ネットサービス

ウクライナではロシアの攻撃に耐えられるようにStarlinkの機器を修理・改造する企業や技術者が育っている


2022年2月24日にロシアがウクライナ侵攻を開始して以降、ウクライナ国内の通信インフラストラクチャが使用不可になる懸念に対して、イーロン・マスク氏がCEOを務めるSpaceXは衛星インターネットサービス「Starlink」の提供を開始しており「マスク氏がロシアとウクライナ間の戦争で大きな影響力を持っている」と指摘されています。そんなStarlinkはウクライナで重要な軍事的役割を担っていることに加えて、Starlinkを修理するための工業を発展させていることが報じられています。

Ukraine's Self-Trained Techie Army Saves Ties to Musk's Starlink Satellites - Bloomberg
https://www.bloomberg.com/news/features/2025-08-13/ukraine-s-self-trained-techie-army-saves-ties-to-musk-s-starlink-satellites


Starlinkは人工衛星を用いてインターネットアクセスを提供するサービスのため、専用の受信アンテナを用いれば都会でも田舎でも同レベルの通信が可能となっています。そのため、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった際には、数日以内に数千台のStarlink用アンテナがウクライナへ届けられ、「戦いを大きく変えた」と評価されています。

ウクライナではStarlinkが普段の生活から軍の前線まで重要な役割を担っているため、2025年7月にStarlinkが世界規模の通信障害を発生させた際には、「ウクライナ侵攻が始まってから最長となる約150分間インターネットがダウンした」と大きな不安を招きました。

Starlinkの衛星サービスが世界中でダウン - GIGAZINE


世界のほとんどの地域でStarlinkの受信機が故障した場合、オンラインでSpaceXにサポート依頼を送信し、交換用のハードウェアなどを受け取ることができます。しかしウクライナでは、特に軍事関係の地域で使われているStarlink機器について、公式の交換や修理を速やかに受けることが難しくなっています。

また、SpaceXは「Starlinkの提供は人道的な用途で使われることを目的としており、攻撃のために使用させることは意図していなかった」と説明しており、ウクライナ軍に供与したStarlinkの一部機能を制限しています。また、アメリカのJ・D・ヴァンス副大統領が「アメリカの戦争への資金提供はもう終わりだ」と警告しているなど、ウクライナへの支援が減少する可能性が高まっています。

SpaceXがウクライナ軍の「Starlink」の利用を制限したと判明、「兵器化する意図はなかった」と幹部 - GIGAZINE

by Official SpaceX Photos

公式の修理を受けづらい点や、いつアメリカからのStarlinkの提供が途切れるか分からないという不安から、ウクライナ国内でStarlinkを修理したり調整したりするための動きが活発になっています。キエフに本社を置く「Stetman」という会社では、Starlink機器の修理やアップグレード、代替品の提供のために、140人の技術者やその他のスタッフを雇用しています。以下の画像は、Stetmanのドミトロ・ステッツェンコCEOがウクライナで損傷したStarlink端末を見せている様子。


また、オレグ・クトコフ氏は独学の専門家として2021年からStarlink機器の修理を始め、壊れた受信機を修理するDIYチュートリアルをブログで公開しています。クトコフ氏によると、ウクライナにはStarlinkの修理を専門とする工場が数十軒あり、そのほぼ全てが軍関係の工場であるとのこと。以下はクトコフ氏がブログで公開した写真で、左が砲撃によって破壊されたStarlinkの受信機で、右が正常にリペアした後。


ウクライナ通信部隊・サイバーセキュリティ部隊司令官の元顧問で、2025年7月時点ではポーランドに在住しているヴォロディミル・ステパネツ氏は、「People's Starlink」というオンラインコミュニティを立ち上げ、消費者向け技術に近いStarlink機器のメンテナンスのために、寄付者やIT専門家、その他の愛好家を集めています。ステパネツ氏によると、ウクライナには稼働していない機器も含めて30万台以上のStarlink端末が存在すると推定されますが、実際に使用されている現場は、Starlinkの使用環境として想定されていない場所も多いそうです。そのため、修理だけではなく、環境に耐えられる「再パッケージ化」の技術も必要だとステパネツ氏は述べています。

Bloombergの取材に応えたウクライナ軍で通信士を務める人物によると、Starlinkは使いやすさと迅速な導入のおかげで貴重なソリューションである一方で、前線でのネットワークは不安定なことが多く、有線またはモバイルインターネットでバックアップする必要があるとのこと。また、Starlink受信機のケーブルはネズミにかじられてしまうことが多いほか、接続と切断を繰り返すことで故障するケースも多発します。そのため、故障したStarlink機器の修理手段を、部隊によってさまざまなルートで確立しているそうです。


また、通常のStarlink接続では、専用のアンテナで衛星から通信を受け取り、Wi-Fiルーター経由でインターネットに接続できますが、ウクライナでは地上インフラが物理的に破壊されたり通信が遮断されやすかったりとStarlinkの接続が妨害されるケースが多発しています。そこで、ウクライナ最大の携帯電話事業者であるKyivstar(キエフスター)は、専用のアンテナを介さないStarlinkの「セル直結技術」に成功したと2025年8月12日に報告しています。

セル直結技術の場合、普通の4G対応スマートフォンが直接衛星と通信し、LTEバンドの周波数帯を利用してインターネット通信ができます。これにより、地上の基地局が破壊された場合でも、スマートフォンでメッセージや通話、将来的にはデータ通信も可能になります。

Kyivstarのオレクサンドル・コマロフCEOは、セル直結技術を2025年後半に商用可する計画を明かしています。Starlinkは直接接続サービスについてKyivstarをはじめとして10か国の通信事業者と契約を結んでおり、山岳地帯や森林、災害時の都市部などで活躍することが期待されています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
イーロン・マスクはロシアとウクライナの戦いをどのように変えたのか? - GIGAZINE

Starlinkの衛星サービスが世界中でダウン - GIGAZINE

SpaceXがウクライナ軍の「Starlink」の利用を制限したと判明、「兵器化する意図はなかった」と幹部 - GIGAZINE

SpaceXがxAIにおよそ3000億円を出資することで合意へ - GIGAZINE

太陽がSpaceXのStarlink衛星の寿命を縮めていると判明 - GIGAZINE

in ネットサービス, Posted by log1e_dh

You can read the machine translated English article Ukraine is home to companies and enginee….