ボノボは人間が知らないことを察してヒントを教えることができるとの実験結果

by phōs graphé

人間に最も近い類人猿であるボノボは、自分しか知らないおやつの在りかを人間のパートナーに教えることができるとの実験結果が報告されました。一見すると単純なこの研究は、知識のギャップを察知して行動を調整し、コミュニケーションを通じて協力するという、これまで人間特有だと考えられてきた高度な知的能力を類人猿も持っていることを示したものだと評価されています。

Bonobos point more for ignorant than knowledgeable social partners | PNAS
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2412450122

Bonobos recognize when humans are ignorant, try to help - Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2025/02/bonobos-know-when-youre-clueless/

Mind-Reading Bonobos Show They Know What You Miss
https://scitechdaily.com/mind-reading-bonobos-show-they-know-what-you-miss/

ジョンズホプキンス大学心理学・脳科学科のルーク・A・ タウンロウ氏とクリストファー・ クルペニエ氏が行った今回の実験は、手品でおなじみの3つのカップの1つにおやつを隠すというもの。

どんな実験なのかは、以下の動画を再生するとよくわかります。

Apes Eagerly Pointed Out the Location of Treats to Humans Who Didn’t Know Where They Were - YouTube

ボノボのケージの前に3つのカップが置かれています。

テーブルの前にはボノボのパートナー役のタウンロウ氏がいますが、黒いボードで仕切られているので、タウンロウ氏にはカップが見えません。

横にいる別の実験者が、右のカップの下におやつのブドウを隠しました。

ボードが撤去された後、タウンロウ氏が「ブドウはどこ？」と尋ねます。すると、ボノボは右のカップを指さしました。

正解だったのでボノボはおやつをもらうことができました。

ボノボが実験で見せたこの行動について、クルペニエ氏は「これは類人猿が同時に2つの相反する世界観を心の中に抱くことができることを示唆しています。類人猿は食べ物がどこにあるかを正確に知っているのと同時に、同じ状況に置かれたパートナーにはその情報が欠けていることも察知していたわけです」と説明しています。

実験は、ボノボとパートナーの両方がおやつを隠す場面を見ることができた「知識実験(上)」と、パートナーにはおやつの隠し場所がわからない「無知実験(下)」の2回にわけて行われました。なお、前述の動画は無知実験の様子を撮影したものです。

この実験により、ボノボが正解のカップを指さす頻度は、知識実験に比べて無知実験の時の方が有意に多いことが確かめられました。

以下は実験結果のグラフで、3頭のボノボが指さしをする頻度を無知実験(水色：Ignorance)と知識実験(青：Knowledge)とで比べたものです。3頭のうち最年少のTecoはせっかちで、どちらの実験でもかなり頻繁に指さしをしましたが、それでもパートナーがおやつの場所を知らない時の方がわずかに多く指さしをしました。

クルペニエ氏は「互いの知識のギャップを感知する能力は、人間の最も洗練された社会的行動の核心であり、協力し、コミュニケーションを取り、戦略的に共同作業を行う方法の中核です。『心の理論』と呼ばれれるこの特性は、教える能力や言語能力といった、人間特有の能力の数々を支えているため、多くの人は動物にはないものだと考えています。しかし、この研究により人間と類人猿が豊かな精神的基盤を共有していることや、これらの能力が何百万年も前に私たちの共通の祖先の中で進化したことが示唆されました」と述べました。