核融合による「ダイレクト・フュージョン・ドライブ」と太陽からのエネルギーで進む「ソーラーセイル」、太陽系外縁天体「セドナ」へ先に到達できるのはどちらか?

将来的に準惑星に分類される可能性のある太陽系外縁天体のひとつが「セドナ」です。このセドナの探査には、原子力推進とソーラーセイルのどちらが有効なのかを検証する論文が発表されました。
[2506.17732] Feasibility study of a mission to Sedna -- Nuclear propulsion and advanced solar sailing concepts
https://arxiv.org/abs/2506.17732
Feasibility study of a mission to Sedna - Nuclear propulsion and advanced solar sailing concepts
https://arxiv.org/html/2506.17732v1
太陽の周りを公転する天体のうち、海王星よりも遠くにあるものを太陽系外縁天体と呼びます。この太陽系外縁天体の代表例が、2006年までは太陽系の第9惑星とされていた冥王星です。冥王星は準惑星に分類され、第9惑星から外れることとなりましたが、これと同じく準惑星に分類される可能性がある太陽系外縁天体がセドナです。2003年にセドナが発見されてから、同天体の探査の可能性について長らく議論が続けられてきました。

by NASA/JPL-Caltech
このセドナを探査する上で期待されている先進的な推進コンセプトが、「ダイレクト・フュージョン・ドライブ(DFD)を用いたロケットエンジン」と「熱脱離を利用したソーラーセイル」です。これらの推進コンセプトが実際にセドナの探査ミッションに利用可能なのかについて、バーリ工科大学の飛行力学エンジニアであるエレナ・アンコーナ氏と、ニューヨーク市立工科大学のロマン・ケゼラシビリ氏が調査しました。
調査では地球からセドナへの片道ミッションとして「DFDロケットエンジン」と「ソーラーセイル」を利用する場合を想定しています。
DFDロケットエンジンは、重水素とヘリウム3の反応を燃料として用いた熱核融合推進システムで、コンパクトな核融合炉から推進力と電力の両方を生み出すことができるという画期的な推進システムです。火星への有人ミッションや太陽系外縁部への貨物輸送など、さまざまなミッションでの利用を想定して設計されています。
なお、今回の分析では一定の推力と比推力を持つ1.6MWのDFDロケットエンジンが想定されました。

DFDロケットエンジンを用いる場合の、セドナまでの軌道設計が以下。地球脱出軌道フェーズ、惑星間飛行軌道フェーズ、セドナにランデブーするための最終マニューバフェーズの3つのフェーズに分けて軌道が想定されています。

太陽系外縁部に到達するには高い巡航速度が必要となります。太陽近傍の領域で加速可能なソーラーセイルならば、容易に高い巡航速度に到達することが可能です。ソーラーセイルは太陽からの電磁放射を推力源とするため、搭載燃料を必要としない点がポイントとなります。ソーラーセイルは1960年代にNASAのジェット推進研究所で初めて開発され、1973年にパイオニア10号で実証されました。
以下はソーラーセイルの効率が、太陽に近づくにつれて向上することをわかりやすく示したグラフ。縦軸が太陽放射圧、横軸が太陽までの距離を表したものです。

セドナへの飛行にソーラーセイルを用いる場合、木星通過時にフライバイすることで、大幅な速度アップが可能となります。フライバイとは、重力アシストやスリングショット操作とも呼ばれる、惑星に接近することで宇宙船の軌道と速度を変更する技術です。搭載された推進力だけに頼るのではなく、惑星の重力場を利用することで推力の増減を実現します。この方法により、燃料消費を抑えながら遠方の目的地に到達できるようになるため、太陽系内外の探査において非常に期待されています。
以下のグラフは木星でのフライバイオプションを示したもの。緑色の線が地球の周回軌道で、黒色が木星の周回軌道、赤・青・水色の線が木星でのフライバイを行う際に想定される軌道です。

研究チームがDFDロケットエンジンとソーラーセイルに関する詳細な数値を想定し、それぞれがセドナまで飛行するのにどれくらいの時間が経過するのかを推定した結果、DFDロケットエンジンは約10年(総推力持続時間1.5年)、ソーラーセイルは約7年でセドナに到達できることが明らかになりました。この結果はペイロードの搭載可能性、電力の利用可能性、通信の制約も考慮されています。

by Breakthrough Initiatives
研究チームはDFDロケットエンジンについて、「100kg以上の本体重量と最大1500kgの貨物を積載できるという点で、DFDは遠距離目標へのあらゆるロボットミッションにとって真のゲームチェンジャーとなる」と指摘。
一方、ソーラーセイルについては「搭載ペイロードが小型(1.5kg)という制約はあるものの、深宇宙の探査の新たな可能性を切り開く小型化技術の継続的な進歩の恩恵を受ける可能性があります。小型で低質量の科学機器を搭載することで、厳しい質量制約の中で有意義なデータ収集が可能となるでしょう。搭載ペイロードとしては、表面組成分析用の小型分光計やセドナの磁気環境を調査するための小型磁力計、可視光線および赤外線スペクトルを撮影するための高感度カメラなどが考えられます。このミッションプロファイルは、その場での観測能力という点では制限があるものの、貴重なリモートセンシングおよび分光データが得られる可能性があります」と述べ、厳しい制約があるもののそれでも有意義なデータを収集できる可能性があると指摘しています。
・関連記事
地球外文明は宇宙船を使わずに「自由浮遊惑星」に乗って宇宙を旅している可能性 - GIGAZINE
わずか20年で40兆km以上離れた恒星にマイクロ宇宙船を送りこむ「ブレークスルー・スターショット」の新たな課題は「紙より薄い帆」にあり - GIGAZINE
太陽光を帆に受けて進む宇宙船「ライトセイル2号」が地球周回軌道上でのソーラーセイリングを実証 - GIGAZINE
太陽光で進むソーラーセイル宇宙船「ライトセイル2号」、地球周回軌道で実証実験へ - GIGAZINE
ソーラーセイル宇宙船「ライトセイル」が宇宙で太陽帆の展開に成功 - GIGAZINE
・関連コンテンツ
in サイエンス, Posted by logu_ii
You can read the machine translated English article A 'direct fusion drive' that uses nuclea….