遺伝子治療で先天的難聴や重度の聴覚障害の人の聴力が1カ月~数カ月で改善、副作用も許容の範囲内

スウェーデン・カロリンスカ研究所などが行った研究によって、遺伝子治療が、先天的難聴や重度の聴覚障害を持つ人の聴力改善に効果があることが示されました。すでに、10代未満の子どもを対象にした治療でポジティブな効果が報告されていましたが、今回の研究では10~20代の若者を対象に初めて治療が行われています。
AAV gene therapy for autosomal recessive deafness 9: a single-arm trial | Nature Medicine
https://www.nature.com/articles/s41591-025-03773-w

Gene therapy restored hearing in deaf patients | Karolinska Institutet
https://news.ki.se/gene-therapy-restored-hearing-in-deaf-patients
この研究はスウェーデンの医科大学・カロリンスカ研究所が、遺伝子医療を手がけるオービッド・セラピューティクスから資金提供を受け、中国の東南大学付属中大医院などとの共同で行ったもので、論文が学術誌「Nature Medicine」に掲載されています。
研究対象となったのは、東南大学付属中大医院などに入院していた1歳から24歳の患者10名。この10名はいずれも、難聴の原因遺伝子「OTOF」の突然変異により、耳から脳への聴覚信号の伝達に重要な役割を果たすタンパク質・オトフェリンの欠損が起きることで、遺伝性難聴や重度の聴覚障害を持っています。
カロリンスカ研究所のマオリ・ドゥアン博士らは、合成アデノ随伴ウイルス(AAV)を用いて、耳の蝸牛基部にある正円窓と呼ばれる膜を介して機能的OTOF遺伝子を内耳に1回注入しました。
すると、注入から1カ月以内に患者の大半がある程度の聴力を回復したとのこと。特に5歳から8歳の若い患者に対しては効果が大きく、7歳の女児は聴力がほぼ全快し、4カ月後には母親と日常会話ができるようになったとのこと。
OTOF遺伝子を内耳に注入するという治療法はすでに中国では子ども向けに用いられており、ポジティブな結果が得られていました。しかし、ティーンエイジャーや大人向けの治療で用いられたのは初だとのこと。
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効果がどれぐらい持続するかについてはさらなる追跡調査が必要だとドゥアン博士は語っていますが、6カ月後に行われた追跡調査では、参加者全員の聴力が大幅に回復し、知覚可能な音が平均106デシベルから52デシベルへと改善したと報告されています。
なお、副作用として白血球の一種・好中球の減少がみられたものの許容範囲内で、6カ月~12カ月の追跡調査で、重篤な副作用は確認されていません。
ドゥアン博士は「OTOFの治療はまだ始まったばかりで、他の難聴の原因遺伝子であるGJB2やTMC1についても研究を広げています。治療はもっと複雑なものになりますが、動物実験ではすでに有望な結果が得られています。今後、さまざまな種類の遺伝性難聴の患者が治療を受けられる日が来ると確信しています」と語っています。
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in サイエンス, Posted by logc_nt
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