金曜は全品10ドル・土曜は8ドル・日曜は6ドル・月曜は4ドル・火曜は2ドル・水曜は1ドルで売る謎の店「AMAZING BINZ」とは?

アメリカ・ペンシルベニア州のフィラデルフィアにある「AMAZING BINZ」という店は、店内すべての商品を「金曜日は10ドル(約1440円)・土曜日は8ドル(約1150円)・日曜日は6ドル(約860円)・月曜日は4ドル(約570円)・火曜日は2ドル(約290円)・水曜日は1ドル(約140円)」で販売するという不思議な店です。そんなAMAZING BINZの仕組みや店内に並ぶ商品について、1週間かけてAMAZING BINZに通い詰めたフリージャーナリストのジェン・キニー氏が報告しています。
Seven Days At The Bin Store | Defector
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「AMAZING BINZ」がウェストフィラデルフィアにオープンしたのは、2025年春のことでした。ある友人はキニー氏へのメッセージで「ついこの間見たんだけど、怖かった」と記したほか、他の友人からも「何なんだよこれ」「誰のための店なの?」といった反応が寄せられたとのこと。
AMAZING BINZは細長い建物の1階にあり、奥行きのある店内には中央に1本の通路が通っています。この通路の両サイドに木製の巨大なトレーテーブル(Binz)が並び、その中に「未開封のハロウィンコスチューム」「ペニス型の氷の型」「キラキラ輝くペニスの垂れ幕」「肘用の温冷圧縮ジェルスリーブ」「妊娠検査薬」「鼻毛のワックス脱毛セット」など、多種多様な消費財が無差別に積み上げられています。
AMAZING BINZの最大の特徴は、驚異的な価格設定です。AMAZING BINZに新しい商品が並ぶ金曜日は全品10ドルで販売され、そこから順に土曜日は8ドル、日曜日は6ドル、月曜日は4ドル、火曜日は2ドル、水曜日は1ドルとどんどん価格が下がっていきます。木曜日は定休日となっており、この日に新しい商品が補充されるとのこと。
以下のInstagramの埋め込み動画を見ると、AMAZING BINZの店内がどのようになっているのかわかります。
AMAZING BINZに強い興味を引かれたキニー氏はオーナーのアハメド氏に頼み、木曜日から水曜日まで1週間にわたってAMAZING BINZを取材することにしました。
◆木曜日:商品補充
木曜日はAMAZING BINZの定休日となっており、店はこの日に新たな商品を補充して箱に並べます。キニー氏が朝10時30分にAMAZING BINZを訪れると、大型ディスカウントスーパー・Targetから商品を積載したパレットが届くのを、アハメド氏がタバコをふかしながら待っていました。
AMAZING BINZが激安の商品を大量に仕入れられるのは、消費者側から生産者側に商品が送られる「リバース・ロジスティクス」という物流システムを利用しているためです。リバース・ロジスティクスで送り返される商品には、「シーズンが過ぎて売れ残った」「箱にへこみがあって返品された」「購入者が商品を受け取らなかった」「倉庫業者のスペースが不足して放出することになった」など、さまざまな理由で通常の流通からはじき出されたものが含まれます。
全米小売業界によると全商品の約17%が返品されているそうで、オンライン販売に限定するとその割合は30%にも達します。リバース・ロジスティクスに到達した商品を安値で買いたたいて売りさばく業者も増えており、Amazonもトラック1台分の不要品をまとめて売るB-Stockというサービスを自ら展開しています。中にはこうしたリバース・ロジスティクスの不要品パレットを購入し、配信しながら開封するインフルエンサーもいるとのこと。
AMAZING BINZが購入するパレットもリバース・ロジスティクスの流通に乗ったものですが、その正確な内訳は届くまでわかりません。販売する商品のうち、特に人気なのは家電製品や家庭用品です。アハメド氏は顧客もリバース・ロジスティクスの担い手の1人だと考えているそうで、キニー氏に「ここで商品を買って、eBayやAmazonで転売することもできるんです。そうすれば1日もかからずにお金が戻ってきます」と語りました。パレットの開封と商品の補充は重労働で、終わるのは夜になるそうです。
