専門家でさえ意見が食い違う「栄養」についての正しい情報を見分けるにはどうすればいいのか?


サプリメントの有効性や、特定の添加物が健康に及ぼす影響などについての研究では、相反する結果が報告されることが珍しくありません。その上、ソーシャルメディアなどではこうした研究結果を都合のいいように切り取ったり、ゆがめたりした情報が氾濫しています。インターネット上にあふれる情報の中から、栄養や健康に関する有益な情報を見分けるのに役立つポイントを、科学コミュニケーションの専門家がまとめました。

Nutrition advice is rife with misinformation − a medical education specialist explains how to tell valid health information from pseudoscience
https://theconversation.com/nutrition-advice-is-rife-with-misinformation-a-medical-education-specialist-explains-how-to-tell-valid-health-information-from-pseudoscience-246478


新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、科学と健康に関する誤情報の広がりである「インフォデミック」の実態が明らかになりましたが、それ以降も不正確な情報の氾濫はとどまることなく続いています。

コロラド大学アンシュッツメディカルキャンパスの免疫学および微生物学助教授であり、科学的知識を一般の人々に伝える方法を科学者や医療専門家の卵に指導している教員でもあるエイミー・ピュー・バーナード氏によると、インターネット上には健康に関する矛盾した情報が多く、専門家のアドバイスでさえしばしば食い違うとのこと。


この問題に拍車をかけているのが、特定のイデオロギーを広めるためにわざと情報をゆがめる人の存在です。例えば、ケーキやクッキーによく入っているリン酸三ナトリウムは、食感をよくしたり腐敗を防いだりするために使われる食品添加物ですが、インフルエンサーの中には同じ名前の物質が塗料や洗剤にも入っているという事実を利用して、リン酸三ナトリウムは有害だとほのめかす人もいます。

こうした疑似科学的な主張は急速に広まり、正当な研究や医学的アドバイスに対する信頼を損なう可能性があります。食事は健康に影響を与える数々の要素の1つに過ぎないため、栄養に関する研究結果が単純明快なことはめったにありません。それに比べて、食品やサプリメントを万能薬として使う疑似科学はシンプルなので魅力的に見えてしまいがちだと、ピュー・バーナード氏は指摘しました。

ピュー・バーナード氏によると、間違った情報に対抗するには「疾病予防の科学」に頼るのがいいとのこと。「疾病予防の科学」とは、広範な研究によって確立されたエビデンスに基づく公衆衛生対策のことで、そのような研究を基準にすれば流行の健康法が健全な科学に基づいているかを見分けることができます。


疾病予防の科学を基準に、インターネット上にあふれる健康に関する情報を見分けるポイントは、大きく分けて次の4点あります。

◆ポイント1:データの裏付けがないか、あっても少ない
例えばコーヒーの場合、何百とある研究結果がコーヒーには健康上のメリットとリスクの両方があることを示していますが、ニュース記事やソーシャルメディアの投稿は1つの研究のみに基づいていることがほとんどです。

特に、栄養補助食品などは健康上のメリットが誇張されることがあるため注意が必要です。アップルサイダービネガー(リンゴ酢)を例に取ると、リンゴ酢は消化器の問題、泌尿器系の健康、体重管理など、さまざま健康問題に対する天然の治療薬として宣伝されてきました。事実、リンゴ酢にはコレステロールを下げる効果などの健康上のメリットがあることを示す研究結果がありますが、これらの研究はサンプル数が少ないため、決定的とは言えません。

また、一部の人は「リンゴ酢のボトルの底に沈んだ『マザー』というにごった沈殿物には微生物や酵母が含まれていて特に有益」と主張していますが、記事作成時点ではそのような成分が健康に役立つことを裏付ける研究はないと、ピュー・バーナード氏は述べました。

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◆ポイント2:「すぐ効く」「サプリを飲むだけで治る」など話がうますぎる
ピュー・バーナード氏は「私の経験則から言うと、即効性のある健康ハックは、ほとんどの場合、話ができすぎています」と話します。また、サプリメントが何らかの健康効果をもたらすという情報に飛びつく前には、サプリメントがアメリカ食品医薬局(FDA)の規制の対象外だということを念頭に置いておく必要があります。

