サイエンス

認知能力が高い人はモラルが低いという調査結果


イギリス人を対象にした研究で、認知能力の高い人々は道徳的価値観を支持しない傾向にあることが示されました。認知能力の高い人は倫理的または道徳的に成熟していると考えられることが多くありますが、そのような見方に疑問が投げかけられています。

People with higher cognitive ability have weaker moral foundations, new study finds
https://www.psypost.org/people-with-higher-cognitive-ability-have-weaker-moral-foundations-new-study-finds/

Higher cognitive ability linked to weaker moral foundations in UK adults - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0160289625000339

エディンバラ大学のマイケル・ザカリン氏らによると、認知能力と道徳的価値観を結びつけた先行研究はいくつかあるものの、高い認知能力と慈悲や公平性といったリベラルな価値観への支持が関連していることが示された研究もあれば、認知能力の高い個人が忠誠心、伝統、純潔性などに根ざした道徳原則を支持する可能性が低いことが示された研究もあるなど、両者の関係性は明確ではないそうです。


そこで、ザカリン氏らは道徳的価値観の測定方法を改善し、認知能力の測定には確立されたテストを使用することで、認知能力と道徳的価値観の関係を明確にすることを目的とした研究を行いました。

ザカリン氏らは、道徳的判断が6つの直感的な「基盤」によって導かれるという「道徳的基盤理論」に焦点を当てました。個人を害から守り公平性を促進する個人主義的な基盤「ケア」と「平等」、社会の階層を重視して共通の価値観構築を促進する拘束主義的な基盤「比例性」「忠誠心」「権威」「純潔性」の6つです。同じ道徳的価値観でも人によってどれを重視するのかには違いがあり、例えばリベラルは個人主義的な「ケア」と「平等」で高い得点を出す傾向にあり、一方の保守派は6つすべて、特に拘束主義的な基盤で高い得点を出す傾向にあるといった具合です。

認知能力がこれらの道徳的基盤と関連しているかどうかを検証するため、ザカリン氏らは2つの研究を実施しました。


最初の研究では、まずオンラインプラットフォームを通じてイギリスから802名の参加者を募集し、6つの道徳的基盤を測定する「道徳的基盤質問」に答えさせました。約2週間後、質問に答えた人のうち463名が言語的推理、数値的パターン認識、抽象的推理を測定する認知テストを完了しました。2つ目の研究では、別のイギリス人857名の成人を対象に、道徳的テストと認知テストを同じセッション内で実施しました。

この研究において、ザカリン氏らは先行研究で示されていた4つの仮説を検証しました。1つ目は、認知能力と道徳的基盤の間には何の関係もないという仮説。2つ目は、認知能力がすべての道徳的基盤を強化するという仮説。3つ目は、認知能力の高い人は個人主義的な基盤を支持するが、拘束主義的な基盤を拒否するという仮説。最後は、認知能力と道徳的基盤には負の関連性があるという仮説です。


研究の結果、最後の仮説が支持されました。2つの研究において、認知能力が高いことは6つすべての道徳的基盤への支持が弱いことと関連しており、言語的、数的、抽象的推理テストで高い得点を得た人々は、ケア、平等、比例性、忠誠心、権威、純潔といった道徳的基盤を「自身の道徳的アイデンティティにおいて重要でない」と評価したとのことです。

これらの関連性は規模は小さかったものの統計的に有意であり、2つの研究でほぼ同じパターンを示したほか、性差もなく、認知能力と道徳的基盤の関連性は男女共に同じ負の関連性のパターンが示されていました。

特に際立っていたのは言語能力と純潔の間に再現可能な負の相関関係があることでした。ザカリン氏らは、高い言語能力に関連する豊富な語彙(ごい)に特有の何かが、「身体は尊重されるべき神殿であり、暴食、薬物使用、性の開放性といった誘惑を恐れるべきである」という、伝統的な純潔観念への固執を低下させる作用があるのではないかと推測しています。


ザカリン氏らは「道徳はしばしば善悪に関する直観的な感情に根ざしているのに対し、分析的思考はこうした強い感情的要素を欠く傾向がある。認知能力が高い人は直感的な反応を表面的に受け入れるのではなく、疑問視したり再解釈したりする傾向が強いのかもしれない。また、高い認知能力に伴う高い自律性により、道徳的価値観から生じる制約を必要がないと思うようになるのかもしれない」と指摘しました。

ザカリン氏らはまた、「この研究は西洋の英語圏の人々を対象としているため、他の文化圏で同じパターンが成立するかどうかを検証するための追加の研究が必要だ」と付け加えました。

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in サイエンス, Posted by log1p_kr

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