サイエンス

古代ローマの闘獣士が「ライオンにかまれた証拠」がイギリスで発見される


古代ローマでは剣闘士(グラディエーター)による戦いが見せ物として開催されており、中にはライオンやクマといった猛獣と戦う闘獣士(ベースティアーリイウス)という分類の人々もいたといわれています。新たに、イギリスのヨークで発掘された古代ローマ時代の遺骨を分析した研究で、「剣闘士がライオンにかまれた証拠」が見つかったと報告されました。

Unique osteological evidence for human-animal gladiatorial combat in Roman Britain | PLOS One
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0319847


Study reveals skeletal evidence of Roman gladiator bitten by lion in combat | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/1080670

Scientists Discover First Probable Evidence of a Roman Fighter Mauled by a Lion : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/scientists-discover-first-probable-evidence-of-a-roman-fighter-mauled-by-a-lion

Lion mauled gladiator to death 1,800 years ago in Roman Britain, controversial study suggests | Live Science
https://www.livescience.com/archaeology/romans/lion-mauled-gladiator-to-death-1-800-years-ago-in-roman-britain-controversial-study-suggests

古代ローマの剣闘士については、さまざまな歴史的文書や芸術作品に記されてきました。こうした記述のおかげで、剣闘士は巨大な円形闘技場で観衆の見せ物として戦い、勝利し続けて人気になった剣闘士は名声や豪勢な暮らしを手に入れたことや、時にはさまざまな猛獣と戦う場合もあったことなどがわかっています。しかし、実際の剣闘士の遺骨はあまり見つかっておらず、考古学者らが当時の戦いを知る直接的な手がかりはそれほど多くないとのこと。


ところが2004年から2005年にかけて、イングランド北部のヨークにある約1800年前のローマ時代の墓地で発掘調査が行われ、体格のいい若い男性の遺骨が数十人分も発見されました。その後の調査で、遺骨として見つかった男性らはさまざまなローマの属州から集まってきたことや、斬首された痕跡があること、対人で負ったとみられる骨折や治癒したケガが多いことなどが明らかになっています。

これらの男性の出自については、虐殺された人々や兵士、奴隷といった説がありましたが、専門家らの目を引いたのが「治癒した頭蓋骨の損傷が、トルコのエフェソスにあった剣闘士墓地から見つかった遺骨のものとよく似ている」という点でした。また、斬首は死にかけている剣闘士を苦しみから救うため、慣習的に行われていた可能性が高いとのこと。これらの証拠から、ヨークで見つかった遺骨は剣闘士のものであるという説が有力です。

新たな研究では、ヨークで発掘された遺骨のうち「6DT19」という識別番号を与えられたものを分析しました。この遺骨の男性は西暦200~300年頃に死亡した時点で26~35歳ほどであり、子どもの頃の栄養失調や過負荷による背骨の問題を抱えていたとのことですが、後にそこから回復した可能性があるとのこと。中でもユニークだったのが、男性の骨に「穴や溝のような傷」があるという点でした。

以下の写真に写っているのが、男性の骨盤を構成する腸骨にみられる傷です。


男性の骨盤付近には多数の穴のような傷がみられ、これらには治癒した痕跡がみられませんでした。つまり、これらの傷は男性が死亡した前後についたことを意味しており、場合によっては致命傷だった可能性があります。


イギリス・メイノース大学の考古学者であるティム・トンプソン教授らの研究チームは、これらの傷が何によって与えられたのかを調べるため、骨の3Dスキャンを行って動物園の動物によるかみ痕サンプルと比較しました。その結果、男性の傷はライオンなどの大型のネコ科動物によって付けられた可能性が高いことが判明しました。

論文の共著者であり、ヨーク大学考古学部で骨考古学の講師を務めるマリン・ホルスト氏は、「このかみ痕はライオンによって付けられた可能性が高く、この墓地に埋葬された遺骨は当初考えられていたような兵士や奴隷ではなく、剣闘士であったことを裏付けるものです。そしてこの結果は、古代ローマ世界における戦闘や娯楽の場における、大型肉食獣と人間の関わりを骨学的に初めて確認したものです」と述べています。

多くの人々は「剣闘士の戦い」と聞くと、ローマのコロッセオで行われたものを想像するかもしれません。しかし今回の研究は、ローマから遠く離れたヨークにも円形闘技場があり、剣闘士の戦いが見せ物として開催されていた上に、ライオンのようなエキゾチックな動物まで運び込まれていたことを示唆するものです。

なお、今回の研究に関与していないカリフォルニア大学バークレー校のアルフォンソ・マニャス氏は、猛獣との戦いを専門とする人々は闘獣士と呼ばれており、剣闘士とは区別されていたと指摘。今回研究された男性は剣闘士ではあり得なかったとして、「グラディエーターが獣と戦ったという古い過ちをなくそうとしています」と語りました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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