社会的な交流を奪われて「孤独」が強制されると脳や体にどのような影響があるのか?

自分1人で平穏に過ごす時間は大切なものでもありますが、社会的交流を奪われて「孤独」が強制された場合、心身にさまざまな悪影響が及ぶ可能性があります。孤独が脳や体にどのような悪影響を及ぼすのかについて、教育系YouTubeチャンネルのTED-Edが解説しています。
What happens to your brain without any social contact? - Terry Kupers - YouTube

1人で静かに過ごす時間はストレス軽減になりますが、他者に強制された孤独は異なる影響を及ぼします。

孤独の影響は人それぞれですが、孤独である時間が長ければ長いほど症状は重く、持続する傾向があるとのこと。

生産的な仕事が与えられることもなく、1つの空間に数日か数週間、数カ月、あるいは数年にわたって閉じ込められた場合、その人の体にさまざまな変化が起こります。

強制的に孤独な状態に置かれた場合、初期の頃にストレスホルモンが急上昇し、やがてそのストレスが慢性的なものとなります。

社会的な交流や有意義な活動は感情の安定に不可欠です。他者との社会的な交流は、社会心理学者らが「Social Reality(社会的現実性、ソーシャルリアリティ)」と呼ぶものを育む上で重要です。ソーシャルリアリティは特定のコミュニティが共有する社会的に構築された世界観のことを指す言葉で、個人的な認識や生物学的な事実とは異なり、社会的な相互作用を通じて形成されるものです。

他者との交流がなければ、自分の認識が社会の中でどれほど合理的なのかを知ることはできません。そのため、コミュニケーションやタスクを奪われてしまうと、その人のアイデンティティや現実感が脅かされることになるとのこと。

ソーシャルリアリティが失われると思考が入り乱れ、衝動が占める割合が大きくなり、最終的にうつ病・強迫観念・自殺願望・妄想・幻覚などが引き起こされる可能性があります。

また、こうした興奮状態が長期化すると、恐怖やストレスを調整する脳の大脳辺縁系の活動が過剰になることがあります。

一方、推論や道徳的判断の中枢である前頭前皮質が萎縮し、集中力・記憶力・認知能力などが低下します。

こうなると、脳は合理的思考から感情的思考へと移行し、不安や怒り、不合理な行動に陥りやすくなるとのこと。

さらに、孤独によって時間感覚が失われてしまい、睡眠障害が生じることもあるほか、動悸(どうき)・頭痛・めまい・過敏症といった症状を経験しやすくなります。ストレスによる消化器系の問題や食欲不振によって体重が減少することもあるそうです。

激しい運動や読書、執筆といった健康的な習慣を身につけることである程度は悪影響を軽減できるものの、それにも限界があるとのこと。

国連や多くの人権団体、専門家などは、このような強制的で長期にわたる隔離を「拷問」に分類しています。

しかし、実際に多くの国々では刑務所や収容所の「独房」に多くの人々が収監され、それに耐え忍んでいます。

独房への収容はアメリカでも一般的であり、2019年にはアメリカだけで12万人以上の囚人が、わずか2メートル×3メートルほどの窓もない独房で1日22~24時間を過ごしていたとのこと。

アメリカの刑務所に独房を導入したのは、17世紀のクエーカー教徒のグループでした。クエーカー教徒のグループは、独房は反省とざんげをもたらすと考えていたそうです。

しかし、独房は最高裁判所や著名人など幅広い層からの批判に直面し、作家のチャールズ・ディケンズは独房への監禁を「肉体に対するどんな拷問よりもひどい」と非難しました。

1980年代には独房の使用は減少しましたが、その後はより懲罰的で厳しい法律が制定されたことを受け、アメリカの刑務所に収容される人数が急増。

刑務所の混雑が進むにつれて、所内での抗議活動や暴力事件も増加しました。これを受けて刑務所当局は、囚人を管理するために独房への監禁を利用するようになったとのこと。

多くの囚人が、「刑務官に口答えした」などの軽微かつ非暴力的な違反行為を理由に、独房へ監禁されているそうです。

以前から精神疾患を患っていた人は、独房に監禁されることで症状が悪化することも多いといわれています。

さらに、独房への監禁を経験した人は心的外傷後ストレス障害(PTSD)の兆候を示す可能性が3倍も高くなるほか、性格の変化を経験したり、一般的な状況で不安や妄想が増加したり、集中力を維持することや他者とつながることが難しくなったりすることもあります。

一部の州では重度の精神疾患や子ども、妊娠した女性を独房に監禁することを禁止しているほか、独房への収容期間を15~20日に制限している州もあります。しかし、必ずしもこれらの法律が順守されているわけではなく、刑務所当局が抜け穴を使って囚人を収容することもあるそうです。

独房への監禁は、刑務所内の暴力を減らすのに失敗しているだけでなく、むしろ囚人の更生を失敗させているとTED-Edは指摘しています。

一部の国々では独房を使わずにはるかに高い成果を上げています。たとえばノルウェーでは、人口あたりの収監者数がアメリカに比べてはるかに少なく、収容施設が教育や労働プログラムに費やすコストも囚人1人あたりで5倍近くに達するとのこと。

その結果、ノルウェーでは釈放後に再び刑務所に戻る人が非常に少なく、再犯率が世界で最も低い国のひとつとなっています。

TED-Edは、「これは、私たちは他の人々と一緒にいることで、より良い結果が得られると示唆しています」と述べました。

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in サイエンス, 動画, Posted by log1h_ik
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