サイエンス

パーキンソン病で歩けなくなった男性が「脊髄に埋め込んだインプラント」のおかげで再び1日6kmも歩けるようになる


パーキンソン病は手の震えなどの運動障害を示す神経変性疾患であり、病状が悪化すると自力歩行が困難になってしまいます。そんなパーキンソン病で歩けなくなったフランスの男性が、脊髄から脚への信号伝達を助けるインプラントを埋め込む手術を受け、再び1日6kmも歩けるようになった事例が報告されました。

A spinal cord neuroprosthesis for locomotor deficits due to Parkinson’s disease | Nature Medicine
https://www.nature.com/articles/s41591-023-02584-1

Parkinson’s patient able to walk 6km without problems after spinal implant | Parkinson's disease | The Guardian
https://www.theguardian.com/society/2023/nov/06/parkinsons-patient-able-to-walk-6km-without-problems-after-spinal-implant

Spine stimulator lets man with severe Parkinson's walk without falling | New Scientist
https://www.newscientist.com/article/2401388-spine-stimulator-lets-man-with-severe-parkinsons-walk-without-falling/

Parkinson’s spine stimulator ‘allows me to walk 5 kilometres without stopping’ - YouTube


フランスのボルドー出身である63歳のマルクさんは、20年以上前にパーキンソン病であると診断され、バランス感覚の障害やすくみ足など重度の運動障害を発症しました。当時の様子についてマルクさんは、「1日に何度も転ばずには歩けなくなりました。エレベーターに乗る時など、その場に凍り付いたように足がすくんでしまうこともありました」と述べています。


パーキンソン病は神経伝達物質であるドーパミン産生ニューロンの喪失によって引き起こされ、レボドパなどの薬剤治療によって症状を改善できますが、正常な動きを完全に回復させることはできません。


そこで、スイス・ローザンヌ大学病院の脳神経外科医兼教授であるジョセリン・ブロッホ氏らの研究チームは、マルクさんの脊髄から脚の筋肉への正常な信号伝達を回復させるため、「脊髄に電極付きのインプラントを埋め込む」という手術を行いました。脊髄インプラントは完全な臨床試験でテストされたわけではありませんが、過去の研究では脊髄損傷などで下半身不随となった患者に脊髄インプラントを埋め込むことで、再び歩けるようになったことが報告されています


マルクさんに埋め込まれた脊髄インプラントは、歩行時に脚の筋肉を活性化させる脊髄領域を標的にしたものです。まず研究チームは、マルクさんの脊髄の解剖学的マップを作成し、脚を動かす信号を送る領域を正確に特定しました。次に、この領域に電極を埋め込むことで、脊髄に直接刺激を送れるようにしたとのこと。


そしてマルクさんの両脚には運動センサーが装着され、歩行を開始すると脊髄のインプラントのスイッチが自動的にオンになり、脊髄のニューロンに電気刺激を送り始めます。こうすることで脳から脊髄への信号伝達を修正し、正常な動きを回復させるという仕組みです。ローザンヌ大学病院のエドゥアルド・マーティン・モロー教授は、「患者が機械によって制御されることは決してなく、歩行能力を高めているだけです」と述べています。


実際に手術後のマルクさんの歩行能力を分析した結果、脊髄インプラントが歩行とバランスの障害を改善し、歩行能力は他のパーキンソン病患者よりも健康な人に似ていることが判明。また、マルクさんは生活の質が大幅に改善したと報告しました。


マルクさんは、「今はもう、階段ですら怖くありません。毎週日曜日には湖まで行って、6kmほど歩きます。信じられないことです」とコメントしました。


ブロッホ氏は、「脊髄を電気的に刺激することで、まひの患者と同じようにパーキンソン病による歩行障害を改善できることは非常に印象的です」と述べています。臨床効果を実証するにはより完全な臨床試験が必要なため、研究チームは新たに6人の患者を手術対象として登録しており、今後少なくとも5年間は手法の改善とテストを続けるとのことです。

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in サイエンス,   動画, Posted by log1h_ik

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