サイエンス

地域の緑の量と警察による射殺の間には驚くほど強い関連性があることが判明


銃犯罪の多発に悩むアメリカでは、犯罪者による銃撃だけでなく、警察官による銃撃も深刻な社会問題となっています。一方、過去の研究では街路樹や公園などの自然の多さがメンタルヘルス睡眠と密接に関わっていることがわかっていますが、緑が豊かな地域では警察による致命的な暴力の発生率も低いことが新しい研究により判明しました。

Greenness, Deprivation, and Fatal Police Shootings: A Five-Year Nationwide Study in the United States - Jiali Li, Matthew E. Browning, William C. Sullivan, Xueming Liu, Bin Jiang, 2025
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/00139165251316106

New study finds link between green spaces and police violence – News Bureau
https://news.illinois.edu/new-study-finds-link-between-green-spaces-and-police-violence/

Surprisingly strong link found between neighborhood greenness and police shootings
https://www.psypost.org/surprisingly-strong-link-found-between-neighborhood-greenness-and-police-shootings/

アメリカで警察による重大な銃撃事件が繰り返し報道されていることに関心を持った香港大学のビン・ジャン准教授らの研究チームは、警察官の発砲が人命にかかわる事件に発展したケースと、その発生現場となった地域の自然環境との関係を分析しました。

まず、研究チームは警察による暴力を地理的にまとめた3つのデータベースから、2016年から2020年にかけてアメリカ全土の3108郡で発生した警察の銃撃事件を検索し、銃撃を受けた人が死亡したケース5000件超を抽出しました。


次に、地域の緑の量を定量化するため、研究チームは地球観測衛星「ランドサット8号」のデータを使い、4つの異なる季節の衛星画像から「正規化植生指数(NDVI)」と呼ばれる植生指数を割り出して、各郡の年間緑度レベルを計算しました。

また、より広範な社会的要因を分析するため、貧困の度合いや教育水準、失業率などを反映した「社会的貧困度指標」も調査されたほか、分析の際には、人口動態、経済状況、暴力犯罪率、銃規制、銃器の所有率、人の行動パターン、人種隔離の度合い、都市開発レベルなど、警察による銃撃事件に影響を与える可能性のあるさまざまな要因も考慮に入れられました。

その結果、緑地の多さが警察による致死的な銃撃事件の減少と関連するという、一貫したパターンが明らかになりました。具体的には、緑地指数が1単位上昇するごとに、警察による銃撃事件が15%減少していたとのこと。重要なのは、この負の関連は犯罪率や人口密度、社会経済指標を調整した後でも維持されたことです。

by William Sullivan

ジャン氏は「私たちの知る限り、警察による致死的な銃撃事件と緑の多さとの間に有意な関連性を報告した研究はこれが初めてです。多くの交絡因子をコントロールした後も、この関連性は依然として強固であり、これは景観の量と質が、より安全な地域や地区を実現する上で重要であることを示唆しています。多くの市民がこのような関連性を偶然だと考えることが多いため、交絡因子をコントロールすることは非常に重要です。また、今回の研究では、この関連性は人種、収入、人口密度、ジニ係数、性別、年齢、失業率、その他多くの要因とは無関係であることがわかりました」と話しました。

研究チームはまた、緑地の多さと警察による銃撃事件の関連性は、郡の社会的貧困度によって異なることも突き止めました。特に、貧困度が最も高い部類の郡では、緑地の多さが警察による致死的銃撃事件の減少に最も顕著な影響を与えていたとのこと。


また、警察による致死的な銃撃事件と緑地景観との負の相関は、都市部の郡の方が非都市部の郡よりも強くなっており、これは緑地景観の効果は都市化が進んだ地域でより大きくなる可能性があることを示唆しています。

研究チームは、この結果についていくつかの仮説を提示しています。まず、緑地は住民だけでなく警察官のストレスや不安感も軽減し、攻撃的な接触が起きる可能性を低下させるのではないかと考えられます。

また、緑豊かな環境は手入れが行き届いた安全な地域だという印象を与えるので、これが警察官のリスク認識に影響を与える可能性もあります。加えて、緑地は社会的な交流や地域社会の結束を促進することが多く、その影響で社会統制が強化され、警察の介入につながるような緊迫した事態の発生を抑制しているのではないかとも考えられています。


論文の著者らは、この研究には制限がいくつかあることを認めています。まず、今回の研究で判明した緑地と警察官による発砲事件の関係は相関関係であり、「緑地の多さが警察による銃撃事件を直接的に減少させる」といった因果関係が証明されたわけではありません。また、研究チームはさまざまな変数を調整して分析を行いましたが、まだ解明されていない要因が研究結果に影響を与えている可能性もあります。さらに、分析に使われたデータはオープンソースの記録から収集されたもので、これらの記録は不完全だったり、管轄区域によって報告の内容が一貫していなかったりするおそれがあります。

こうした課題はあるものの、研究チームは今回の研究結果が地域の安全に関するより広い視点を支持するものだと位置づけています。

ジャン氏は「もっと緑地を増やし、荒れ地を減らしましょう。緑地は社会的な交流やレクリエーション活動を促進し、住民や行政、その他の関係者の間の社会的結束と信頼をさらに深めることにもつながります」と話しました。

今後、研究チームは公園や街路樹など、最も重要な緑地の種類をより具体的に調査し、人々がこれらの環境をどのように認識し、どのように関わっているかを評価する予定とのことです。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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