世界の半導体切削機器の約75%を製造する日本企業・ディスコでは上司が部下に指示を出すことがなく業務や意思決定はすべて社内通貨の「Will」で決められる

半導体は原料となるシリコン素材を「砥石で削り、磨き、切る」工程を経て作られます。この工程で使用される砥石と工作機器を生産し、全世界の約75%ものシェアを獲得しているのが、日本の「ディスコ」です。そんなディスコで働く従業員には指示を出してくる上司がおらず、意思決定は「Will」と呼ばれる社内通貨システムで決められます。
Can you run a company as a perfect free market? Inside Disco Corp
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ディスコは約7000人の従業員を抱える創業87年を迎える企業で、世界中の半導体の切断・研磨・ダイシングに使用される機械の約4分の3を製造しています。
そんなディスコでは会社専用アプリがあり、このアプリを通じて従業員は日々の業務内容を決めることができます。従業員は選択した業務内容に応じて社内通貨の「Will」を入手することが可能で、社内アプリで表示される業務内容の一例が以下です。
・52ページの法律文書の翻訳:500万Will
・半導体研削ツールのテスト:200万Will
・新卒採用面接への参加:20万Will
・請求書の処理:8万Will
・工場で技術研修セミナーを実施:150万Will
これだけでなく、従業員は自身の保有するWillを提示して、他の従業員に業務や作業を委託することも可能。実際、あるチームマネージャーは従業員に「年末の作業会の企画」を1万5000Willで依頼しています。他にも、ディスコの従業員は喫煙室を使ったり、会議用に会議室を予約したりするのに、社内通貨のWillを使うそうです。

ディスコでは上司が部下に指示を出すことはありません。従業員は毎日好きな仕事を自由に選択可能で、別のチームに移動することも自らの意思で決められます。
従業員は指定のタスクを実行することでWillを獲得することが可能で、タスクを実行する権利を得るために、同僚と物々交換したりオークションで競い合ったりすることもある模様。会社に損害を与えたり、生産性を低下させたりする可能性のある行動には、Willによる罰金が科せられます。なお、Willの残高により3カ月ごとに支払われるボーナスの金額も変わるそうです。
社内通貨のWillはディスコの関家一馬社長が編み出したアイデアで、関家社長はこの型破りな経営計画が同社の成功の根幹になっていると主張しています。Willの導入により、ディスコの業績・従業員満足度・市場シェアはすべて飛躍的に向上したそうです。また、ディスコは2011年にWillを導入して以来、社内アプリを100回以上にわたってバージョンアップしてきた模様。
日本の大企業であるソニーやトヨタ、パナソニックなどもディスコ本社を訪れ、同社の社内通貨システムであるWillについて説明を受けているそうです。ただし、記事作成時点でWillのような社内通貨システムを導入している企業は他にありません。

関家社長がWillのアイデアをディスコの管理会計責任者に初めて提案したのは2008年のことです。この時点でディスコはすでに部門レベルでWillを導入していたそうですが、関家社長は全社レベルでWillを導入したいと考えていた模様。しかし、ディスコの管理会計責任者は社員の反乱を予測し、「利己的な不正者がシステムを悪用し、不平等がまん延すること」を危惧していたそうです。しかし、関家社長はめげずに3年後にも再びWillの導入を提案し、ついに全社レベルでWillが採用されることになりました。
Willが上手く機能するかどうかを検証するため、ディスコのカッティングマシンやグラインディングマシンの顧客テストを支援する約70人の技術者からなるアプリケーション部門で、試験的な導入が実施されました。この時、アプリケーション部門の責任者は「Willの導入はうまくいく」と太鼓判を押してくれたそうです。
ディスコでは売上高10億円ごとに、通常約4億Willが生み出されます。営業担当者はこれを会社全体に分配する役割を担います。営業担当者はWillを使って他の従業員に報酬を支払ったり、自分たちを支援する仕事をするよう促したりします。例えば、製造チームに新しい機械を製造・販売してもらうためにWillを支払ったり、研究チームに研究のロイヤリティとしてWillを分配したり、人事部に優れた業績を上げた従業員の給与を上げてもらうためにWillを支払ったりするそうです。
従業員同士でWillの授受を行うこともあります。報酬が前払いか後払いかは、当事者同士が合意した最適な方法で支払われることになります。また、Willはオークション形式でタスクを割り当てるシステムも有しており、タスクを実行できる人、または実行したい人が少ないほど、より多くのWillを支払う必要があります。特定の仕事をどうしてもやりたい人、あるいは特定の従業員からスキルを学びたい人は、その特権と引き換えにWillに報酬を支払うケースもあるそうです。
【企業CM】ディスコの社内制度 『個人Will』編 - YouTube

Willは8人の従業員により管理されており、772種類の罰金項目および337種類の報酬項目を持っています。このうち定期的に使用されているのは約187項目のみで、購買部門は手紙や荷物の住所を間違えた人に罰金を科し、広報部門は会社に関する否定的な記事が掲載された場合に罰金を科されるそうです。
ディスコの従業員にはそれぞれ「存在コスト」が決められており、月初めにWillの残高が存在コストに応じてマイナスにされます。そのため、従業員はこれがゼロ以上になるようWillを稼ぐ必要があります。ディスコでは役職が上がれば上がるほど、会社にとってのコストが大きくなるとみなされており、中堅以上の社員は1時間当たりの存在コストが「1万400Will」で、関家社長の場合は「2万6600Will」です。
Willは従業員のボーナスの約40%を占めており、収入を大幅に押し上げる可能性があります。2023年には41歳の従業員がWillの獲得により5900万円以上を稼いでおり、Willシステムを管理している別の従業員は、そもそもディスコに入社したきっかけとしてWillを挙げています。
ただし、ある従業員が「以前、ファイル名の間違いで1000万Willの罰金を科されたことがあります。その時は本当にWillという制度が嫌いになりました。でも翌日には、もっとウィルを稼いで貯めなければならないという神からの啓二であると思うようになりました」と語っているように、人によっては合う合わないが存在するシステムになっているようです。
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in メモ, Posted by logu_ii
You can read the machine translated English article At Disco, a Japanese company that manufa….