アメリカ疾病予防管理センターが論文の出版を撤回するように指示、「LGBT」「ジェンダー」などの用語を削除するため

アメリカ保健福祉省傘下の医学研究機関であるアメリカ疾病予防管理センター(CDC)が、所属する研究者に対して論文の出版を撤回または一時停止するよう指示したことが判明しました。これは、ドナルド・トランプ大統領が署名した「生物学的な男女」のみを性別として認めるという大統領令に準拠するための措置とみられています。
BREAKING NEWS: CDC orders mass retraction and revision of submitted research across all science and medicine journals. Banned terms must be scrubbed.
https://insidemedicine.substack.com/p/breaking-news-cdc-orders-mass-retraction

CDC orders pullback of new scientific papers involving its researchers, source says | Reuters
https://www.reuters.com/world/us/us-cdc-orders-pullback-new-scientific-papers-involving-its-researchers-source-2025-02-02/
アメリカの独立系医学メディアであるInside Medicineの取材により、CDCが所属する研究者らに対し、外部の医学雑誌や学術雑誌への科学論文の出版を撤回、または一時停止するよう指示したことがわかりました。
この事実は、海外メディアのロイターによっても裏付けられており、ロイターは「この大々的な命令は、1月31日(金)にCDCの最高科学責任者から全部門長宛てに送られた電子メールに記載されていたと、メールを見た職員は証言しました」と報じています。
出版撤回の指示には、雑誌での出版が検討されている段階にある論文と、すでに受理されたもののまだ出版されていない論文が含まれます。Inside Medicineやロイターによると、この指示は論文中から特定の「禁止用語」を削除するのを目的としているとのこと。
実際にInside Medicineが入手した、CDCの職員に送信されたメールの文面を撮影した写真が以下。禁止用語のリストには「Gender(ジェンダー)」「Transgender(トランスジェンダー)」「Pregnant person(妊娠中の人)」「pregnant people(妊娠中の人々)」「LGBT」「Transsexual(トランスセクシャル)」「Non-binary(ノンバイナリー)」「Nonbinary(ノンバイナリー)」「Assigned male at birth(出生時に男性に割り当てられた人)」「Assigned female at birth(出生時に女性に割り当てられた人)」「Biologically male(生物学的に男性)」「Biologically female(生物学的に女性)」など、LGBTQ+に関連する用語が含まれています。

一種の検閲ともいえる今回の措置は、ジェンダー関連治療の制限や多様性・公平性・包括性に関する大統領令の撤回など、反トランス的な姿勢を取るドナルド・トランプ大統領が就任したことを受けたものだとみられています。トランプ氏は「生物学的な男女」のみを性別として認めるという大統領令に署名しており、人種や性別などの多様性を重視する政策を撤廃し、「ジェンダー」という用語の使用を取りやめるなどの方針を打ち出しています。
すでにCDCは、ウェブサイト上からトランスジェンダーのHIVについての統計や、ゲイやレズビアン、バイセクシャル、トランスジェンダーの若者の健康格差に関するデータ、青少年の健康リスクを高める行動を追跡するデータベースなどを削除しています。
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Inside Medicineによると、影響を受ける論文の数は不明であるものの、ほとんどの論文には研究対象の集団や患者に関する人口統計情報が含まれており、その中に性別やジェンダーを含む記述があるとのこと。そのため、トランプ大統領らが念頭に置いているであろうジェンダーに関する研究以外にもCOVID-19や心臓病、がんなどあらゆる研究が検閲に引っかかる可能性があります。
公衆衛生の専門家らは、ジェンダーに関する用語を削除することは、HIVや性感染症を含むさまざまなグループに影響を及ぼし、あらゆる種類の医療ニーズに対応する能力を脅かすと警告。HIV+肝炎政策研究所の事務局長であるカール・シュミット氏は、「HIVなどの感染症の予防、治療、研究に関して、特定の集団をただ消したり無視したりすることはできません。このような命令が意図的なものでないことを願うばかりです」とコメントしています。
また、科学雑誌の編集者らは今回の措置の合法性に疑問を呈しています。医学雑誌のAmerican Journal of Public Healthで編集長を務めるアルベルト・モラヴィア氏は、すでに受理された論文の著作権は雑誌側にあり、著者はもはや変更を加えることができないと指摘。「これが憲法修正第1条と両立するとは信じられない話です。憲法上の権利が取り消されたのです。科学的現実を記述するために雑誌がどのような言葉を使うのかを、どうして政府が決めることができるのでしょう?現実には、その名前が必要なのです」と、モラヴィア氏は述べました。
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