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CERNが「反物質の長距離輸送」の実現に向けて陽子をトラックで運ぶ実験に成功、100個の陽子を積載して最高時速42kmで3km以上走行し無損失の快挙

By CERN

欧州合同原子核研究機関(CERN)の研究チームが執筆した「CERNの反物質工場からの陽子輸送(Proton transport from the antimatter factory of CERN)」というタイトルの論文が2025年5月14日にNatureに掲載されました。論文によると、CERNは約100個の陽子をトラックに積載して3km以上の輸送に成功したとのこと。将来的に、反物質を高度な設備を備えた別の研究施設へ輸送できるようになることが期待されています。

Proton transport from the antimatter factory of CERN | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-025-08926-y


CERNの反陽子減速器では反水素原子や反陽子ヘリウム原子といった反物質を作り出すことが可能で、日本を含む世界中の研究者らがCERN内に拠点を構えて反物質の研究を進めています。しかし、CERNの実験施設には「反物質を作り出す際に生じる磁場が、反物質に関する実験に影響を与える」という課題も存在しています。この課題を解決するべく、研究チームは反物質をCERNの外部へ安全に輸送する手法の開発を進めてきました。

研究チームが開発した反物質を閉じ込めるトラップシステム「BASE-STEP」のイメージ図が以下。筒状の部分に反陽子の陽子雲を閉じ込めることができます。


BASE-STEPは超伝導磁石に囲まれた状態で全長2mの輸送フレームに収納されます。輸送フレームには制御用のPCや無停電電源装置(UPS)も収納されており、総重量は850~900kgに達します。


CERNは2024年に、BASE-STEPで70個の陽子を輸送する実験を行っています。ただし、この時は、液体ヘリウムでの冷却による磁場を維持するのが難しく、長時間の輸送が課題とされました。

今回発表された論文では、反物質を運ぶ前段階の実験として、100個の陽子を含む陽子雲の輸送に挑戦しました。輸送実験では、まず陽子雲をBASE-STEPに閉じ込め、輸送フレームに収納。さらに、輸送フレームをトレーラーに詰め込み、クレーンを用いて減速器のある実験場内部からトラックの待つ出入口へ運び出しました。


輸送フレームをトラックに積載するところ。なお、この写真は今回の実験ではなく2024年に実施された「70個の陽子を運ぶ実験」の際に撮影されたものです。

By CERN

その後、陽子雲を積載したトラックはCERNの敷地内をぐるりと一周し、元の実験場へ無事に戻すことに成功しました。輸送距離は3.72kmで、トラックの最高速度は42.2kmに達しました。BASE-STEPは移動中も、約1時間54分にわたって超高真空・超低温の状態を維持することに成功し、粒子の損失もありませんでした。


研究チームは今回の成果について、「2024年の実験よりも輸送距離や粒子数・安定性の面で向上しており、反陽子輸送の実現に一歩近づいた」と評価しており、将来的にはスイスにあるCERNからドイツのハインリヒ・ハイネ大学へ反物質を輸送することを計画しています。ハインリヒ・ハイネ大学では反物質の実験設備が建築中で、100倍以上の精度で反物質を測定できるようになる予定。また、長期的には複数の実験施設での並行測定が可能になることが期待されています。

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in サイエンス, Posted by log1o_hf

You can read the machine translated English article CERN successfully carries protons by tru….