なぜなら、当局が厳しい審査をしている医薬品や食品添加物とは異なり、サプリメントはラベルの記載より成分が多いこともあれば少ないこともあり、また記載されていない別の成分が入っていて、それが肝毒性などの害をもたらすおそれもあるからです。

特に、世界の栄養補助食品市場は年間1500億ドル(約23兆円)の規模があり、これがサプリメントを売る企業や健康食品を宣伝するインフルエンサーを動かしていることを心に留めておくべきだと、ピュー・バーナード氏は呼びかけました。


◆ポイント3:事実がどのようにゆがめられるのかを知っておく
栄養素が健康の基礎であることは間違いのない事実で、例えばビタミンCには免疫システムをサポートする働きがあり、風邪を引いたときの重症度や期間を軽減させるのに役立つことが知られています。

ビタミンCと風邪の関係について検証した2013年の研究では、ビタミンCの常時補充を対象とした試験により、ビタミンCが風邪の症状が出る期間を短縮させることが示された一方で、ビタミンCを治療薬として投与した複数の試験では、この短縮効果が再現されなかったことが示されました。また、ビタミンCによる風邪の予防効果が見られたのは、マラソン走者や寒中訓練をする軍人など短時間に激しい運動をする人に限られており、一般集団ではビタミンCの補充による風邪リスクの低下が観察されませんでした。

ピュー・バーナード氏によると、体が正常に機能するために必要なビタミンCの量は一定なため、余分なビタミンCは排出されてしまうとのこと。しかし、疑似科学ではこうした事実が無視されたり、研究結果がねじ曲げられたりして、「ビタミンCを大量に摂取すれば風邪を予防できる」と主張されることがあります。


また、健康インフルエンサーの中には「低温殺菌牛乳よりも生乳の方が自然で栄養価が高い」と主張する人がいますが、低温殺菌されていない生乳には胃腸障害を引き起こす細菌がいる可能性があるほか、2024年には高病原性鳥インフルエンザの検査で殺菌前の生乳サンプルから陽性反応が出たことも報告されています。

世界初の「乳牛が鳥インフルエンザに感染した事例」がアメリカで報告される、殺菌前の牛乳サンプルでも陽性反応 - GIGAZINE


ピュー・バーナード氏は「こうした食事に関する迷信は無害ではありません。栄養だけに頼ると、定期的な健康診断や命を救う予防接種など、健康に関する他の重要な側面を無視することにつながる可能性があります。例えば、食事に関する迷信的な甘言により、がん患者は化学療法や放射線療といった科学的な裏付けのある実証済みの治療法ではなく、実証されていない誤解を招く栄養プログラムを選ぶようになってしまいました」と述べました。

◆ポイント4:「免疫を高める」とのうたい文句や「スーパーフード」などの造語が出たら要注意
疑似科学的な主張が紛らわしい理由の1つは、それなりに信ぴょう性がある科学用語が使われている点です。たとえば、「免疫力を高める」と主張するサプリメントなどにはアダプトゲンスーパーフードなどの成分が記載されていることがよくあります。

しかし、ピュー・バーナード氏は「これらの言葉は本物らしく説得力があるように聞こえますが、実際のところ科学的には何の意味もありません。これらは、製品を販売するために健康産業が作った用語です」とばっさり切り捨てました。


このように、疑似科学は「できるだけ健康的な生活を送りたい」という願望を利用し、不安や感情に訴えることで消費者心理を揺さぶる戦略をとっています。そのため、こうした主張を見た自分の感情をチェックし、もし強く感情的な反応があった場合は危険信号とのこと。また、情報の発信者がその分野での経験や知識を持った本物の専門家なのかを確認したり、その情報が参考文献でしっかり裏付けられているのかをチェックしたりするのも効果的です。

ピュー・バーナード氏は締めくくりに、「これらの手順を踏むことで、事実と偽のニュースを区別し、証拠に基づいた意思決定を行うことができます」と述べました。

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in , Posted by log1l_ks

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