学生ローンの借金がある人は選挙で投票したり政治活動に関わったりする可能性が高い

大学の授業料が急激に上昇しているアメリカでは、4000万人以上の成人が学生ローンの借金を抱えており、その総額は1兆8000億ドル(約270億円)に達します。フロリダ大学の政治学者であるデヴィッド・マクドナルド助教が行った研究では、学生ローンの借金がある人はそうでない人と比べて、選挙で投票したりその他の政治活動に関わったりする可能性が高いことがわかりました。
Student Loan Debt and Participation in American National Elections - David Macdonald, 2025
https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/10659129251331004

Student loan debt doesn't deter civic engagement — it may actually drive it, new research suggests
https://www.psypost.org/student-loan-debt-doesnt-deter-civic-engagement-it-may-actually-drive-it-new-research-suggests/
アメリカでは多くの成人が学生ローンの借金を抱えており、近年は高騰する大学授業料や賃金の停滞なども相まって、学生ローンは政治的な争点のひとつとなっています。特に若い世代のアメリカ人や進歩的な政策立案者にとってこの傾向は顕著ですが、学生ローンによる借金の有無が政治行動に与える影響については、これまでほとんど研究されてきませんでした。
そこでマクドナルド氏は、アメリカ大統領選挙と中間選挙の前後に実施される全国調査・Cooperative Election Studyのデータを用いて、学生ローンの借金の有無が国政選挙への参加を予測するかどうかを検証しました。
年齢・教育・収入・人種・政治的関心・選挙運動への接触といった要因を考慮して分析したところ、学生ローンの債務があるアメリカ人はそうでないアメリカ人と比較して、大統領選挙で投票する割合が高いことが判明。また、政治的な看板を庭に設置したり、選挙活動に協力したり、政治活動に寄付したりする可能性も高いことがわかりました。この結果は、住んでいる場所が共和党と民主党が拮抗(きっこう)する激戦州なのか非激戦州なのかにかかわらず一貫していたと報告されています。

学生ローンの借金がある人の方が積極的に政治へ関与するという結果は、「経済的に困難な状況は人を政治参加から遠ざける」という一般的な考えに反しています。複数の先行研究では、失業や経済的不安、ストレスといった要因が政治参加率を下げることが示されており、これを踏まえると学生ローンの借金も、人々を政治活動から遠ざける方が自然に思えます。
この問題についてマクドナルド氏は、「クレジットカードなどの借金とは異なり、学生ローンの借金は連邦政府にしているものだから」という説を提唱しています。学生ローンの90%以上は連邦政府が提供しており、政府は返済条件や返済猶予期間の設定、返済免除プログラムの策定において中心的な役割を果たしています。
学生ローンと連邦政府の直接的な結びつきにより、学生ローンの借金がある人は自らの負債を「連邦政府に管理されたもの」であると認識し、政治的行動によって借金を減らせると考えている可能性があるというわけです。
実際に2023年の世論調査では、学生ローンの借り手の70%以上が自分のローンが連邦政府にしたものだと正しく認識していることが判明。また、新型コロナウイルスのパンデミックに伴う返済の一時停止や、債務免除の提案といった政策についても、一般の人々よりもはるかによく理解していたとのことです。

学生ローンの借金がある人の政治活動が政策に影響するかどうかを調べるため、マクドナルド氏は2019年の世論調査データを検証しました。その結果、学生ローンの借金がある人はそうでない人に比べて、学生ローンの免除や公立大学の授業料無償化を支持する傾向が有意に高いことがわかりました。
たとえば、学生ローンの債務を持つ人の66%が既存の学生ローン債務の免除を支持したのに対し、債務を持たない人では支持率がわずか31%にとどまりました。この違いは、学生ローンの借金がある人の投票率の向上が、選挙結果や政策に具体的な影響を及ぼす可能性があることを示唆しています。
なお、今回の研究には注目度が高い大統領選挙の年に焦点を宛てていることや、ローン額や精神的負担の差を考慮していないといった限界があります。また、ジョー・バイデン前大統領の下で実施されていた学生ローン免除政策が、長期的な政治参加にどのような影響を及ぼすのかといった点も未解決の問題となっています。
心理学系メディアのPsyPostは、「政府の措置が借り手の経済的負担を軽減するのに成功した場合、政治参加と個人の幸福感との関連性が、より強く認識される可能性があります。一方、約束された改革が停滞したり阻害されたりした場合、借り手は失望したり政治的に分極化したりするかもしれません」と述べました。
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