サイエンス

「ゴルフ場の近くに住む人はパーキンソン病のリスクが高い」と報告されるが疑念の声も上がる


手の震えや動作の緩慢、歩行の困難といった運動障害を示すパーキンソン病は、症状が進行すると車椅子や寝たきりの生活を余儀なくされる重大な神経変性疾患です。2025年5月、「ゴルフ場の近くに住む人はパーキンソン病のリスクが高い」という研究結果が発表されましたが、一部の専門家からは疑念の声も上がっています。

Proximity to Golf Courses and Risk of Parkinson Disease | Neurology | JAMA Network Open | JAMA Network
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2833716


expert reaction to study looking at Parkinson’s Disease risk and proximity to golf courses | Science Media Centre
https://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-study-looking-at-parkinsons-disease-risk-and-proximity-to-golf-courses/

Controversial New Study Links Parkinson's With Living Near a Golf Course : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/controversial-new-study-links-parkinsons-with-living-near-a-golf-course

パーキンソン病の原因についてはまだ解明されていませんが、近年は「特定の農薬がパーキンソン病のリスクを高めるのではないか」というが浮上し、科学者の間で激しい議論が交わされています。農薬にさらされやすい農家はパーキンソン病のリスクが高い傾向がある一方で、工業地帯に住んでいる人もパーキンソン病のリスクが高いと指摘されており、環境だけでなく遺伝が影響している可能性もあります。

パーキンソン病の研究を行う慈善団体・Parkinson's UKの主任研究者であるキャサリン・フレッチャー氏は、「農薬がパーキンソン病の発症リスクを高めるかどうかについては、世界中のさまざまな集団で多くの研究がされています。その結果はさまざまですが、全体として農薬への暴露がパーキンソン病のリスクを高める可能性を示唆しています。しかし、農薬への暴露が直接パーキンソン病を引き起こすことを示すのに十分な証拠はありません」と指摘しています。

そんな中、アメリカのバロー神経学研究所ブリタニー・クジザノフスキ氏らの研究チームは、「ゴルフコースの芝を管理するためにまかれる農薬が周辺住民のパーキンソン病リスクに影響を及ぼしている可能性がある」という仮説を立て、419人のパーキンソン病患者と健康な5113人を対象とした研究を実施しました。


さまざまな特性や人口統計を調整して分析を行ったところ、ゴルフコースから1マイル(約1.6km)以内に住んでいると、6マイル(約9.6km)以上離れて住んでいる人と比較して、パーキンソン病を発症するリスクが126%も増加することが判明。

さらに、ゴルフコースを含む水道サービスエリアに住む人々は、ゴルフコースがないエリアに住む人々と比較して、パーキンソン病を発症する確率がほぼ2倍であることも確認されました。

クジザノフスキ氏らはこれらの相関関係から、ゴルフコースに散布される農薬が空気中や地下水を通じ、人々のパーキンソン病リスクに影響を及ぼしている可能性があると主張しています。研究チームは、「ゴルフ場の農薬による地下水汚染や空中暴露のリスクを軽減する公衆衛生政策が、近隣地域のパーキンソン病リスクの低減に役立つかもしれません」と述べました。


クジザノフスキ氏らの結論に対しては、他の専門家から疑念の声も上がっています。フレッチャー氏と同じくParkinson's UKに所属するデビッド・デクスター教授は、この研究はゴルフコース周辺の地下水や空気中の汚染物質を検査したわけではなく、自動車による大気汚染といったその他の要因も適切に制御されていなかったと指摘しています。

また、パーキンソン病による脳の変化は医師から診断される10~15年前に始まっていますが、今回の研究はゴルフコース周辺にずっと昔から住んでいた患者のみを対象にしたわけではありません。つまり、今回の実験で「ゴルフコース周辺に住んでいるパーキンソン病患者」に分類された人の中には、他の場所に住んでいる時にパーキンソン病を発症し、ゴルフコース周辺に引っ越してきた後に診断を受けた患者も含まれている可能性があるというわけです。

デクスター氏は、「繰り返しになりますが、この研究は慎重に管理されていませんでした。そのため、ゴルフコースの周辺に住んでいた人々が農薬にさらされ、パーキンソン病の発症リスクが高まった可能性があるという主張の妥当性は低くなります」と主張しました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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