ライティングの授業で「AIを使うな」と禁止するのではなくAI利用についてより深く問いかけた結果とは?

2022年にChatGPTが登場して以降、大学などの教育機関において学生らが生成AIを使用することの是非について、さまざまな議論が巻き起こっています。作家でありアメリカのバージニア大学でライティングの講義を受け持つピアーズ・ゲリー氏が、学生たちに対して生成AIの使用を禁止するのではなく、生成AIを活用してライティングの意味について考えさせる授業を実践し、「生成AIが発達したにもかかわらずライティングを学ぶ意味はあるのか?」という実存的な問いを投げかけた結果を報告しています。
What Happened When I Tried to Replace Myself with ChatGPT in My English Classroom ‹ Literary Hub
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ゲリー氏は多くの教師と同様に、過去2年間にわたり授業における生成AIの利用について考えを巡らせてきました。バージニア大学のような公立大学には、学生を新たな書き手や読み手にするという役目があると考える一方で、大学生は多忙な上に生成AIがあらゆるところに浸透している現状では、ライティングを生成AIに任せる正当な理由があることも理解しているとのこと。
そこでゲリー氏は2024年~2025年度に受け持ったライティングの講義で、「AIを一律で禁止するのではなく、AIについてより核心的で実存的な問いを投げかける」というアプローチを採用しました。まずは計72人の学生を対象に、「数学の授業で電卓を使うのは非倫理的である」「英語の授業で生成AIサービスを使うのは非倫理的である」といった主張について、同意するかどうかを尋ねました。その結果、電卓の利用を非倫理的だと判断した学生はわずか1人、中立だと回答した学生も5人にとどまった一方、生成AIの利用は17人が非倫理的だと判断し、中立だという回答も33人に上りました。
しかし、学生が生成AIの利用を非倫理的だと思っているからといって、実際に生成AIを使っていないわけではありませんでした。匿名で「単位取得のためにライティング課題で生成AIを使ったことがあるか」を尋ねたところ、多くの学生が生成AIを利用したことを認めました。その内訳は「初稿の編集」が22%、「アウトライン作成」が28%、「文言の解釈」が38%、「校正」が50%、「ブレインストーミング」が56%となり、少数ですが情報源の検索や初稿作成にAIを使った学生もいたとのこと。
この結果についてゲリー氏は、「もちろん、見方によってはこれらのユースケースの一部は非倫理的ではないかもしれませんが、これらのアンケート回答の矛盾は私を勇気づけました。学生たちは虚無主義的で容赦ない不正行為者ではなく、むしろ本当に混乱しているように見えました。私は、これらの混乱した学生たちと一緒に課題に取り組めると思ったのです」と語っています。

その後数週間にわたり、ゲリー氏は学生らにAIありとAIなしでそれぞれ一連のライティング課題をこなしてもらい、その結果を比較する授業を行いました。一般に学生らはAIに嫌悪感を示しており、AIの文章を人間の文章と比較して「味気ない」と評価していました。また、AIは引用や出典を偽造する傾向があることや、学生が決して使わない用法で「—(emダッシュ)」を使うこと、常に3つの例文を含む特徴があることなど、AIが生成する文章には特徴的なサインがあることに気づき始めたとのこと。
こうしたAIに関する会話を続ける中で、学生らは「AIはそのまま初稿を作成させるには適していないものの、執筆前後のブレインストーミングや編集段階では役立つ可能性がある」という意見を形成していきました。マサチューセッツ工科大学の言語学者らが発表したエッセイでも、人間はAIと協力することでより優れた結果を得られる可能性があると主張されています。
次の授業では、AIが創作活動に及ぼす影響についての研究を取り上げた2024年の記事を学生に読ませました。この研究では293人のアマチュア作家を募集して、それぞれに与えられたトピックについて「AIの助けあり」と「AIの助けなし」で短編小説を書いてもらい、出版業界とは関係ない読者600人にその文体や新規性、出版可能性についてランク付けしてもらいました。
その結果、AIの支援を受けて書かれた小説の方が新規性が8%、出版可能性で9%高い評価を受け、そのメリットは最も下手な書き手にとって大きいことが示されました。その一方で、AIの支援を受けて書かれた「創造的なストーリー」は、個別に見れば創造性が高いと評価されたものの、お互いにとても似ているということも判明。たとえば、「外洋での冒険」をテーマにした短編小説のアイデアをAIに出してもらうと、ほとんどが「宝探し」という言葉を軸に展開され、「本当のお宝は……」というフレーズが頻繁に登場することがわかりました。
作家が小説のアイデアをAIで得ると創造性は向上するが大きな問題も発生すると判明 - GIGAZINE

