空港でよく人の「奇行」を目にする理由を心理学者が解説

空港のロビーや航空便の機内では、床に寝そべったり、ヨガを始めたりするような無害な行動から、朝から酔っ払ってトラブルを起こしたり、飛行中の旅客機のドアを開けようとしたりするような冗談では済まない行為まで、さまざまな奇行が目撃されます。なぜ人は普段やらないようなことを空港でやってしまうのかを、イギリスのリーズ・ベケット大学で心理学を教えているスティーブ・テイラー氏が解説しました。
The weird psychology of airports
https://theconversation.com/the-weird-psychology-of-airports-248357
◆旅という非日常
テイラー氏によると、空港でトラブルが起きがちな理由の1つは、バカンスや旅行に浮かれた行楽客にとって冒険が始まる場所だからだとのこと。そのような人々は、めくるめく旅に向けて華やかなスタートを切ることで頭がいっぱいです。

一方、空港には飛行機に乗ることに不安を感じている人も居合わせており、そのせいで人が変わってしまったり、アルコールに逃げ込んだりしている可能性があります。
さらに、空港の混雑や雑音がイライラに拍車をかけます。環境心理学の分野で実証されているように、人間は周囲の環境に非常に敏感な生き物で、混雑や騒音といったストレス要因によって簡単に余裕をなくしてしまいがちです。
不安やストレスは人を神経質にするほか、不安を覚えている人は怒りを感じやすくなる傾向にあるそうで、こうした要因が怒りの爆発を引き起こすことがよくあると、テイラー氏は指摘しました。
◆空港では境界が曖昧になる
また、テイラー氏は場所、特に都市環境が人の感情や行動に与える影響を研究する「心理地理学(Psychogeography)」の観点から空港を見ることも必要だと考えています。
テイラー氏は、空港の場所的な特殊性を説明するために、ケルト文化における「狭間(はざま/thin places)」という概念を紹介しています。ケルト人たちは、物質界と精神界の境が曖昧な狭間の地では、人は「どちらにも居てどちらにも居ない状態」だと考えていました。

ケルト文化における狭間は神聖な森やストーンサークルですが、現代のテクノロジー社会では空港を狭間と見なすことができます。なぜなら、空港は文字通り国境が交わる場所であり、一度セキュリティーを通過すればその先は国と国との境目にあるノーマンズランドだからです。
また、空港では場所の概念が曖昧になると同時に、2つのタイムゾーンの境界を往来することで時間の概念も曖昧になります。例えば、アトランタから15時に出る便に乗って14時50分にアラバマに到着するという具合に、タイムゾーンをまたぐフライトでは出発時刻より到着時刻の方が早い時間になることがあります。
このように時間を行き来することは、自分の人生をコントロールしているという感覚を与えてくれる一方で、空港に到着してそれが終わってしまう喪失感は、また別の不安感につながる可能性があります。
別の意味では、空港は「非存在の領域(zone of absence)」であり、そこではその時々の瞬間が歓迎されていないと、テイラー氏は指摘しています。言い換えると、空港では誰もが空の旅や、旅先で待ち受ける冒険のことしか考えていないということです。この未来への強い関心は、特にフライトが遅れた際の強いフラストレーションにつながることがあります。

また別の観点から見ると、空港では人と人との境界も流動的になります。空港で観察されるのは「反社会的行為」だけではなく、逆に見知らぬ人同士が旅行や休暇の計画を語り合うように、普段は考えられないほど親しい会話を交わす「向社会的行為」も見られます。これは、空港のようなノーマンズランドでは日常生活の社会的抑制が適用されないからだとのこと。
こうした交流にアルコールが入ると潤滑油になりますが、トラブルが起きれば火に油を注ぐことにもなります。そのため、アイルランドの格安航空会社であるライアンエアーでは、機内での飲酒トラブルを防ぐために、空港のバーで飲むアルコールは2杯までにするよう呼びかけているそうです。
このように、空港では自分を定義づける場所、国籍、時間などが曖昧になるため、人は方向感覚を失って迷子になったかのように感じる可能性があります。テイラー氏によると、心理的要因か環境的要因かによらず、また一時的なものであっても、こうした失見当識的な体験は感情に有害な影響を及ぼすおそれがあるとのことです。

◆解放感
一方、空港には日常からの解放効果というプラスの側面もあります。テイラー氏は自著「Time Expansion Experiences」で、「私たちは時間を、期限で私たちを追い立てて人生を奪う敵と見なしています」と論じています。そのため、時間が曖昧になる空港に居ると、監獄から解放されたような気分になる可能性があるとのこと。
また、アイデンティティはメンタルヘルスにとって重要なものですが、同時に束縛でもあるため、空港から始まる自由や外国での冒険には、日常生活から抜け出したような爽快な気分をもたらす効果があります。
このように、空港で不安を感じたり解放感を覚えたりすることで、人は普段しないような行動に出る可能性があります。
ジークムント・フロイトの理論では、これは通常の文明的な自我(エゴ)から、原始的で本能的な精神の部分であるイド(エス)への移行と解釈できます。フロイトによると、イドは人の欲望や衝動、感情や攻撃性の源であり、即座の満足を要求するとのこと。このイドは普段、自我によって抑制されていますが、特にアルコールや薬によって抑制が緩むと、行動がエスカレートするおそれがあります。

テイラー氏は、空港での飲酒制限について「空港でのアルコールの持ち込み禁止はやり過ぎだとの意見もありますが、空港には反社会的行動を助長する要因がたくさんあることを考えると、それ以外の解決策を出すのも困難です。境界が崩壊し暴力に発展しかねない状況では、法的な線引きが最後の希望になるかもしれません」と述べて、理解を示しました。
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in 乗り物, Posted by log1l_ks
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