◆金曜日:全品10ドル
キニー氏が朝9時35分にAMAZING BINZに到着すると、すでに2人がドアの前に並んで店内をのぞき込んでおり、開店前の列の人数は30人以上に伸びたとのこと。AMAZING BINZは新商品の中から掘り出し物をInstagramで宣伝しているため、一部の客は「子ども用スクーター」「風呂場用のカゴ」など目当ての商品を決めてきています。また、そうでなくても全品10ドルなので、家電製品や転売しやすい商品が安く手に入るチャンスでもあります。
ネブラスカ州を拠点とする卸売業者兼コンテンツクリエイターのコルトン・カールソン氏は、2018年にAMAZING BINZのように不要品を売りさばく「BENZストア」を開店した当時、同様の店舗はアメリカに10軒もなかったと証言しています。それが数年で全米で3000軒ほどに増え、記事作成時点では1万軒を超えているとカールソン氏は推測しています。これには、オンライン販売での返品が増加したことに加え、新型コロナウイルスのパンデミック後の消費者支出の落ち込みにより、小売業者が過剰在庫の処分に困ったことなどが影響しているとのこと。
AMAZING BINZが開店すると狭い店内に人々が押し寄せ、子ども用スクーターやグリル、Targetブランドの家庭用品など、人気のある製品を確保しようと躍起になります。店内は狂乱状態になったそうで、ほしい製品が見つからなかった転売屋は「いつか誰かが撃たれる日が来る」と語ったほか、ある女性は「もう二度とこんなことはしません」と懲りた様子だったそうです。閉店する頃には、最も人気の商品が積まれていた手前の2つの箱は完全に空っぽになっていたと報告されています。
◆土曜日:全品8ドル
土曜日はウェストフィラデルフィアで農産物のマーケットが開かれる日で、金曜日の朝ほどではないもののAMAZING BINZの店内もにぎわいます。人気のある家庭用品や家電製品は金曜日のうちに姿を消し、代わりにサッカーボールや自転車のチューブ、サンドアートキット、衣類、靴といったそれほど高級ではない製品が補充されていたとのこと。
AMAZING BINZがあるボルティモア・アベニューという通りは、ペンシルベニア大学のキャンパスから東西に伸び、数百万ドル(数億円)の豪邸が立ち並ぶ高級住宅街から集合住宅、市内の最貧困地域までが混在しています。アハメド氏は当初、カフェかスイーツショップを開店したかったそうですが、許可取りや家賃などの兼ね合いもあって、経費や初期投資が抑えられるAMAZING BINZを開店することにしたそうです。アハメド氏はパレスチナのヨルダン川西岸出身であり、カウンターの後ろにパレスチナ解放を訴える旗を飾っています。
AMAZING BINZに対する反応はさまざまです。3つのバスケットに山ほど学校用品を詰め込む女性もいれば、「ペニスっぽい自然風景の写真集」を発掘して笑う人、結婚25周年のハート型のペーパーウエイトを見て感傷的になる人、目が合ったキニー氏に「こんな店見たことある?変だよ。長くは続かないんじゃないかな」と語ってくる人もいました。キニー氏の友人は「大きなふるい」の比喩を持ち出し、上から入ってきた膨大な商品が消費者というフィルターを通し、売れ残って不要なものが集まったのがAMAZING BINZだと主張。「あのゴミ箱は、海に捨てられる前の最後のステップみたいなものだよ」と語りました。
◆日曜日:全品6ドル
この日、キニー氏がAMAZING BINZに到着すると、AMAZING BINZのSNS担当であるオムラン氏が「普段は化粧品店のセフォラで65ドル(約9300円)で買う化粧水を見つけた」という買い物客と動画を撮っていました。オムラン氏はこうした動画をたびたび撮影し、SNSに投稿してアピールしています。
オムラン氏はAMAZING BINZの発注業務も担当しており、オークションサイトではなく倉庫担当者と直接連絡を取り、価格が高騰しやすい商品を購入しています。AMAZING BINZが1回に仕入れる不要品はトラック1台分で、平均価格は1万6000ドル(約230万円)ほど。合計数千点に上る商品1点あたりのコストを2ドルに抑えて、高価格帯と低価格帯のバランスをうまく取っています。
