響を与えるのか、私にはよくわかりません。また、誰もが勝つためにこの戦略を取らなければならないとも思いません(少なくとも、そうであってほしいと思っています)。しかし、私が確信しているのは、同年代の仲間が誰かを軽蔑のまなざしで眺めたり、『恥知らずだ』と非難したりするのを目にした時、彼らを軽率に切り捨てるのではなく、その行動をもう少し詳しく分析するべきだということです」と述べました。
ソーシャルニュースサイトのHacker Newsでは、アスパルホワ氏の記事についてさまざまなコメントが寄せられています。
Shamelessness as a strategy (2019) | Hacker News
https://news.ycombinator.com/item?id=44945943
あるユーザーは恥知らずに振る舞う戦略について、お金持ちがあえてカジュアルな服を着るといった風に、自分を取り繕うために投資しなくなる「カウンターシグナリング」のようなものだと指摘。これに対し別のユーザーは、恥知らずとカウンターシグナルは異なるものであるが、「自分に自信を持っている」という基礎は共通しているとコメントしています。

また、恥知らずに見える人が好かれるのは、人々がありのままの姿である「本物らしさ」を求めているからだという意見や、ヒルトン氏の行動も恥知らずというよりも、逆境を「自分のものにした」という感じがするとのコメントもありました。
あるユーザーは、恥知らずに振る舞うという戦略を考えるには、それを取り巻くインセンティブ構造や道徳について考える必要があると指摘。

日常生活における「恥」が自己制御メカニズムではなくなると、議論の両側が相手を悪と見なしてヒートアップしてしまうと主張するユーザーや、恥知らずであることはアルコールに似てその人の特徴を増幅させるものであり、引き起こされる他者への悪影響も大きくなると懸念するユーザーもいます。
別のユーザーは、恥ずべきことや不快なことをするほど注目度が上がって人気者になれるリアリティ番組の構造や、嫌われ者になろうが注目されて動画が視聴されれば収益が得られる視聴ベースの収益化メカニズムも、恥知らずの戦略が有効になっている理由ではないかと指摘しました。
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