ワクチン接種や抗生物質の服用が認知症リスクの低下と関連しているという研究結果

認知症は患者本人やその介護者に大きな苦痛をもたらす深刻な公衆衛生上の課題であり、全世界で1兆ドル(約155兆円)を超える経済的コストがかかっているともいわれています。合計で1億人以上の医療データを分析した新たな研究では、ワクチンの接種や抗生物質の服用が認知症リスクの低下と関連していることが明らかになりました。
Data‐driven discovery of associations between prescribed drugs and dementia risk: A systematic review - Underwood - 2025 - Alzheimer's & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions - Wiley Online Library
https://alz-journals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/trc2.70037

Antibiotics, vaccinations and anti-inflammatory medication linked to reduced risk of dementia | University of Cambridge
https://www.cam.ac.uk/research/news/antibiotics-vaccinations-and-anti-inflammatory-medication-linked-to-reduced-risk-of-dementia
New Study Links Common Meds to Reduced Dementia Risk : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/new-study-links-common-meds-to-reduced-dementia-risk
認知症の研究は世界中で進められていますが、認知症の進行を遅らせたり予防したりする薬の開発はあまり順調とは言えません。新薬の開発が難航する中で研究者らは、すでに安全性が確認されている既存の薬の中から認知症に効くものを探しだし、臨床試験への移行を大幅に加速することを試みているとのこと。
ケンブリッジ大学で老年精神医学の助教を務めるベン・アンダーウッド氏は、「私たちは認知症を予防することはできないにしても、進行を遅らせるための新しい治療法を早急に必要としています。もし、他の疾患ですでに認可されている薬剤を見つけることができれば、治験を行うことができますし、重要なことにまったく新しい薬剤を開発するよりも、はるかに速く患者に提供できるかもしれません。すでに利用可能であるということは、コスト削減につながり、国民保健サービスによる使用が承認される可能性が高まります」と述べています。
そこでアンダーウッド氏らの研究チームは、認知症リスクを変化させる既存の薬を探すために、既存の科学文献を系統的にレビューする研究を行いました。
対象となった研究は、認知症以外の疾患に対して処方された薬剤と認知症リスクの関連性を報告したもので、レビューに用いられた14件の研究のうち9件がアメリカ、2件が日本、1件が韓国、1件がドイツ、1件がウェールズで行われたものでした。被験者数の合計は1億3000万人以上で、100万件以上の認知症の症例が特定されたとのこと。

分析の結果、抗生物質や抗ウイルス薬、ワクチンといった一部の薬剤が、認知症リスクの低下と関連していることがわかりました。特にジフテリア・A型肝炎・腸チフスといった細菌やウイルス性感染症のワクチン、そしてA型肝炎と腸チフスの混合ワクチンが、認知症リスクの8~32%の減少と関連していたと報告されています。
今回の研究はあくまで薬剤と認知症リスクの関連を調べたものであり、ワクチンや抗生物質が認知症リスクの低下と関連しているメカニズムは不明です。しかし、これまでの研究でウイルスや細菌への感染が認知症の危険因子であることが示唆されており、帯状疱疹ワクチンが認知症リスクを低下させるという研究結果も発表されています。
また、イブプロフェンなどの抗炎症薬が、認知症リスクの低下に関連している可能性があることも明らかになりました。近年は炎症がさまざまな疾患の原因になっているとの見方が強まっており、認知症リスクを高める一部の遺伝子も炎症経路に関連していると研究チームは指摘しました。
一方で、高血圧の薬や抗うつ薬は、認知症リスクの上昇と関連していたとのことです。論文の共著者であり、エクセター大学の認知症研究者であるイリアンナ・ロウリダ氏は、「特定の薬が認知症リスクの変化と関連しているからといって、必ずしもそれが認知症を引き起こしたり、実際に認知症を治療したりするわけではありません。たとえば、糖尿病は認知症リスクを高めることが知られているため、血糖値を管理する薬を服用している人は認知症リスクが高くなりますが、だからといって薬がリスクを高めるわけではありません」と述べています。
アンダーウッド氏は、「これらの膨大な健康データセットをプールすることで、最初にどの薬を試すべきかに焦点を当てる上で、役に立つ証拠のひとつが得られます。これにより、待ち望まれている認知症の新しい治療法を見つけ、それらを患者に届けるプロセスをスピードアップできると期待しています」とコメントしました。

・関連記事
「認知症発症リスク低下に帯状疱疹ワクチンが役立つ」という研究結果がネイチャーに取り上げられる、専門家たちの見解は? - GIGAZINE
認知症予防に帯状疱疹ワクチンが効果的である証拠が発見される、認知症予防対策に光明か - GIGAZINE
アルツハイマー病のワクチンとは一体どういう仕組みなのか? - GIGAZINE
転んでケガをした高齢者は1年以内に認知症を発症するリスクが高いことが判明 - GIGAZINE
コーヒーを飲む習慣は認知症リスク低下に関連しているが無糖&カフェイン入りでないとダメ - GIGAZINE
「一握りのナッツ」を毎日食べている人は認知症のリスクが低いとの研究結果 - GIGAZINE
「視力が低下すると認知症を患うリスクが高くなる」傾向が3000人以上の高齢者を対象にした調査で示される - GIGAZINE
アルツハイマー病の原因候補に「歯周病菌」が浮上、歯磨きがアルツハイマー病予防に役立つかも - GIGAZINE
ワクチン接種で過去50年間に1億5400万人の命が救われたことが明らかに - GIGAZINE
・関連コンテンツ
in サイエンス, Posted by log1h_ik
You can read the machine translated English article Study finds that vaccinations and antibi….