ゲリー氏は、学生らにこの問題についてディスカッションしてもらった後、その日の朝に課題として提出してもらった「エッセイのタイトル」を声に出して読むように促しました。この課題は、「AIを使って中間試験のエッセイのタイトルを作ってもらう」というもので、学生らはゲリー氏から与えられた「テクノロジーとの関係性」というテーマに沿って、AIを使ってタイトルを作成しました。
学生らはAIの助けを受けて作成したタイトルについて、いいものができたと感じていたそうです。ところが、実際に学生たちが読み上げたタイトルの一例は以下のようなものになりました。
『デジタル時代を生き抜く:テクノロジーが私たちの社会生活、学習、そして幸福をどう形作るのか 』
『デジタル時代を生き抜く:テクノロジーに関する個人的な考察』
『デジタル時代を生き抜く:私たちの生活におけるテクノロジーの役割に関する個人的視点と集団的視点』
『つながりをナビゲートする:テクノロジーと個人の関係性の探求』
『つながりから断絶へ:テクノロジーが私たちの社会生活をどう形作るか』
『つながりから気晴らしへ:テクノロジーが私たちの社会生活と学業生活をどう形作るか』
『つながりから気晴らしへ:テクノロジーとの愛憎関係を乗り切る』
『つながりと気晴らしの間:私たちの生活におけるテクノロジーの役割を探る』
学生たちは自分たちがAIと共に作ったタイトルがあまりに似通っているのを知り、明らかに気に入らない様子だったとのこと。ゲリー氏は「私たちが誰が使っても同じ結果が出る計算機に頼っていますが、文章作成の文脈で同じ結果が出るのは退屈なものです」と述べ、AIではトレーニングデータが強い影響を持っているため、どうしても似た結果が出てしまうと指摘しました。
一方、中間試験で書いてもらったエッセイをAIに書き直してもらい、それぞれを朗読して「どちらがAIに書いてもらった方なのか」を判断してもらうという授業では、満場一致でAI製のエッセイを学生が書いたものだと判断する事態も発生しました。これは、AIに書いてもらった方のエッセイに魅力的な女の子との出会いが記されていたためで、ゲリー氏も含めて「ロマンチック・コメディ」を現実のものと勘違いしやすいというバイアスを思い起こさせるものだったとのこと。

その後もゲリー氏は、「学生が提出したエッセイに対して自分が書いたフィードバックを、AIのフィードバックと比較してもらう」といった演習や、「AIの登場以前から大学においてさまざまな不正行為が問題となっていた」といった講義を通じて、学生にAIについての考えを深めさせました。
最終的に、「生成AIが発達したにもかかわらずライティングを学ぶ意味はあるのか?」という問いについてのエッセイを書いてもらったところ、72人中68人はライティングの講義やゲリー氏のような人間の講師が必要だと主張しました。多くの学生は、かつてはAIを頻繁に利用していたものの、今後はAIを使うことが少なくなるだろうという論を展開したとのこと。
しかし、中には「生成AIはすでにライティングプロセスの一部になっている」「バージニア大学のように全米でも優れた大学に入学する学生は、すでに優れた教育を受けているため、今更ライティングの講義を受けて少しの文章力向上を目指す必要はない」「ライティングの講義に費やされる学費や時間をもっと興味のあるものに費やした方が有益だった。文章を書くだけなら生成AIははるかに少ないコストで役に立つ」という意見もあったそうです。また、ライティングの講義には価値があると論じるエッセイを、明らかにAIを使って書いてきた学生もいたとゲリー氏は報告しました。
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