AMAZING BINZはすべての商品を同じ価格で販売しているため、掘り出し物を格安で購入するチャンスがありますが、代わりに「人魚のステッカー」「『BRIDE(花嫁)』と書かれたストロー」など、6ドルでも誰も買わないような商品も大量に紛れ込んでいます。キニー氏がAMAZING BINZの店内を歩いていると、時としてインスタレーションアートやメッセージ、警告のように感じることがあるとのこと。
キニー氏は、「数日間店内を歩き回れば、まるで幽霊屋敷の一室にいるような気分になるでしょう。そこは、世界経済で最も必要とされない製品が物質的な形態を持ち、動けなくなっている場所です。AMAZING BINZの有無にかかわらず、これらの物品はすでに作られて、そこに存在しています。その多くは便利なものですが、過剰で過熱した経済によって時代遅れになっています。ここでの買い物はまるで、リバース・ロジスティクスの負け戦をしているような気分です」と記しています。
◆月曜日:全品4ドル
この日のAMAZING BINZはかなり閑散としており、キニー氏もAMAZING BINZがいつまで続くのかと思わずにはいられなかったとのこと。すでにアメリカの他の地域では「BENZストア」のバブルが崩壊し始めているそうで、前述のカールソン氏も事態の悪化を予見し、2023年にリサイクルショップ事業を売り払って、卸売り事業に注力することにしました。しかし、少しでも節約したいという消費者ニーズは根強いため、中古品市場は成長を続けるだろうとカールソン氏は考えているそうです。
◆火曜日:全品2ドル
この頃になると、先週の木曜日に補充した商品のうちめぼしいものはほとんど売れてしまい、サンドアートキットも寝具もカーテンもなくなっています。アハメド氏によると、不要品パレットのコストが上昇しつつあるそうで、近いうちに値上げせざるを得ないとのこと。一方、オムラン氏はもう少し価格を安く抑えられると楽観視しており、「地域社会の節約のためなら何でもします」と話しました。
◆水曜日:全品1ドル
全品1ドルとなった水曜日の店内にどのような商品が並んでいるのかは、以下の埋め込み動画を見るとわかります。衣類や靴が多いようですが、中身のわからない段ボール箱なども山積みとなっています。
閉店まで残り1時間15分となった18時45分の店内は人でごった返しており、気に入った靴を見つけたものの片方しか見つからないという女性に対し、アハメド氏が「もう片方を見つけたら取っておきます」と主張してなんとか買わせようとしていました。キニー氏がドナルド・トランプ大統領の旗を見つけると、アハメド氏から「持っていっていいよ」と言われたので、どうせ捨てるだろうと思いつつバッグに押し込みました。
キニー氏はAMAZING BINZに通い始めてから1週間で、「猫用ベッド」「フェルトの花輪」「ハート型チョコレートボックス」「ペニス型のアイスキューブ」「自転車のチューブ」「効果のないアリ捕獲器」などを購入していました。これらの物が本当に必要だっただろうかと考えてみると、実用的なものは自転車のチューブか、効果があればアリ捕獲器くらいであり、大抵のものはInstagramのリールをなんとなく見てしまうように「そこにあったから買った」ものだとキニー氏は指摘しています。とはいえ、ガラクタの山を物色する行為には中毒性があり、今後は新しいフライパンや寝具を買う時はAMAZING BINZが第一候補になるとのこと。
キニー氏は、「最後に一周して、店の一番奥の隅に戻ります」「ここには不要な製品が集まっています。サプライチェーンの末端までフィルターされ、この最後のコンテナに積み重なって砂のように堆積しています。その山々を見つめていると、目の前で分解し始めるのではないかと期待してしまいます。それぞれの個々のアイテムがマイクロプラスチックの池に分解され、その価値がようやく尽き果てるのです。私はコンテナをそのままにして店を出ます。明日にはまた、満杯になっていることでしょう」とまとめました。
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