地域活性化で目指すべきは「イベント招致・産業誘致・聖地振興」ではなく「アーカイブ施設招致」とはどういうことなのか?

2025年5月に開催された「マチ★アソビ vol.28」で、「アニメアーカイブと行政の良い関係」と題した講演が行われました。本イベントは自由に記録・撮影OKということで、現地から情報を投稿していた参加者も少なからずいましたが、改めてどういった講演だったかをまとめてみました。
アニメアーカイブと行政の良い関係 - マチ★アソビ
https://www.machiasobi.com/stage/200/
講演を行ったのは一般社団法人日本アニメーター演出協会(JANiCA)事務局長で、特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)にも所属する大坪英之さん。講演は文化庁の「令和7年度メディア芸術連携基盤等整備推進事業」として行われました。

大坪さんは行政がアニメや特撮と絡めて取り組む「地域活性化」について、「イベント招致」「産業誘致」「聖地振興」「アーカイブ施設招致」という4つに分けて語りました。

既存の地域活性化事例はこんな感じで、イベントでは徳島の「マチ★アソビ」のほか、京都の「京都国際マンガ・アニメフェア(京まふ)」、広島県福山市の「フクヤマニメ」、アニメ『花咲くいろは』きっかけで生まれた石川県金沢市の「湯涌ぼんぼり祭り」などがあります。また、産業誘致は東京都のほか埼玉県、高知県などで行われているほか、聖地振興は『ガールズ&パンツァー』の茨城県大洗町などをはじめとした事例があります。アーカイブ施設は国立国会図書館のほかに、新潟大学や石神井公園ふるさと文化館などにあります。

具体的にイベントを挙げると、ファンに向けたもの、映画祭などなど、すでに年中あちこちでなんらかのイベントが開催されていることがわかります。

一方で、日本にはアニメーション制作会社が800社ほどありますが、そのほとんどは関東地方、特に練馬区や杉並区に集中しています。

そして、アニメなどに絡めた地域活性化は、すでにもろもろの要因による挫折事例が多数だとのこと。たとえば、イベントは前述のようにすでに毎週のように開催される状態にあるレッドオーシャンな上に、作品と関連性がないと集まるお客さんが興ざめしてしまうことがあります。そして企業誘致は、コンテンツ産業は東京に会社が集中していて、たとえば「あと10カットだけ欲しい」という事態が発生したとき、やはり距離は近い方が良いという事情があるほか、絵を描く人がいっぱいいなければアニメーション制作会社が成り立たないという事情から難しいとのこと。さらに聖地振興は作品とタイアップすることが難しいほか、作品がヒットするかどうかも運次第なところがある上に、事前にしっかりとした仕込みが必要となってくるため、そう容易ではありません。

また行政側の問題として、担当者がおおむね2~3年で異動してしまうこと、単年度事業会計のため予算をつけるのが難しいこと、そもそもアニメ業界の人たちと関わる機会がないため信頼関係を築きようがないという点、やることがいっぱいあるためうまくいかない、などが挙げられました。

これらについて大坪さんは「行政の人が悪いというわけではない」と述べ、行政担当者もがんばっていると説明。その点で「マチ★アソビはなんだかうまくいっている」とのこと。

「イベント招致はここからやるのは難しい、産業誘致も困難、聖地振興もできない」となったとき、それでもまだできるのが地縁によらない「アーカイブ施設招致」であるというのが、今回の講演の主張です。たとえば大坪さん自身、戦車が大好きなので、イギリスやフランスの僻地にあるような戦車博物館にも足を運ぶという経験があるように、たとえ、どんな土地にあろうとも、好きな人であれば足を運ぶであろうというわけです。

日本には、たとえば須賀川特撮アーカイブセンターや所沢の角川武蔵野ミュージアム、渋谷の東京アニメセンターのように、アニメ・特撮の資料がまとめられた博物館が点在しています。

「アーカイブ」「ライブラリー」「ミュージアム」は、いずれも資料保存のための施設ですが、アーカイブは研究のための一次資料を保存する研究者や関係者向け、ライブラリーは資料を閲覧できる一般向けの場所となるので閲覧する資料は中身が見られることが重要であり複製資料でもOK、ミュージアムは一般向けに資料を展示する場所なので複製ではない資料がよい、と大坪さんは定義しています。

文化庁では、国立映画アーカイブの相模原分館に、貴重な作品・中間生成物等の流出・散逸・劣化等を防ぐ収蔵施設の整備を行っていて、2027年に建設が始まり、2030年めどで収蔵庫が設置される予定となっています。

なお、アニメや特撮の貴重な資料を後世に残していくためにするべきこととしては、以下が挙げられています。
・業界(個人):そのまま持っていて。処分する前に相談を。
・業界(法人):倉庫賃料の負担が重荷になってきたら相談を。
・個人:そのまま持っていて。写真を撮っておいて。
・研究者:量や面での研究を行う方は連携を。
・行政(議員):国や中央省庁の動きに少し意識を向けて。
・行政(職員):文化庁や経産省や、似た自治体での活動に意識を。

ちなみに、「須賀川特撮アーカイブセンター」には開館時に訪問していて、どのようなところなのかレポートしているので、参考にしてください。
「特撮の神様」の故郷に誕生した「須賀川特撮アーカイブセンター」開館式でシン・ウルトラマン立像お披露目 - GIGAZINE

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