ボーイングが「NASAがスペース・ローンチ・システム契約をキャンセルする可能性がある」と従業員に通知、大規模な人員削減を計画か

NASAが開発・運用中の大型打ち上げロケットであるスペース・ローンチ・システム(SLS)の主要請負業者である世界最大の航空宇宙機器製造企業のボーイングが、「NASAが長期にわたるSLS契約をキャンセルする可能性がある」と従業員に通達したことが報じられました。
Boeing has informed its employees that NASA may cancel SLS contracts - Ars Technica
https://arstechnica.com/space/2025/02/boeing-has-informed-its-employees-that-nasa-may-cancel-sls-contracts/

テクノロジーメディア・Ars Technicaが関係者から入手した情報によると、現地時間の2025年2月7日(金)、ボーイングの副社長でありSLSプログラムのマネージャーでもあるデビッド・ダッチャー氏が、SLSに携わる約800人の従業員全員を招集して会議を実施したそうです。
この会議の中で、ダッチャー氏はNASAとボーイングのSLS契約が2025年3月に終了する可能性があり、契約が更新されない場合に備え、人員削減の準備を進めていると語った模様。なお、会議はわずか6分で終わり、ダッチャー氏は質問には答えなかったそうです。
ボーイングがこのような会議を実施した理由は、「ボーイングが、トランプ政権が2025年3月の予算案の一環としてSLSの打ち上げ中止を提案する可能性があると考えているからであることは明らか」とArs Technicaは報じています。

SLSの大型コアステージ開発の主要請負業者であるボーイングが従業員に人員削減の可能性を通知した理由は、アメリカには労働者調整・再訓練通知法という法律が存在するためです。この法律は、100人以上の常勤従業員を雇用するアメリカの雇用主に対して、大量解雇や工場閉鎖が行われる場合、60日前までに従業員にその旨を通知することを義務付けるというものです。
Ars Technicaがこの件についてボーイングに問い合わせたところ、広報担当者から「アルテミス計画の修正とコスト予測に合わせるため、本日、SLSチームに対して2025年4月までに約400人を人員削減する可能性があると通知しました」「労働者調整・再訓練通知法に従い、影響を受ける従業員に対して、今後数週間以内に60日間の強制解雇通知を発行する必要があります。当社は顧客と協力し、社内全体で従業員を再配置する機会を模索し、雇用喪失を最小限に抑え、有能なチームメイトを維持するよう努めます」という回答があったそうです。
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複数の情報筋によると、ホワイトハウスとNASAの上級幹部の間でSLSおよびアルテミス計画の将来について、活発な議論が交わされており、民間宇宙開発企業を支持する人の中には、SLSの全面的な中止を強く求める人もいるそうです。しかし、NASAのジャネット・ペトロ長官代理は、アルテミス計画が中止される前にSLSの初期バージョンを使用して、アルテミス2号とアルテミス3号のミッションを実行に移す許可をホワイトハウスに強く求めている模様。
アメリカでは2011年にNASAによるSLSの開発がスタート。SLSではスペースシャトルの主エンジンや側面搭載型ブースターなどが流用されていますが、当初2016年末までの打ち上げが予定されていたSLSが初めて打ち上げられたのは2022年末になってからでした。SLS否定派からは、開発請負業者が意図的に開発を遅らせることで政府から多額の資金を吸い上げていると批判されることもあります。
これまでNASAはSLSの開発に年間約30億ドル(約4500億円)という多額の費用を費やしてきました。しかし、近年は民間の宇宙開発企業が開発したロケットへの注目が高まっており、SpaceXは過去10年間で2つの大型ロケットを開発し、Blue Originは独自開発のロケット・ニューグレンの打ち上げに成功しています。これらのロケットはいずれも一部パーツを再利用可能な「再利用可能ロケット」で、SLSの10分の1未満のコストで打ち上げ可能という利点を持っています。
一方、NASAはSpaceXなどの低コストなロケットではなくSLSの開発に注力してきた理由を、2018年時点では「地球の周回軌道を離れて月へと向かう『月遷移軌道』に物資を輸送する能力が高いため」と説明していました。
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