「脳がアルツハイマー病の兆候を示したのに認知機能が低下しない」というダウン症女性の症例が報告される

ダウン症は、21番目の染色体が通常より1本多い3本あることで発生する染色体異常症の一種で、知的障害やその他さまざまな身体的異常がみられます。そんなダウン症の女性が、アルツハイマー病の身体的兆候を示しているにもかかわらず認知機能の低下がみられなかった特殊な症例が報告されました。
A neuropathology case report of a woman with Down syndrome who remained cognitively stable: Implications for resilience to neuropathology - Liou - 2025 - Alzheimer's & Dementia - Wiley Online Library
https://alz-journals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/alz.14479

An Unexpected Insight into Alzheimer’s Disease
https://news.engineering.pitt.edu/an-unexpected-insight-into-alzheimers-disease/
Woman With Down Syndrome Had Alzheimer's Without Dementia in Surprise Case : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/woman-with-down-syndrome-had-alzheimers-without-dementia-in-surprise-case
ダウン症は染色体異常症の中で最も多くみられる疾患で、筋肉の緊張が低く、多くのケースで心臓や消化器に先天性の異常がみられるほか、特徴的な顔つきを呈することでも知られています。また、ダウン症の小児の平均IQは50と低めで、運動能力や言語能力に発達の遅れがみられることも多々あります。
そんなダウン症の人々は40歳を過ぎると認知症を発症しやすくなるといわれており、60代になると90%の割合で軽度の認知機能低下または完全な認知症の症状を示します。ところが、ダウン症とアルツハイマー病の関連を調査するために設立されたコンソーシアム・Alzheimer Biomarker Consortium - Down syndrome Research Study(ABC-DS)に参加していたあるダウン症の女性は、60代であるにもかかわらず認知機能の低下を示しませんでした。
女性のIQは69と健常者の平均を下回るスコアでしたが、ABC-DSに参加していた約10年間にわたって認知テストで一貫したパフォーマンスを発揮しました。また、女性は機能的な能力を維持しており、自分自身で料理や買い物を行っていたとのことです。

ところが、女性から採取された脳脊髄液を分析した結果、アルツハイマー病に関与するタンパク質であるアミロイドβの濃度が高いことが判明。アミノ酸の長さに基づくアミロイドβのアイソフォームであるAβ40とAβ42の相対的濃度も、アルツハイマー病患者にみられるものと同程度でした。
また、女性の死後に脳の提供を受けたカリフォルニア大学アーバイン校とピッツバーグ大学の研究チームが、高解像度MRIスキャナーで脳の画像化を行ったところ、脳にもアルツハイマー病患者であることを示すアミロイドβの蓄積がみられました。
つまり、女性はアルツハイマー病の発症を示す生理学的マーカーを持っていたにもかかわらず、臨床的には認知機能の低下を示さなかったというわけです。ABC-DSの研究者であり、ピッツバーグ大学の神経科医であるJr-Jiun Liou氏は「彼女が亡くなる前に研究してきたすべての臨床評価は、彼女が認知的に安定していることを示していました。だからこそ、このケースは非常に興味深いのです」と語っています。

女性の認知機能が保たれたのは、女性が知的障害の生徒を教える認可を受けた私立学校で、幼少期から青年期にかけて教育を受けていたことに起因する可能性があります。また、生理学的にアルツハイマー病に伴う神経変性への抵抗性を持っていた可能性や、脳組織の大きさが認知機能低下を遅らせた可能性も示唆されています。他にも、女性の身体すべての細胞で21番染色体が3本あるのではなく、中には21番染色体が2本の細胞も混在している「モザイク型」のダウン症だった可能性もあるとのこと。
論文の共著者であり、カリフォルニア大学アーバイン校の神経科学者のElizabeth Head氏は、「もし、彼女の脳が病的だったにもかかわらずうまく機能していた遺伝的基盤や生活習慣の要因を特定できれば、他の人々にも役立つ戦略を発見できるかもしれません。この研究は、たった1人の研究参加がいかに大きな発見につながるのかを示しています」と述べました。
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in サイエンス, Posted by log1h_ik
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